第一章17 画家の反応
食後のデザートを味わいながら、その画家さんにはいつ会えるのだろうと思った。深優に聞いてみれば、
「そうですね、今の時期だとアトリエで過ごすことがほとんどでしょうし。寝に帰るか、道具をとりに戻るときがあるくらいだと思います」
と頬に手をあてて話す。それに、と彼女は付け加えて
「コンテストが終わるまでは挨拶してもそっけない反応しか返ってこないのでは」
と言った。
「じゃあ機会があればって感じなのね」
深優が楽し気に話す人に、興味をひかれていたがすぐには会えそうにないと知って少しがっかりした。コンテスト後でもかまわないと思いますよ、と深優がほほ笑んだ。
夕飯の買い物から帰ると、ふらりと青年がさくら荘に入って来たのを目の端でとらえた。公園で見かけた画家だった。着ている白いワイシャツには絵具がところどころ付いていた。髪は襟足が少し伸びていて、ゴムで軽くしばっている。何かを考えているような表情をして、視線は焦点があってないようだった。けれども目は凛と輝いていた。創作の事を考えているのだろうか。
この人が深優の言っていた二〇一号室の住人さんか。少し声をかけづらかったが、次にいつ会えるかわからない。思い切って挨拶してみた。
「こんばんは、新しく引っ越してきた神月といいます」
おずおず声をかけると、
「……あぁ。どうも。……岡本です」
とだけ答えると、私の顔をそれほど見るわけでもなく二〇一号室に入っていった。深優の言ったとおり絵描きの反応は薄く、つかみどころがなかった。
私も自室に戻ろうとドアのところに歩いていく頃には、もう岡本さんは部屋から出てきてさくら荘を出ていった。腕に箱を抱えていたところを見るに、道具をとりに戻っただけなのだろう。
アパートの住人すべてに挨拶を済ませたものの、これからどんな付き合いが始まるのやら。この先のことを考えて、頭が重くなった。
このさくら荘には珍獣が住んでいるみたいじゃないか、と苦笑いした。




