22.能力に惹かれる?
「あぁ、歯茎に白い……」
食事中だというのにヨハンは立ち上がりアレクシスのもとへ。
「アレク、あ~」
「あぁう?」
「もう一回。あ~~」
「あぁあ」
「上手だ」
ヨハンはアレクシスの歯を確認するとフローラのスープを指差し、侍女長に人参だけ潰した離乳食にしてほしいと頼んだ。
「あ~! う~!」
アレクシスの口元に人参ペーストが乗ったスプーンを差し出すと、アレクシスはパクッと口に入れる。
「食べた!」
「う~、う~」
「おかわりか?」
マティアスもアレクシスに駆け寄り、じゃがいもを潰したスプーンをアレクシスの口元に。
むぐむぐと食べるアレクシスを三人がジッと見守ると、食べ終わったアレクシスはきょとんと三人の顔を眺めた。
「成長を始めたのかもしれないね」
「魔力塊が減ったからか?」
「可能性の話だけれどね。でも歯も生えたし」
ヨハンとマティアスは席に戻ったあともフローラの腕の中のアレクシスに夢中だ。
「マティアス様、ヨハン様。お料理が冷めます!」
二人の前には手つかずのチキンソテー。
侍女長の声でようやく二人はフォークを持った。
「フローラ様、アレクシス様をお預かり……あら、眠ってしまったのですね」
「お腹いっぱいで眠たくなったんでしょうか」
家令がダイニングのソファーを繋げ、布団を敷き、簡易の寝床を作ってくれる。
フローラがそっと布団に置いても、アレクシスは目覚める気配がなかった。
「では、私が見ておりますので、フローラ様はお食事を」
「はい。ありがとうございます」
侍女長のマナーサポートがないフローラは、チキンソテーをナイフとフォークで食べることに苦戦することになってしまった。
フローラよりも早く食べ終わったマティアスとヨハンは、血液検査の結果を眺めながら考察を始めた。
「こっちが三ヶ月前のアレク、これが昨日のアレク」
「こんなに減っているなんて」
先ほどフローラにイクラ二十粒分だと説明していたが、この数値を見る限り二十粒が十六粒に減ったくらいの計算になる。
「彼女の近くにいると魔力塊が減る。だからアレクは苦しくないから泣かないし、楽になると気づいたから懐いた」
まだまだ仮説だけれどとヨハンは付け加える。
「ヨハン……実は今日、寝たんだ」
「は? おまえ契約結婚って言っていたじゃないか。なんで手を出して……」
寝たを「睡眠」ではなく「フローラを抱いた」という言葉に変換したヨハンの間違いに気が付いたマティアスは、慌てて否定した。
「違っ、七時間も、一度も目覚めずに眠ったんだ!」
「マティが熟睡……? おい、血液をくれ」
魔力塊の数値が下がっているかもしれないというヨハンに、マティアスは積極的に採血をさせる。
「朝から身体が軽いんだ。アレクがフローラに執着する理由がなんだかわかった気がする」
マティアスは口元を押さえながら今まで思ったことがない初めての感情をヨハンに告げることにした。
「側にいると落ち着いて、夜も苦しくなくて。ずっと側にいたいんだ」
「それって、ただ惚れただけじゃ……」
「そ、そうなのか……?」
どちらかというと女性は苦手なのに、フローラだけはなぜか側にいてほしいと思ってしまった。
今思えば、初めて会った日からかもしれない。
一緒に馬に乗っているときも心地良かったが、結婚式で口づけしたときは離したくないと、もっとしたいと思ってしまった。
「あと考えられるのは、マティの魔力が彼女の能力を欲しているとか……かな」
たとえば英雄は聖女に惹かれる運命みたいな感じねとヨハンは冗談交じりで話しながら血液を手際よく自分が開発した検査キットの中へ。
「能力に惹かれる……?」
「そっちの方が可能性が高いかもね。アレクもマティも彼女に夢中だからさ」
惚れているのと能力に惹かれるのは別なのか?
違いがよく分からないとマティアスは悩む。
「そう考えると彼女と結婚したのは僥倖だったかもしれない」
検査キットをまとめながら、ヨハンは一瞬だけフローラの姿を確認する。
マティアスも思わずフローラを見てしまったが、マスカットをのんびりと食べているフローラはこちらの会話は聞こえていなさそうだ。
「気をつけろよ、マティ。彼女の能力が知られれば狙われるよ」
「狙われ……?」
「魔力に苦しんでいるのはおまえたちだけじゃない」
ヨハンの忠告に、マティアスはゴクッと唾を飲み込んだ。




