↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/57

44 追跡

 コルヴスは、アロエットが予定時刻に現れなかったことで、選択を迫られていた。


(何かがあった……事前の打ち合わせ通り学園に戻るべきか、西区に向かうべきか)


 そのとき、ドォンと遠くで雷鳴に似た音が聞こえた。

 コルヴスは耳を澄まし、大体の方角と距離を推測する。


(これは……噴水広場か!?)


 二人が合流した地点で万(・)が(・)一(・)が起きたと判断し、二人が学園に戻りはじめていたら――


(……おそらく、そのあたりだな!)


 再び破裂音が聞こえ、風に乗って人々の悲鳴がかすかに耳に届く。


 コルヴスは大通りから路地に入ると、足に力を行き渡らせるイメージを描き、人間離れした速さで風を切り裂くように広場に向かって駆け出した。

 しかし、前方に人影を見つけ、すぐにたたらを踏んで止まった。


 前方に立ち塞がるように現れたのは、黒装束をまとった小柄な女性だった。真っ白い髪が黒いフードから零れている。

 コルヴスはその人物を見て、驚きのあまり息をのんだ。


 ペリグリン邸での最後の日……大事な人たちを諦め、逃げ出したあの夜。暗闇で執拗(しつよう)に追跡してきたのは彼女だ。


「こんにちは、兎さん。相変わらず驚くような速さで走るのね。広場にはもう戻れませんよ」


 彼女の立つ場所まで距離はあったが、静かな声がはっきりとそう告げるのを聞いて、コルヴスは総毛立った。


(ファルコは、アロエットは無事なのか。一人なら正面突破できるか……!?)


 ただ立っているだけに見える彼女だが、簡単に抜かせてくれない相手だということはコルヴスにもわかる。

 妹と弟の安否が気になるあまり、コルヴスは彼女から逃げるように、路地の奥へと全力で走りだした。


「ふふふ! 本当に可愛い子兎さん! ……正解は直進だったのにね」


 マキュラは、うっとりと陶酔した笑みを浮かべ、コルヴスの背中を追いかけて駆けだしていた。


          ♢


 昼下がりを過ぎた市民の憩いの場には、子どもたちの泣き声、光と音の爆心近くにいて身動きが取れなくなった人々のうめき声、逃げ惑う人々の悲鳴が響き、騒然としていた。

 噴水の方角から、こちらまで金属が焦げたような匂いが漂ってくる。


(防げなかった……やつらの作戦が始まってしまった!)


 コルネリアは、己の無力感にさいなまれながら、目の前の惨状に、思わず強く拳を握った。


 彼女は、ヴァレリウス、聖騎士団長ゴドハルトとともに、噴水広場の教会側出入口のあたりにいた。



 昨晩、踏み込んだ断罪人三名の部屋には、計画の証拠は何も残されておらず、彼らは姿を消していた。そこから今日にかけての捜索と、広場、教会、学園の警戒網もすり抜けて、事件は起きてしまった。



 ゴドハルトはすでに騎馬隊を広場の出入口に向かわせ、広場の外から人が流入しないよう規制し、件の断罪人たちが避難する人々に紛れていないかを確認させていた。

 重装備の特殊技能隊は、不審物がないか手分けして迅速に広場を確認し終えると、問題がないことをサインで知らせてきた。


 ゴドハルトは、馬で広場の中央へ進み出ていく。


「静粛に! わたしは、聖騎士団を率いるゴドハルト! すでに安全は確保した! これ以上の爆発の心配はない! みな慌てずゆっくり避難してくれ!」


 馬上から聖騎士団長の声が響き渡る。穏やかで力強い声音に、人々がゴドハルトに目を向ける。


 鋼の鎧の上に重ねたタバードは、青地に白い縁取りと胸に大きな白いダイヤ型の教会シンボルが描かれた、遠目にも分かるシンプルなデザインだ。


「聖枢院ヴァレリウス卿の命により、この場の治安維持は聖騎士団が担当する! これより負傷者の救護を開始する。怪我をされた方は、こちらへ!」


 広場に設置された仮の救護所には、聖騎士とシスターたちが控えていた。


 ゴドハルトの声が届いた者から、立ち上がり声をかけあい、落ち着きを取り戻していく。


 コルネリアは、その光景を感心したように見つめた。

 コルネリアが聖騎士に所属していたとき、彼女を鍛え、成長させてくれたゴドハルトは、腕も立ち振る舞いも確かな頼れる聖騎士団長だった。



「さて、コルネリア君。思ったよりも大事(おおごと)になってしまったから、僕は後始末のために、いったんお別れだ。いま一度、確認するよ」


 ヴァレリウスは、広場の方に顔を向けたまま、コルネリアにだけ届く声量で言った。


「尾行しようとするな。見つからずに現地にたどり着け。潜伏して待て。子どもたちの方は追跡させているから心配するな」


 追跡させているのは、カモフラージュに長けた非戦闘員だろう。

 コルネリアが返事に詰まる様子に気づき、ヴァレリウスは苦笑して続ける。


「これでもまだ、子どもたちが心配かい? 安心したまえ。彼らの狙いが『遍在(へんざい)の檻(おり)』と『復讐』なら、ゴ(・)ー(・)ル(・)ま(・)で(・)は(・)子どもたちは五体満足だ」


 不穏なことを口にしつつ、ヴァレリウスは冷徹な青い瞳を彼女に向けた。

 コルネリアは一度目を閉じ、「はい」と答えて目を開いた。彼女のダークブルーの目は、揺らがなかった。


 コルネリアがゴドハルトに視線を送ると、彼は大きく頷いて見せた。



 ヴァレリウスの警護を彼らに託し、コルネリアは一足先に、断罪人たちの目的地を目指して出発した。

続きは、また明日。18:30頃に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。