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【コミカライズ原作】1年限りの契約婚(公爵様の溺愛付き!)~英雄の継母になった私は、どうやら聖女の末裔のようです~  作者: 和泉


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25.金の粒

 微笑む両親、春の花が咲くロイター男爵邸の庭、澄み渡った青空、まぶしい光。

 身体がふわふわして、手のひらが燃えるように熱いけれど、この状態はいったい何?


「フローラ! 大丈夫か? なにがあった?」

「……マティ様?」

 マティアスにグラスを持った手と肩をがっちり支えられているのはなぜ?

 目の前には心配そうな顔をしているマティアス。


「グラスを、こちらへ」

 フローラはマティアスに言われるがままグラスからそっと手を離した。

 マティアスはグラスをダイニングテーブルに置くと、フローラを椅子に座らせる。


「大丈夫か? 気分は? 横になった方がいいか?」

 椅子に座っても支えられているけれど、どういうこと?


「あ、えっと、大丈夫です……?」

 ロイター男爵・夫人・シャーロットの三人分のシーツを洗濯して干したときくらいの疲労感はあるけれど、どうしてそんなに心配しているの?


「水が飲みたかったのか?」

 先ほどまでフローラが握っていたグラスを取ろうとしたマティアスの手が止まる。

「……何か浮いて……?」

 水をグラスに注いだ時には入っていなかったような気がするけれど、金色の粒が入っている?

 水の表面は揺れていないのに、水の中で動き続けている不思議な金の粒。


「聖水?」

 マティアスは左手をフローラの肩に添えたまま、右手でグラスを取った。


 揺らせば水も揺れ、金の粒も揺れる。

 手を止めると水面は静まるが、中の金の粒は動いたままだ。


「フローラ、この水はどこから?」

「あの水をそこに置いてあったグラスに注ぎました」

 フローラが指を差したのはダイニングテーブルの真ん中に準備されたグラスとピッチャーに入った水。

 いつも侍女が準備してくれている普通のグラスと普通の水だ。


「手を離すけれど、大丈夫か?」

「だ、大丈夫です」

 フローラの肩からゆっくりを手を離したマティアスは新しいグラスにピッチャーの水を注いだ。

 無色透明な水の匂いを嗅ぎ、口に含んだマティアスは「普通の水だ」と呟く。


「マティ様、ごめんなさい。あの日記帳に書いてあったからちょっと試してみようと思って、勝手にグラスと水を使ってしまって……」

「見てもいいか?」

「は、はい」

 マティアスはフローラのために書き写されたノートを手に取り、目を通していく。


『グラスに水を入れて両手で握る。楽しいこと、嬉しいことを思い浮かべる。

 温かい幸せな気持ちを手に集めるようにイメージする。

 金の粒が多ければ多いほど癒しの効果が多い。

 金の粒が見えない場合、残念ながら癒しの力は秘めていない。

 だが気に病むことはない。なぜなら癒……』

 ここで侍女のマリが書き写した二ページ目が終わっている。


「金の粒、癒しの水……」

 マティアスはノートを母親の日記帳 の上に戻すと、ヨハンを呼ぶように侍女に頼んだ。


「はいはい、アレクちゃん。今度はどうしたのかな~?」

 頭をボリボリ掻きながら入室したヨハンは、そのままアレクの所へ。

 すやすや眠るアレクを覗き込みながらヨハンは「あれ? 寝ている?」と首を傾げた。


「ヨハン、これを見てくれ」

 マティアスはダイニングテーブルの前のグラスを指差す。


「なんだ、マティか。俺を呼んだ……これどこで手に入れたんだ?」

「聖水か?」

「聖水だよ! 金の粒が多いじゃないか」

 ヨハンはグラスを手に取ると、揺らして、眺めて、下からのぞき込んで、上から見てと、無邪気な子どものように聖水を眺めた。


 そんなにすごいものなの?

 そんなに眺めちゃうくらい?

 自分よりもずっと年上なのに、あまりにも無邪気なヨハンの姿にフローラが驚く。


「よかった。ウワサ通りホルス王国に残っていたんだな。フェリクスの代わりにもらいに行ったんだろ? どのくらいあった? これでアレクの魔力塊をもう少し……どうした?」

 自分に注目しているフローラに気が付いたヨハンは、こほんっと平静を装い、グラスをそっとテーブルに戻した。


「ヨハン、聖水に間違いないか?」

「この金の粒、聖水以外ないだろ」

 おまえも昔、王都のベルンブルグ邸に保管されていた聖水を見たことがあるだろうとヨハンはマティアスに答える。


「昔、聖水はどこから手に入れていたんだ?」

「俺がまだ学生だったから十年前、いや十三年前か? 土の英雄のレクラム公爵が倒れた時に、もう手に入らないと言われて大騒ぎになったが、マティはさすがに知らないか」

 十三年前、マティはまだ七歳。

 火の能力にも目覚めていないので聖水のことも知らなかったよなとヨハンは笑った。


「で、残りの聖水は? どのくらいあるんだ?」

「今はこれだけだ」

「今は?」

 マティアスはフローラと目を合わせたあと人払いをし、フローラの横に座った。

 ヨハンも二人の正面の椅子に腰かける。


「……これはフローラが作った」

 マティアスの予想外の言葉に驚いたヨハンは勢いよくフローラを見る。


「どうやって?」

「母親が残した日記帳があって、そこに書かれていたことを試したらできた」

「できたって、そんな簡単に……」

 ヨハンはフローラとマティアスを交互に見たあと聖水をジッと見つめる。

 腕を組みしばらく止まった後、頭をボリボリと掻いたヨハンは、大きく息を吐いた。

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