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04.誘拐犯?

「あの、すみません! 教えてください!」

 木陰から出たフローラは、黒い騎士服を着た三人の男性に気づいてもらえるように大きく右手を振る。

 

「マイアー街に行きたいんですけど、このまま真っ直ぐで……」

「アレクシス!」

 馬から降りた騎士のひとりがフローラに駆け寄る。

 

 アレクシス?

 この子の名前?

 もしかしてこの黒髪の人がお父さん?

 

「その子をこちらに」

 彫刻のように整った顔でフローラに手を伸ばしてきた男性に、フローラは素直に赤ちゃんを手渡す。

 

「無事でよかった」

「……ふえっ」

 ホッとした表情を男性が見せた瞬間、赤ちゃんは目を開けて大声で泣き始めた。

 

「この子を誘拐してどうするつもりだったんだ?」

「誘拐なんてしていません! 女性に頼まれたんです」

 見知らぬ女性に勝手に預けられて、馬車からも置いて行かれて、抱っこしたままここまで何時間も歩いてきたのに誘拐だなんて酷すぎる!

 

「嘘をつくな」

「嘘じゃないです!」

 フローラと男性が言い合いをしている最中も赤ちゃんは大泣きなのに、この男の人はあやす気配がない。

 

「泣いていて可哀想じゃないですか! 父親ならちゃんとあやしなさいよ!」

「この子はいつも泣いているんだ」

「そんなの嘘よ、さっきまで泣いていなかったもの!」

 見かねたフローラが赤ちゃんを男性から奪い返し抱きかかえると、大泣きだった赤ちゃんの泣き声はピタリと止まった。

 

「あうあう」

「あら、あなたの目も赤いのね」

 やっぱりこの人と親子なんだ。

 明るいところで起きた姿を見るのが初めてだったフローラは、呑気に「綺麗な目ね」と呟く。

 

「……嘘、だろ……? アレクシスが泣き止むなんて……」

 信じられないと呟いた後、男性は騎士たちと顔を見合わせる。

 

「あう~」

 むちむちの手首をご機嫌で動かす赤ちゃんをみんなで不思議そうに眺めている姿にフローラは首を傾げた。

 

「あの、ベルンブルグってわかりますか? 女性がこの子をベルンブルグにって言って倒れたんです」

「……俺はマティアス・ベルンブルグだ」

「やっぱりこの子のお父さん!」

 ベルンブルグは街の名前ではなく、貴族の名前だったんだ。

 

「いや、その子の父親は俺の兄だ」

 少し目を伏せながら父親じゃないと否定するマティアスと、微妙な雰囲気になってしまった騎士たち。

 お父さんって言われたのがそんなに嫌だったのかな?

 

「君の名前は?」

「フローラです。フローラ・ロイター」

「アレクシスを助けてくれた礼がしたい。一緒に来てもらえないだろうか?」

 マティアスに差し伸べられた手をフローラはジッと見つめる。

 どうしよう。

 この子を渡して、私はヴェルナー伯爵を探しに行きたいけれど。

 

「お礼の代わりに、マイアー街まで連れて行ってもらうことってできますか?」

「マイアー街に用事が?」

「いえ、行きたいのはツヴァイク王国なんですけど」

 チラッとマティアスの様子をうかがったフローラは、なにやら考え込んでしまった彼の表情に肩をすくめた。

 

「あの、変なお願いをしてすみません。この道を真っ直ぐでいいですよね」

 じゃ、この子を連れて行ってくださいとマティアスに渡すと、アレクシスは再び大声で泣き始めた。

 

 なんでそんなに大泣き?

 抱っこが下手なの?

 それとも彫刻のように美しい顔が怖いの?

 再びフローラの腕の中に戻されたアレクシスはピタッと泣き止む。

 

「……君じゃないとダメみたいだ」

 そんなこと言われても!

 私は早くヴェルナー伯爵を探したいのに!

 

 フローラは「きゃっきゃ」と上機嫌に笑うアレクシスの笑顔を見ながら盛大な溜息をついた。

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