第二章1 オーダーメイドしたい
入学前に、もの入りで忙しいのは幼稚園から大学まで変わらないんだな。スーツのパンフレットを何部も見比べてため息が出る。いまいちどれが良いのかわからない。第一、おもっていたより値段が張る。もうスーツ用意しておかなきゃなのに決まらない。どうしたものか。
深優はもう決めたのかしら。彼女に聞いてみてから考え直そうと思い立ち隣室に向かった。
一〇二号室のチャイムを鳴らした。
「ふわぁ、どちらさまですかー。あ、鈴」
隣の住人はあくびをしながらのっそり出てきた。なんて不用心なんだ。
どうぞ、とうながされお邪魔する。
「若い女性がそんな無防備にでたりしちゃダメじゃない……」
と注意しても、大丈夫ですよ、今だって鈴だったですし、なんてあくび混じりで返された。そういう問題じゃないのよ、と口から出かけて飲み込んだ。たぶんピンとこないだろう。
「また徹夜したの?」
口元を隠す手からはみ出すほどの大きいあくびをしている深優を見て、尋ねた。
「ええ、昨夜から筆がのってきたもので、ついそのまま書きすすめていたら太陽のぼっていました」
作家も大変だな、とつくづく思う。こんな地道で手間のかかる作業を続けるんだもの。
「それで、今日はどうしたんですか」
あくびはやっと収まってきたのか、涙をふいて聞いてきた。
「深優は入学式のスーツ、もう用意してある?」
そう聞けば彼女は、ああ、と納得したような声を出した。
「わたしは仕立ててもらうので出来上がり待ちです」
「え、オーダーメイドなの!?」
「まあ、そうなりますね、ある意味」
ふつうに企業規格で作られたスーツを買おうと思っていたけど、みんな特注で作るものなのかしら。
すこし困惑したような表情を浮かべた深優は、そうじゃなくて、と言葉を続ける。
「瑠璃子さんにはお会いしましたか」
ここで二〇三号室の瑠璃子さんの名が出てくるとは予想外で、挨拶はしたけど、と答えた。
「瑠璃子さんに服着せられる、なんてことありませんでした?」
「なんかモデルにされたよ。なんでわかった?」
私の答えにやっぱり、と言いたそうな顔をした。
「あの方の趣味って、女の子に服をコーディネートすることなんですよ」
苦笑いしながら話す深優から彼女もモデルになったのが想像ついた。でもそれとオーダーメイドがどう関係するのかしら、と聞けば
「たまに付き合ってリアル着せ替え人形になるんです。それでそのお礼にスーツ仕立ててあげるっておっしゃって」
と嬉しそうに言った。
「ああ見えてもけっこう腕のたつデザイナーさんですからね。お願いしたんです」
「そうなのか。それはうらやましいわ。私あんまり服のセンスないからデザイン選ぶの苦労しててさ」
深優に選ぶポイントなり聞こうと思っていたけど、それなら瑠璃子さんに尋ねたはほうが良いかしら。
うーん、と悩んでいたら、鈴もお願いしてみてはどうですと提案してきた。
「そんなまだ付き合いも浅い私が、おこがましくないかしら」
「きっと大丈夫ですよ。可愛い鈴が、モデルになってリアル着せ替え人形お付き合いします、って言えば喜んで受け入れてくださりますよ。わりと楽しいですし」
まあちょっと体力いりますけど、と小さく言って苦笑していた。体力使う? モデル代わりみたいなものだろうに、そんなに疲れるのかしら。深優ってそんな体力なかったっけ。
「でも。今から仕立てて間に合うかしら。他の仕事もあるでしょうし」
「なら今すぐいきましょう!」
え、今から? と言うのも止めず、彼女は私の手をとって玄関へ向かった。




