16.3歳
「減る?」
「前はここまで魔力塊があったのに」
ヨハンはノートを開きながらマティアスに説明する。
魔力塊ってなんだろう?
フローラはアレクシスの背中をゆっくりポンポンと叩きながら立ち止まる。
眠りそうで眠らないアレクシスを確認したフローラは、窓際からゆっくりとソファーの方へ歩いた。
「アレク、眠れない?」
「はい。いつもこの時間はお昼寝をしているのですが」
検査結果をノートにメモしながら尋ねたヨハンに、フローラは「今日はなかなか眠らない」と答える。
「一日中ずっと抱っこしているの?」
「普段はベッドに寝かせて、起きるまでは侍女長に見てもらっています」
その間に自分の湯あみや文字の練習をさせてもらっていると話しながら、フローラはアレクシスの背中をポンポンする。
眠そうに擦り寄るアレクシスが可愛いけれど、なかなか眠ってくれないので腕が疲れてきてしまった。
眠るまで抱えているしかないけれど。
「俺たちがいるせいで、なかなか寝付けないよね」
ヨハンはメモをしていた手を止め、ごめんねとフローラに謝罪した。
「君の自由時間を奪ってしまったお詫びにアレクの秘密でもマティの秘密でも、なんでも教えてあげるよ」
ニッと笑うヨハンにマティアスは「やめろ」と焦っている。
こんなに焦っているマティアスは初めてでフローラは思わず笑ってしまった。
もしかして言われたら困る重大な秘密があるとか?
普段はあんなに表情を変えない彫刻みたいな顔なのに。
「えっと、アレクシスなのですが」
「あれ? マティには興味がない?」
「そ、そういうことではなくて」
まずはアレクシスのことが聞きたいとフローラは焦りながら答える。
本当はいろいろと聞いてみたいが、フローラは今一番気になっていることをヨハンに尋ねることにした。
「アレクシスがミルクを飲まないのですが、大丈夫でしょうか?」
フローラがアレクシスと出会ってから九日目だが、アレクシスは一度もミルクを飲まないし、離乳食もまだ始めていない。
侍女長にも相談したが、そういう病気だと言われただけでよくわからなかった。
「ん~と、マティ。どこまで話してある?」
「何も」
「そっか。じゃあまずアレクシスの年齢を教えようか。この子はね、これでも三歳だよ」
「え? 三歳……?」
どこからどう見ても一歳にもなっていなさそうな赤ちゃんなのに?
フローラは腕の中にいる小さな赤ちゃんのアレクシスを見つめる。
「信じられないよね」
「は、はい」
子どもを育てたことはないけれど、三歳だったらもう一人で歩いて、話もできる頃ではないのだろうか?
「病気みたいなものだと思ってもらえばいいよ。成長が止まっているという表現がいいのかな」
「止まっている?」
というのはどういうことだろう?
私も身長はこれ以上大きくならなさそうだけれど、赤ちゃんなのにこれ以上大きくならない?
大きくならないから何も食べない?
それは変だと思う。
大きくならないけれど私は食べているし。
教えられた年齢と全く違う見た目のアレクシスに、フローラは困惑する。
「アレクは生まれた時から魔力が膨大で、魔力塊も多くてね」
「あの、ヨハンさん。マリョクカイってなんですか?」
さっきから何度も会話に出ていた聞きなれない単語を尋ねてしまったフローラは、驚いている二人の顔に気づき、すぐに聞いたことを後悔した。




