51 役割
ノクティスが上空に戻り、アロエットが納屋にたどり着くと同時に、コルヴスは断罪人たちがテラスに出てくるのを見た。
おびえていた馬たちは、どこかに置いてきたらしい。
ヴェスの手には、大きく湾曲した鎌のような、異様な形の剣が握られている。
フュイの持つ武器はもっと不気味だった。彼の身長を超える長さの槍のようなそれに、巨大な鉄製の「肉叩き」と鋭い鉤爪が据え付けられていた。
歴史の本でしか見たことのないような古めかしい武器を、目の前の断罪人たちが持つ理由は、その禍々しい外見を見れば簡単に予想できた。
(僕たちに恐怖を与えながら、嬲り殺すためだ……!)
コルヴスはテラスと納屋の間に立ち、見えない盾を作りながら彼らを見上げた。
そこに、彼らの後ろから小柄な黒装束の人間が進み出た。彼女は、手すりに指を滑らせると首を傾げて、静かに言った。
「置いていくなんて、悲しいわね?」
屋敷の落とす影の中で、彼女のフードから零れた一房の真っ白な髪は、さらりと美しく揺れた。
彼女がこの場にいることに、コルヴスはさして驚かなかった。しかし、ほぼ無傷でこの場に来ることは、まったくの計算外だった。自身の甘さを悔い、コルヴスは表情を歪ませた。
コルヴスの表情を嬉しそうに眺めていたマキュラは、続けて口を開いた。
「正直に言うと、ちょっと危ないところだったかも。馬が可哀想なことになってしまったのよ?」
マキュラは馬を足場にし、矢の雨の範囲外まで飛んでコルヴスの攻撃を回避していた。
言葉に反して、彼女は取るに足らない些細なことであるかのように、コルヴスにやわらかな微笑みを向けた。
アロエットが近づいてくる気配がした。
断罪人たちの目がコルヴスの後方に向けられる。コルヴスは振り返らず、テラス上の断罪人たちを警戒して、二人分の防御に集中したままだった。
彼女は、柄の長い二本爪のピッチフォークを手にしていた。
それを見たフュイは、声を立てて笑った。ヴェスは表情を変えずに、アロエットが立ち止まるのを待って口を開く。
「さあ、あの夜の続きをはじめようか……お前たちの中にある『遍在の檻』は、本来『器』にあるべきものだ。こちらには、返してもらう正当な理由がある」
「それはおかしな話ですわね? 『器』はそれを望んでいたのかしら? あなた方は、一度でも『器』の意思を確認したことがあって?」
アロエットが落ち着いた声でそう返答すると、ヴェスの視線が一層鋭くなる。
「『遍在の檻』を割り、好き勝手に利用することが『夜空の器』の望みだったとでも? ……仮にそうだとして、なぜ『器』であるにもかかわらず、その義務を果たそうとしないのか、理解に苦しむ! 誰しも生まれ持った役割があり、そこから逃れることなど、許されない」
ヴェスは服の上から、身に着けている『遍在の檻』を示すペンダントトップに指先で触れた。
マキュラは手すりに頬杖をついて、ヴェスの声を聴きながら、黙って子どもたちの表情を観察していた。
「……家族ごっこも充分楽しめただろう。あとは、お前たちの父親が犯した罪の清算の時間だ」
「父の罪を償うのが、僕たちの役割だとでも言いたいのか!」
ヴェスの理不尽な物言いに、コルヴスは怒りをあらわにして言葉をぶつけた。
「その通りだ! 罪人の子がその因果を背負う。珍しくもない。よくある話だろう?」
頬の傷をなでながら、ヴェスがせせら笑うように口元を歪める。
アロエットは、両手で構えたピッチフォークに、魔力を流し込む。
長い柄にスーッと金色の光が走り、先端の二本の爪が鋭く長い金色の刃へと変わる。紺色のローブを纏うケンタウロス姿のアロエットが構えると、美しく力強いバイデントのようだった。
フュイがピューイと口笛を吹いた。アンバーの目を輝かせると、彼は楽しそうに言った。
「カッコいいこと出来ちゃうんだね! いいなぁ~!」
機嫌よく金色の輝きを眺めていた彼は、突然、苦渋に顔をしかめて唸りだした。
「でも……だめだよ。ただの人間が『神の力』を使うなんて! ああああ! 早く君を回収しなくちゃ! ……殺したくなっちゃう」
フュイの声が低くなり、凶悪な形をしたハンマーを握る手に力が籠った。
同時にヴェスもマキュラも、獲物を見る目でこちらを見下ろした。
断罪人たちと兄姉の間に、ひりつくような空気が流れる。
(来る――!)
コルヴスとアロエットは、それぞれ攻撃に備えた構えを取った。
そのとき、上空から急速にノクティスが降りてくる気配がした。
一瞬、その場の全員が、空に気を取られた。
断罪人の背後で、詠唱が聞こえた。
「夜はお静かに」
左手に逆位相の魔道具をはめたファルコが、テラスの中央でノクティスにコマンドを送るところだった。
続きは、また明日。18:30頃に。




