第一章14 開かずの二〇一号室
この街に来てからずっと聞いているラジオ局を流した。ラジオがあればいいからと、テレビは持ってこなかったがそれが良かったように思う。静かだった部屋に明るいパーソナリティーの声が響いた。深優の投稿がよく採用されていて、さすが作家は書き方が巧いから聞いていて面白い。今日も深優の投稿読まれるのかな、と思いながら聞くのが密かに楽しみだった。私も投稿してみようかしら。
ラジオの音をBGMにお昼の支度にとりかかる。野菜に包丁を入れながら、越してきて数日のことを振り返ってみる。
ご近所さんへの挨拶まわりはあと二〇一号室のみとなった。ここまでで、頑張ったほうだよね。不安だった挨拶まわりは、第一印象「引っ込み思案な人」の回避は上手くできたかも、と一瞬思った。
が、思い返すと深優のとき、松岡のおじいちゃまや威勢のいい高山さんのときも、私が勝手に怖がりながら自己紹介してたことに気づき、切っていた野菜を落としそうになる。
でも瑠璃子さんのときは――あのテンションの高さに面食らったけど――それなりに笑って名乗れたんだし、ちょっとずつでも成長できてるかしら。
残りの二〇一号室の住人に対しても、口角を引きあげることを忘れずすればいいかな。
夕方には最後の挨拶まわりを済ませようと決め、出来上がったご飯を頬ばった。
二〇一号室のチャイムを押してみたが、返答がない。郵便受けにはチラシがたくさん挟まったままだった。
居ないのかしら。
もう一度チャイムを鳴らしても静かだったので後日にすることにする。
自室に戻ろうと階段に向かって歩いたら、ちょうど高山さんの奥さん真美さんと、舞ちゃんが帰宅したところだった。
「先ほどはどうも、鈴さん」
奥さんがにこやかに言った。
「二〇一号室にご挨拶?」
手に持っていた菓子折りを見て聞いてきた。ええ、でもお留守みたいで、と返すと
「いつもそうみたい。居るのか、居ないのかわからないの。一度お会いしたことあるんだけど、ちょっと謎よね」
首をかしげて、良い人そうなんだけど、と話して自室に戻っていった。
最後の挨拶もこれは結構な壁なのかしら。がっくり肩を落として私も部屋に戻った。




