63 助っ人
カストルは、子どもたちの状態を確認していく。
ファルコは、既に目を覚ましていた。
精神的なショックを受けた様子ではあったが、受け答えはしっかりできていて、顔色も悪くない。
ヴァレリウスの従者たちの処置で、止血のために巻かれた包帯は緩みも汚れもなく、このままもうしばらく様子を見てもよさそうだった。
「ロザリンド君、怪我をしてから今まで、吐きそうだったり、痛みが凄く強くなったりしなかったかな? ……特になければ、先生はこれから先輩たちを診るから、横になって待っててくれるかな? 眠たくなったら寝てしまって大丈夫だよ。気になることがあったら、すぐに先生を呼んでね」
カストルは安心させる声のトーンで、ファルコの表情も見ながらゆっくりと話した。
「はい……お願いします」
彼は強張った声で、しっかりと頷いて答えた。
(『お願いします』ね……気持ちの方も、今のところ大きく崩れてはいないかな)
カストルは笑顔で応えて、ファルコから離れた。
カストルは、コルヴスとアロエットの顔色や呼吸の様子を見て、アロエットを先に診ることにした。
浅い呼吸で眠る彼女に、「傷を確認するから、毛布をまくるよ」と声をかけてから、カストルは止血に使われていた布を再度出血しないように、ゆっくりと時間をかけて剥がして傷を見た。
左脇腹から走る裂創。そして、ウィリクスの見立て通り左肋骨、左腕、右の手のひらの骨折。
(これは……スパイク付きの鈍器で殴られたね……子どもによくもこんな惨い武器を振るったな)
武器の形状を想像し、不快感のあまり口元をへの字にしながら、カストルは彼女の腰から下に毛布を一枚足した。それから医務室の氷嚢を二人分準備する。
(本来であれば、すぐにでも医師を呼ぶべきなんだろうが……コルヴスとアロエットは、明らかに魔力が安定していない)
カストルからすれば、何かのはずみに、入れ物から魔力が出てきてしまいそうな怖さがあった。
心当たりはあった。
先ほど遠くで感じた、雷のような凄まじい魔術。
(あれはたぶん、この二人のうちのどちらかの仕業だ。アロエットを傷つけられてコルヴスが放ったのか?)
凶悪な武器を向ける断罪人と、急に殺し合いになり、子どもたちはかなり無茶をしたのだろう。
(コルヴスは大量の魔力を解放した反動でこうなっている……か? 『遍在の檻』を内包した人間なんて、一度も診たことがないから推測できないな)
これ以上は情報不足なので、カストルはいったん考えるのを保留にした。
カストルは、「ちょっと向きを変えようね」と小さく声をかけると、コルヴスの体を横向きにし、顎を少し引いて顔を下に向ける姿勢にした。枕元に立てられたスタンドから手拭いで包んだ氷嚢を紐で吊るし、コルヴスの後頭部に添わせるように当てる。
そして、アロエットの左脇腹の傷を冷やすために氷嚢を吊るしていたとき、警備担当者の訪問を告げるノックが、医務室の扉から響いた。
「アロエット・ルチアノ様のお姉様がお見えです。貴賓室でお待ちいただく予定だったのですが……もうこちらにおいでです」
当惑したような声で彼は言った。
(到着が思った以上に早い! さすがルチアノ家だな)
カストルは感心した。そして、アロエットの処置の前に思いがけない強力な助っ人が到着し、うっかり笑顔になりかけて表情を引き締める。
「ありがとうございます。あとは私から説明をさせていただきます」
カストルがそう言うと、担当者は少しだけほっとした表情で頷くと、持ち場に戻っていった。
それも無理からぬことだった。
一体どんな内容の連絡を受け取ったのか、眼帯姿のルチアノ嬢の視線や態度からは、ひりつくような威圧感が漏れ出していた。
「このような時間の、急な訪問をお許しください。アロエット・ルチアノの姉、サンドラ・ルチアノです。妹の迎えのために参りました」
ダークグレーのテーラードスーツを身にまとった令嬢は、眼光鋭くカストルに挨拶をした。
「オルティス学園講師の、カストルです。私もつい先ほど、子どもたち三人を引き取ったばかりで、状況の詳細はわかっておりません。しかし、アロエットさんの傷の処置は急いだ方がよさそうです。ご覧いただけますか?」
カストルは、眉をハの字にして彼自身が戸惑っている状況を訴え、サンドラにお願いをするようにそう言った。
カストルも通常であれば、いくら家族とはいえ、妙齢の女性に傷を見せるような真似はしない。これは、守護神アレッシオ・ルチアノの娘と見込んでの提案だった。
「ぜひ、そうさせてください。カストル先生、ご対応ありがとうございます」
サンドラは威圧感を和らげると、医務室に静かに入ってきた。
続きは、また明日。18:30頃に。




