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09.俺の方がマシだろ?

 考え事をしていたマティアスのもとに調査報告書の第一報が届いた。

 

 フローラ・ロイター。

 十二月三日生まれ、十七歳。

 

「あと八日で十八歳か」

 前ロイター男爵であるマルクス・ロイターと妻ローゼマリーの長女。

 母ローゼマリーはフローラが三歳の時に事故で他界、父マルクスは五歳の時に病気で他界。

 父の弟ジャンが男爵位を継ぎ、男爵夫人、十六歳の娘のシャーロットと一緒に男爵邸で生活しているが、養子にはなっていなかった。

 

「男爵家は困窮しており、数年前から使用人は家令と彼女だけだった……か。酷いな」

 マティアスは呆れながら報告書を机に置いた。

 

 彼女の手はボロボロでとても男爵令嬢とは思えなかったが、叔父に使用人扱いされていたのであれば、あの手でも納得できる。

 そして金のために結婚という名目で売られそうになっているということか。

 

「叔父は最低な男だな」

 魔法の火の鳥が窓をすり抜けマティアスのもとへやってくる。

 

「父から返事か」

 マティアスが手のひらを差し伸べると、火の鳥は行儀よく手の上に乗った。

 

『ヨハンをそちらに行かせる。その女性も診察を受けさせてくれ。引き止めるためなら金も宝石も惜しまない』

 伝言が終わるとボワッと鳥は燃えて消える。

 

「ヨハン様のお部屋の準備をしておきます」

「頼む」

 フローラはあと八日で十八歳。

 本人不在のまま結婚は無理だと思うが、非常識な男爵が強硬手段に出るとも限らない。

 マティアスは腕を組みながら天井を見上げた。


    ◇

 

 ふかふかなベッドでうっかり寝過ごしてしまったフローラは、一緒にブランチを食べ終わったマティアスの言葉に耳を疑った。

 

「結婚しよう」

 マティアスの彫刻のように整った顔は昨日と変わらないけれど、聞こえてきたのはあり得ない単語だ。

 

「……あの……なんとおっしゃいましたか……?」

 変な言葉が聞こえた気がする。

 フローラはアレクシスにギュッと握られた手をそっと抜きながらマティアスに尋ねた。

 

「……俺と結婚しないか?」

 聞き間違いじゃなかった!

 

「アレクシスには君が必要だ。だが君は十八歳になると誰かと結婚させられてしまうのだろう?」

 そう、あと八日で私は叔父がきめたランス伯爵のもとに嫁がなくてはいけない。

 だからヴェルナー伯爵に会うためにこの国へ来たのだ。

 ヴェルナー伯爵に会うにはどうしたら良いか教えてもらって、今日このあと街まで行って乗合馬車で向かおうと思っていたけれど。

 

「俺と結婚すれば、君は逃げ出すほど嫌な相手と結婚しなくてすむ。アレクシスは君にずっとそばにいてもらえる。契約結婚だと思ってくれればいい」

 夫婦生活は求めない、社交界も参加しなくていい、ただアレクシスの世話係としてこの屋敷に住んで欲しいと言われたフローラは目を見開いた。

 

「……契約結婚?」

「期限はとりあえず一年。その後はアレクシスの体調次第で延長を求める可能性もあるが、離縁しても十分暮らしていけるだけの援助は約束する」

 ロイター男爵が来ても追い返す、結婚相手が来たとしても俺と結婚してしまえば、相手はどうすることもできない。

 だからどうだろうかとマティアスはフローラに申し出る。

 

「でも、ランス伯爵に逆らえるわけが……」

 うちは男爵。伯爵の申し出は断ることができない。

 

「ランス伯爵というのが結婚相手か? ならば問題ない。うちは公爵だ」

「公爵……!」

 嘘でしょ。

 公爵って言ったら貴族のトップ!

 男爵では話しかけることすら許されないほど雲の上の方だ。

 

「逃げ出すくらいだ。相手を気に入っているわけではないだろう?」

「はい。一度しか会ったことがないおじいさんです」

「そんな男よりは俺の方が若いだけでもマシじゃないか?」

 どうだ? と聞かれたフローラはマティアスと目が合い真っ赤な顔になった。

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