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『処刑される悪役令嬢に転生した……はずなのに、なぜか赤ちゃんから人生をやり直しています!~家族を救いたいだけなのに、公爵家のみんなが私を溺愛しすぎです~』  作者: 五十嵐紫
第2章「赤ちゃんですが、未来を変えます!」

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第4節 家族に知られた、小さな秘密

――どうしましょう。


 私の秘密が、そろそろバレそうです。


「……うぅ」


 朝の柔らかな光が差し込む寝室で、私は小さく唸った。


 昨夜、窓の外に現れた不審な人物。


 私が必死に知らせたおかげで、マリアが異変に気づき、お父様たちが駆けつけてくれた。


 そこまではよかった。


 問題は、そのあとだ。


 私がお父様に抱き上げられた瞬間、月鈴花が光ってしまったのである。


 しかも、マリアだけでなく、お父様まで見てしまった。


 ……これは、まずい。


 お父様は、あの光をどう思ったのだろう。


 もしかして、私の魔力に気づいた?


 いや、さすがに赤ちゃんが魔法を使っているとは思わないはず。


 でも。


 この世界には、本当に魔法がある。


 普通ではない現象が起きれば、魔力を疑われてもおかしくない。


「……あぅ」


 私は小さな拳を握った。


 どうか、変なことになりませんように。


「リリア様、おはようございます」


 侍女のマリアが、いつもの優しい笑顔で入ってきた。


「今日もよく眠れましたか?」


「あー」


「ふふっ。元気なお返事ですね」


 マリアは私を抱き上げながら、少しだけ表情を曇らせた。


「昨日は怖かったですね」


 ……はい。


 かなり怖かったです。


「でも、もう大丈夫ですよ。旦那様が警備を増やしてくださいましたから」


 マリアは窓の外を見た。


「庭園にも、騎士の方がいらっしゃいます」


 私はそちらへ視線を向けた。


 確かに、遠くの小道に鎧を着た騎士が立っている。


 ……よかった。


 少なくとも、昨日のように簡単には近づけないはず。


「それにしても……」


 マリアが小さく呟いた。


「リリア様は、本当に不思議なお嬢様ですね」


 ――えっ。


 私は固まった。


「昨日も、まるで外に誰かがいると分かっていたようでした」


「……あぅ」


「ふふっ。偶然かもしれませんけれど」


 マリアは優しく微笑んだ。


「でも、私はリリア様のおかげで気づけたと思っています」


 ……マリア。


 私は胸が温かくなった。


 疑われているわけではなさそうだ。


 むしろ、感謝してくれている。


 私は小さな手を伸ばし、マリアの指に触れた。


「まあ!」


 マリアが嬉しそうに笑う。


「ありがとうございます、リリア様」


 ……こちらこそ。


 いつも守ってくれて、ありがとうございます。


     ◇


 その日の午前中。


 お父様の執務室では、昨夜の不審者について話し合いが行われていた。


「……結局、捕まらなかったのか」


 アレクシスは、机の上に置かれた報告書を見つめた。


「申し訳ございません」


 執事長が頭を下げる。


「外壁付近で足跡を確認しましたが、途中で途切れておりました」


「魔法を使った可能性は?」


「ございます。追跡した騎士によれば、足跡の周囲にわずかな魔力の残滓があったそうです」


 アレクシスの目が細くなった。


「……転移魔法か」


「断定はできません。ただ、普通の侵入者ではないことは確かです」


「そうか」


 アレクシスは静かに息を吐いた。


「リリアの部屋を狙った理由は?」


「まだ分かっておりません」


 執事長は一度、言葉を切った。


「ですが、現場で一つだけ見つかったものがございます」


「何だ?」


 執事長が小さな布袋を差し出した。


 中には、黒い金属片が入っていた。


 月を思わせる曲線。


 そして、その中央に刻まれた小さな紋章。


「……これは」


 アレクシスが眉を寄せる。


「例の封蝋と、似た印です」


「やはり、つながっているのか」


「その可能性が高いかと」


 アレクシスは金属片を手に取り、慎重に眺めた。


「『月の守り手』……」


 執事長が顔を上げる。


「旦那様?」


「王都の紋章商の帳簿に残っていた言葉だ」


「はい」


「この印と、何か関係があるのかもしれない」


 アレクシスは金属片を布袋に戻した。


「調査を続けろ。ただし、王宮にはまだ知らせるな」


「よろしいのですか?」


「今は情報が少なすぎる」


 アレクシスの声が低くなる。


「それに、王宮のどこまで信用できるか分からん」


 執事長は静かに頷いた。


「承知いたしました」


「……リリアには、何も起こさせない」


 その言葉には、強い決意が込められていた。


     ◇


 昼過ぎ。


 私はお母様の腕の中で、庭園を眺めていた。


「リリア、今日は少しだけお外の空気を吸いましょうね」


「あぅ!」


「ふふっ。嬉しい?」


 もちろんです!


 ずっと部屋にいると、さすがに退屈してしまいますから。


 とはいえ、昨日のことがある。


 庭園に出るのは少し怖かった。


 けれど、お母様のそばには騎士が二人ついている。


 マリアも一緒だ。


 ……これなら、大丈夫かな。


「奥様、こちらへ」


 マリアが日差しの柔らかな場所へ案内する。


 そこには、小さな白い花が咲いていた。


「まあ、綺麗ね」


 お母様が微笑む。


「リリア、見てごらんなさい」


「あー」


 私は花を見つめた。


 月鈴花とは違う、小さな花。


 風に揺れる姿が、とても可愛らしい。


「この花はね、春になるとたくさん咲くのよ」


 お母様は優しく話しかけてくれた。


「リリアがもう少し大きくなったら、一緒に花冠を作りましょうね」


 ……花冠。


 いいですね。


 お母様と一緒に作れたら、きっと楽しい。


 私は小さな手を伸ばした。


 すると。


 ――ふわり。


 花びらが一枚、風に乗って舞い上がった。


 そして、私の手のひらに落ちた。


「……!」


 私は驚いた。


 今、風が吹いた?


 それとも……。


「まあ!」


 お母様が目を輝かせた。


「お花がリリアのところへ来てくれたみたいね」


「ふふっ。本当に」


 マリアも微笑んだ。


 ……よかった。


 今のところ、不思議には思われていない。


 でも。


 私は少しだけ不安になった。


 もし、私の魔力が無意識に動いているのなら。


 いつか、もっと大きなことが起きるかもしれない。


 ……ちゃんと、制御できるようにならなきゃ。


     ◇


 その日の夕方。


 お兄様が私の部屋を訪れた。


「リリア!」


「あぅ!」


「今日は、特別なものを持ってきたよ!」


 お兄様は嬉しそうに笑った。


 手に持っていたのは、小さな透明の石だった。


 淡い青色に輝く、美しい石。


「これはね、魔力に反応する石なんだ」


 ――えっ。


 私は目を見開いた。


 魔力に反応する石?


 ……それって、かなり危険なものでは!?


「先生から見せてもらったんだけど、すごく綺麗だったから、リリアにも見せたくて」


 お兄様は石を私の目の前に差し出した。


「ほら、見て!」


 ……お兄様。


 お気持ちは嬉しいです。


 でも、ちょっと近いです!


 私は思わず身体をこわばらせた。


 すると。


 ――ぽうっ。


 石が、淡く光った。


「……え?」


 お兄様が固まった。


 ……あ。


 やってしまった。


「今、光った?」


 お兄様が石を見つめる。


「……あぅ」


 私は必死に知らないふりをした。


 ……何も知りません。


 ただの赤ちゃんです。


「おかしいな」


 お兄様は首を傾げた。


「僕が持っているだけでは、光らなかったのに」


 ……それは、つまり。


 私の魔力に反応したということでは?


「もう一度……」


 お兄様が石を近づけようとした、そのとき。


「レオンハルト」


 扉の向こうから、お父様の声が聞こえた。


「何をしている?」


「父上!」


 お兄様が振り向いた。


「リリアに、魔力の石を見せていたんです!」


 ……お兄様!


 正直に言いすぎです!


「魔力の石?」


 お父様が眉を上げた。


「はい。先生から借りたものです」


「そうか」


 お父様は私を見つめた。


 そして、石へ視線を移す。


「……光ったのか?」


 ――えっ。


 どうして分かったんですか!?


「はい!」


 お兄様が元気よく答えた。


「リリアに近づけたら、少しだけ光ったんです!」


 お父様はしばらく黙っていた。


 ……怖い。


 ものすごく怖いです。


 怒られるのかな。


 それとも、魔力測定をされる?


 私は小さな手を握りしめた。


 すると、お父様が静かに口を開いた。


「レオンハルト」


「はい」


「その石は、先生に返しておきなさい」


「えっ?」


「魔力に反応する道具は、扱い方を間違えると危険なこともある」


 お兄様は少し残念そうにした。


「……分かりました」


「リリアに見せたい気持ちは分かる。だが、まだ幼いからな」


「はい、父上」


 お兄様は素直に頷いた。


 ……よかった。


 お父様は、怒っていない。


 でも。


 その表情は、どこか真剣だった。


「リリア」


 お父様が私を抱き上げた。


「……怖くなかったか?」


「あぅ」


「そうか」


 お父様は優しく微笑んだ。


「大丈夫だ。何があっても、お父様が守る」


 私は胸が温かくなった。


 ……お父様。


 ありがとうございます。


 でも。


 いつか、私も守る側になりたいんです。


     ◇


 夜。


 私は寝台の中で、今日の出来事を思い返していた。


 月鈴花。


 魔力の石。


 そして、無意識に動く風。


 ……もう、偶然では済まされない気がする。


 私には、何か特別な魔力がある。


 それだけは、ほとんど確信していた。


 でも。


 その力が何なのかは、まだ分からない。


 守護の力?


 癒やしの力?


 それとも、まったく別の何か?


「……うー」


 私は小さく息を吐いた。


 もし、この力が家族を守るために使えるのなら。


 もっと知りたい。


 でも、今はまだ赤ちゃんだ。


 無理に使おうとして、身体を壊してしまったら意味がない。


 ……焦らない。


 少しずつ。


 私は目を閉じた。


 胸の奥にある温かな感覚を思い出す。


 すると。


 ――ちりん。


 窓際の銀色の鈴が、小さく鳴った。


「……!」


 私は目を開いた。


 月鈴花が、淡く光っている。


 そして。


 その光の中に、ほんの一瞬だけ。


 小さな紋様が浮かび上がった。


 ……え?


 私は目を凝らした。


 月を思わせる曲線。


 その中央に、小さな星のような形。


 ――これって。


 どこかで見たような……。


 私は必死に記憶を探った。


 ゲームの中で?


 それとも、転生してから?


 ……思い出せない。


 けれど、その紋様を見た瞬間。


 胸の奥が、なぜかざわついた。


「……あぅ」


 私は小さく声を漏らした。


 すると、紋様はすぐに消えてしまった。


 ……今の、何だったの?


 私はしばらく月鈴花を見つめていた。


 でも、もう何も起こらない。


 ただ、白い花が静かに揺れているだけだった。


     ◇


 翌朝。


 お父様の執務室では、執事長が一通の書類を差し出していた。


「旦那様。昨日見つかった金属片について、調査結果が届きました」


「……何か分かったか?」


「はい」


 執事長は静かに頷いた。


「この紋章は、古い守護魔法に関係するもののようです」


「守護魔法?」


「はい。詳しい記録は残っておりませんが、かつて『月の守り手』と呼ばれる一族が使っていた印に似ているそうです」


 お父様の表情が険しくなった。


「……月の守り手」


「はい」


「その一族は、今も存在するのか?」


「分かりません。古い記録では、すでに途絶えたとされています」


 お父様はしばらく黙り込んだ。


「……そうか」


 そして、静かに言った。


「調査を続けろ。ただし、誰にも気づかれるな」


「かしこまりました」


 執事長が頭を下げる。


 お父様は窓の外を見つめた。


「リリア……」


 その声には、深い心配が滲んでいた。


「お前は、いったい何に巻き込まれようとしているんだ……」


     ◇


 同じ頃。


 私は、お母様の腕の中で、穏やかな朝を迎えていた。


「リリア、今日はお兄様が一緒に遊んでくれるそうよ」


「あぅ!」


「ふふっ。嬉しい?」


 もちろんです!


 お兄様と過ごす時間は、とても楽しい。


 でも。


 昨日の夜に見た、不思議な紋様が気になっていた。


 月のような形。


 小さな星。


 そして、胸の奥に残る温かな感覚。


 ……あれは、何だったのだろう。


 私はまだ、その答えを知らない。


 けれど。


 少しずつ、何かがつながり始めている気がした。


 ゲームにはなかった魔力。


 謎の紋章。


 公爵家を狙う人物たち。


 そして、王太子との婚約話。


 ……全部、偶然なのかな。


 それとも。


 最初から、何か大きな秘密が隠されていたのだろうか。


「リリア?」


 お母様が優しく声をかける。


「難しいお顔をして、どうしたの?」


「あぅ」


「ふふっ。大丈夫よ」


 お母様は私の額に、そっと口づけた。


「何があっても、あなたは私たちの大切な娘だから」


 ……お母様。


 私は胸がいっぱいになった。


 その言葉だけで、心が温かくなる。


 そうだ。


 たとえ、どんな秘密があったとしても。


 私は、リリアーナ・フォン・アルヴェルディ。


 この家族の娘だ。


 それだけは、絶対に変わらない。


「……あぅ!」


 私は小さな手を伸ばした。


 お母様の指を、ぎゅっと握る。


「まあ、リリア」


 お母様が嬉しそうに笑った。


「甘えん坊さんね」


 ……はい。


 今は、そういうことにしておいてください。


 いつか。


 ちゃんと、自分の言葉で伝えます。


 お父様も、お母様も、お兄様も。


 大好きだって。


 そして。


 絶対に守るって。


 ――その頃。


 王都の薄暗い一室。


 黒い紋章の指輪をはめた人物が、一通の報告書を読み終えていた。


「……守護の反応が、強まっている」


 その人物は静かに呟いた。


「だが、まだ完全ではない」


 机の向こうに立つ黒い外套の男が尋ねる。


「では、次の指示は?」


「急ぐな」


 指輪の人物は、窓の外を見つめた。


「今は、公爵家の動きを見ていればいい」


「……王家については?」


「そちらも監視を続けろ」


 しばらくの沈黙。


 そして、低い声が続いた。


「もし、王太子があの子に近づくなら……」


 その人物は、指輪を静かに撫でた。


「そのときこそ、すべてが動き出す」


 窓の外では、朝日が昇り始めていた。


 誰にも知られないまま。


 リリアーナの運命は、少しずつ新しい道へと進み始めていた。


 そして、その先には。


 ゲームの物語とは違う、まだ誰も知らない未来が待っているのだった。


===== END EDITED =====

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