19.今日からパパとママ
白いテールコートの新郎マティアス、純白のウェディングドレスのフローラ、白いおくるみに包まれたアレクシス。
家令の手には祝水と額に入った結婚証明書。
侍女長の手には両手いっぱいの白い薔薇の花。
どこからどう見ても結婚式帰りの二人に、ヨハンは頭を押さえた。
「ヨハン様、本日お二人をお引止めするのは野暮でございます」
「まさか初夜を邪魔するなんてことはございませんわよね、ヨハン様」
家令と侍女長がヨハンを足止めしてくれているうちに、マティアスとフローラは二階へ。
ドレスの裾を持ち、フローラが転ばないように甲斐甲斐しく世話をするマティアスの姿にヨハンは倒れそうになった。
「今日からフローラの部屋はここだ」
マティアスが開いた扉の中は、今まで使っていた部屋よりも三倍以上広い。
「私、こんな広いお部屋……」
結婚式をしている間に、フローラの荷物もアレクシスの服もすべてこちらの部屋に引っ越し済み。
客室にはもう荷物はないとマティアスは説明した。
「ここが夫婦の寝室だ」
部屋の中に不自然にある扉をマティアスは照れながら開ける。
「ふ、夫婦……!」
フローラが真っ赤になると、マティアスは急いで言い訳を始めた。
夫婦生活は求めない。
だが、アレクシスと三人でこの部屋で寝てはどうか。
夜中にアレクシスが起きても、自分がいれば何とか出来る日もあるかもしれない。
仕事が忙しくて昼間に会えなくても、アレクシスの寝顔くらい見た方が父親らしいのではないか。
ベッドは一番大きいサイズを購入したから三人でも十分な広さがある。
「でも、どうしても嫌なら別の部屋を……」
普段の冷静なマティアスからは想像できないくらい慌てた姿に思わずフローラは噴き出す。
「大丈夫です。三人で寝ましょう」
「きゃっきゃっ!」
「ね、アレクも嬉しいわよね」
フローラの問いかけにアレクシスは嬉しそうに笑った。
ノックの音が響き、侍女長が薔薇を抱えたまま部屋へと入る。
「では、またあとで」
「はい、マティ様」
寝室の向こうに消えたマティアスを見送ったフローラは、ようやくぎゅうぎゅうに絞められたコルセットから解放された。
「本当はベッドにこの教会からもらった白い薔薇の花びらを敷き詰めるんですよ」
万が一、アレクシスにトゲが刺さってしまうと困るのでできないと残念そうに侍女長は付け加えた。
「本当はフローラ様にジョーゼットのナイトドレスを着せたいのですが我慢しています」
「ジョーゼット?」
「透けているやつです」
「そ、そ、それは無理です」
冗談を言いながらいつものナイトドレスを着せてくれる侍女長に感謝しながらアレクシスと寝室へ。
テーブルの上には祝水と額に入った結婚証明書と白い薔薇。
そしてワインとチーズ、紅茶とお菓子。
「あとで少しだけ話をする時間をもらえないだろうか?」
マティアスのお願いにフローラはもちろんですと答えた。
うとうとし始めたアレクシスをベッドの真ん中に置き、お腹をポンポンと叩く。
「あ~う?」
「朝起きたらパパとママが横で寝ているわ」
「まあま」
アレクシスの言葉にフローラの手が止まる。
「今、ママって!」
ワインを注いでいたマティアスも慌ててベッドに駆け寄った。




