21.魔力塊って?
侍女長に少し椅子をテーブルから離してもらったフローラは、アレクシスを抱きかかえたまま椅子に座った。
「あ、そうだ。今日、魔力塊や英雄について教える約束だったね」
ヨハンはサーモンのマリネをパクッと口に入れ、フローラに微笑む。
「まず、魔法というのは、魔力がある人が使うことができるんだ」
「魔力……?」
「魔力は血液の中を流れていて」
行儀が悪いけれどと前置きしながら、こんなイメージだとヨハンはサーモンとイクラで魔力が多い人と少ない人の血液を表現した。
「こっちが俺で、このくらいがマティ」
サーモンの上にイクラが二粒乗った状態がヨハン、十粒がマティアス。
「で、これがアレク」
二十粒イクラを乗せたサーモンをその隣に並べながらヨハンは肩をすくめた。
「え、こんなに違うのですか?」
「そう。個人差があって。ホルス王国の人たちは俺のように魔力が少ないのだと思う」
魔力が少ない人は魔法が使えないのだとヨハンは付け加えた。
「えっと、マティ様よりもアレクの方が魔法を使えるということですか?」
「理論上はそうだよ。でもこの魔力って厄介で、魔力塊というものになって詰まってしまうんだ」
本来血液が流れるところだからねと言われたフローラはヨハンのお皿の上のイクラをジッと見つめた。
確かにあれが固まってしまったら血液は流れにくいと思う。
アレクシスはこんなに小さいのにあんな状態だなんて。
「これは年々増えていくんだ。俺のように魔力が少ない者は死ぬまで影響はないけれど、魔力が多い者はいつか詰まって死ぬ。魔力が多ければ多いほど、若いうちにね」
ヨハンはアレクシスの状態の上にさらにイクラを乗せる。
これ以上乗らなくなったイクラは当然のようにバラバラとお皿の上に転がってしまった。
「だからアレクは一年以上生きるのは難しいと言われていたんだよね」
「一年? でもアレクシスは三歳……?」
ヨハンはバラバラになったイクラを端に寄せ、サーモンの上に十五粒乗せる。
「聖水を飲むと、一時的に減るんだ。だけれど、成長すれば段々……」
ヨハンは一粒ずつ乗せ、再び二十粒に戻した。
「防衛本能だと思うけれど、アレクは大きくなるのを拒否しているんじゃないかな」
説明し終わったヨハンはサーモンにイクラを包み込んで口に入れてしまった。
「大きくなると魔力塊が増えてしまうから……?」
「たぶんね。これも魔法だと思うけれど、さすがにそんな事例はなくて」
文献はいろいろ読んだが同じ症例はなかったとヨハンは肩をすくめた。
「聖水? というのをたくさん飲めばもっと魔力塊が減るのではないのですか?」
フローラが素朴な疑問を投げかけると、マティアスもヨハンも表情が暗くなった。
「もうこの国に聖水がないんだ」
マティアスはグラスの水を揺らしながら悲しそうに微笑む。
「この国にないから、兄はホルス王国に……」
そしてその途中で帰らぬ人となったと、マティアスの視線は遠くなった。
ヨハンの前菜の皿が空になり、スープと交換される。
侍女長に食事を促され、アレクシスを侍女長に預けようとしたフローラはアレクシスがよだれを垂らしていることに気が付いた。
「食べたいの?」
大きくなったらねとフローラが笑いながらよだれを拭きとると、アレクシスは「ぶぅ!」と怒る。
やっぱりこっちの言葉がわかっているの……?
「そういえばアレクは歯が生えていたんだな。何も食べないから生えていないと思っていた」
マティアスも前菜を平らげ、スープに変わる。
「……歯が生えただって?」




