56 神の雷
フュイは、転がった先で呻き声を上げるアロエットを見やり、笑いながら気の抜けた声で言った。
「あーあ、壊れちゃった。ごめんね、君が強いから、加減できなかったんだ。でもいいよね? とりあえず、生きてたらいいってヴェスも言ってたし」
一人で納得するように頷きながら、フュイは肩に柄の長いハンマーを担いで、アロエットにゆっくりと近づいていく。
左脇腹と腕を激しく損傷したアロエットは、激痛で意識が薄れそうになる中、彼から逃れようと無様に地面を這った。
「逃げないように、足も砕いておこうか? ……きれいな足だし、もったいないかな?」
フュイは、ガンッと音を立ててハンマーを肩から下ろすと、破れたローブの裾から覗く白い足に視線を向け、暗い愉悦の笑みを浮かべた。
ゾリゾリと地面を削りながら、ハンマーが引き摺られる音がする。
逃れようとするアロエットの右手が、荒れた庭の草や土に必死で爪を立てた。
♢
魔術を使うために目を逸らしたコルヴスを、正面から飛び掛かってきたマキュラが後方へ突き飛ばした。
コルヴスは、とっさに顎を引いて頭を守ろうとしたものの、勢いを殺しきれずにテラスの床に後頭部を強かに打ち、そのまま組み伏せられた。
『コルヴスは、大事なところで見てねぇもんなぁ?』
唐突に、兄の笑いを含んだ声を思い出した。
彼と取っ組み合いになると、思わぬところで動きを見落として、やられてばかりだった。
『最後まで、目を開けて見ろ』
シグナスに何度も釘を刺された言葉が、コルヴスの目を、生き延びるために必死に地面でもがく、アロエットの白い腕に向けさせた。
その足元に、断罪人が迫っていた。
コルヴスのぼやけた視界に、その薄暗い光景の全てが逆さまに映る。
(妹に触れるな――)
体内で、何かがせり上がる感覚があった。
コルヴスの明るい緑色の瞳に急速に金の輝きが混ざっていく。
握りしめた黒檀の杖が、パキパキパキ……と音を立てて金色をまとう。
(消えろ――!!)
妹に近づく断罪人フュイに対し、コルヴスはただ、心の底から願っただけだった。
パァン! と鋭く鼓膜を劈くような轟音とともに、閃光が一帯を真っ白に染めた。
神の雷か、天からの槍かと見紛うばかりの強烈な一撃。
圧倒的なエネルギーに、ドドドド! と激しい地響きが広がる。
フュイは悲鳴を上げる間もなく閃光に包まれ命を落とした。
♢
ヴァレリウスは、信じられない思いでそれを見つめ、戦慄した。
(これが『遍在の檻』か――!)
少女を助けに飛び込んだコルネリアを心配したが、術の範囲が極めて狭かった事も幸いし、彼女は上手く回避していた。
(これで欠片だと言うのだから、恐れ入るね……あの研究者がご執心なわけだ。さて、どうしたものかね)
ヴァレリウスは口元に手を当て、眩んだ視界を正そうとするように目を瞬いた。
続きは、また明日。18:30頃に。




