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さくら荘の珍住人  作者: 和泉あや子
第一章 挨拶まわりの壁
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第一章16 創作者同士

 どうしてそんなに優しそうな表情で話すのだろう、と疑問に思いながらも、なぜ今は二〇一号室の住人に会えないのか。理由を尋ねると、深優は壁に掛かっているカレンダーに目をやった。

「もうすぐコンテストなんですよ」

 彼女の言葉に、口元にもっていったシュウマイが口に入る前で止まった。なんの? と聞くと

「絵です。彼、画家さんですから」

 と言った。深優はつづけて、今の時期だとアトリエと二〇一号室、どちらで描いてるんですかね、とご飯を口に運びながらつぶやいた。そうなのか。だから公園で絵を描いている人を見かけたりしたんだ。納得してシュウマイを頬ばった。このあたりは絵描きが多いのだろうか。

「ここからはちょっと離れていますけど、芸大もありますからね。あの人もそこの卒業生なんです」

 二〇一号室の住人のことを話す深優は楽しそうだった。

「口数はあまり多い方ではないですけど、良い人ですよ」

 なんだ、また変な人が住んでいるのかと想像していたがほっとした。それにしても彼女はそんなにその画家と仲が良いのだろうか。

「深優、その人について詳しいね。けっこう交流あるの?」

 え? と私の言葉に驚く彼女。スプーンから炒飯がボロッと落ちた。慌てて拭きとる様子を見ていて、首をかしげた。急にどうしたのかしら。私なにかまずいこと言っちゃったかな。

「べつに特別仲良いわけではないですけど、その。分野は違っても創作者同士、話しをする程度です」

 いつもはゆったりと話す深優には珍しく、早い口調だった。そうなの、と相づちをうった。これは別の話題をふったほうが良いだろうか。

「そういえばさ、今日散策していたら高台の公園に行きついたんだ」

「たぶん幸せの丘公園ですね」

 話題が変わって明らかにほっとした表情を見せた。

「公園の名前、そんな名称なんだ。素敵な名前」

 ですよね、と深優がほほ笑んだ。

「クローバーが芝の代わりに植えられているから由来した名称なんです」

 なるほどね、とうなずいた。小説にも書いた場所なんですよ、と生きいきとしゃべる。画になる景色だもんね、と返せば、深優がそうなんですとにっこり笑った。

「そういえば絵を描いてる人いたよ」

 今朝見た青年の話しをした。私の話しを聞いた深優は、飲んでいたお茶でむせそうになった。

「たぶんその方だと思います」

 そうなの!? と今度はこちらがご飯を喉に詰まらせかけた。二〇一号室の画家はもっと歳がいった人かと思っていたが、予想以上に若かった。


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