28 役に立つ妹弟
――最初に決められていた集合場所は、小さな小屋のような隠れ家だった。
一見して、そこで暮らすことが想定されていないとわかるような、小さな家。
アロエットがなんとか人の姿に戻ったあと、ようやく三人と一羽は、そろってその中に入った。
父の魔道具によって隠されていたその小さな家には、テーブルセットが一つ、その上に次の隠れ家を示す暗号のような手紙と、十分すぎる支度金が入った袋が置かれていた。
三人はこの場所で、
「ルナリア、カイルム、シグナスは装置を壊され、少なくともすぐに動けるようにはならない」
「母と父は、隠れ家に来ることは、もうかなわない」
「ルカは動けるが、捕らわれている」
「ライラは装置を壊されていないが、起き上がるのは難しい」
と、情報をまとめた。
つまり、「家族のうち、次の移動先に向かうことができるのは、コルヴス、アロエット、ファルコの三人」という結論に至っていた。
それでもファルコは、「ルカ兄さんが、ひょっとしたらライラを助けて、逃げ出してここに来るかもしれない。そのときに何もなかったらかわいそうだ」という主張を曲げず、ペリグリン家の納屋から持ち出したナイフで、テーブルにヒントとなるメッセージを残した。
教会の人間が、ルカに情報を吐かせてこの場に踏み込むことができても、ばれない工夫は仕込んでいた。
メッセージと支度金の半分を残し、三人と一羽は、小さな隠れ家を後にした――
♢
ノクティスは、図書室の椅子の背で、羽を膨らませて目を閉じていた。
「そっか。僕のメッセージは、ルカ兄さんには届いていたんだね」
いつもの調子の声で、ファルコはそう言った。コルヴスは頭を上げて、驚いたように彼を見た。
「ファルコ……」
アロエットが心配そうに声をかけると、ファルコは「それなら、いいんだよ」と笑顔を向けた。
「ルカ兄さんなら、あのヒントで移動先はわかったと思う。それでも、ルカ兄さんは『行かない』って決めて、『教会に残る』ことを選んだんでしょ。『ルカ兄さんを待っている』って、こちらのメッセージが届いていたのなら、僕はそれでいいや。それで、ルカ兄さんは、なんて返事してたの?」
コルヴスは、アロエットと顔を見合わせて、それから話しはじめた。
「『あの小さな隠れ家は、トラップが発動して焼け跡になっていた』と、報告しただろう? その焼け跡の壁には『さよなら L→』って書いてあったんだ」
コルヴスは、わかるように図書室の机に、指でそれを書いてみせた。
今度は、アロエットとファルコが顔を見合わせる番だった。
「それだけ、ですの?」
アロエットは瞬きをすると、指の背を口元に当てて考えはじめた。
「『→』があるということは、テーブルのメッセージには気づいてくれたんだね。『→』のあとの宛先を書いてないってことは、教会にそれが伝わるのを避けたかったからだよね? じゃあ、きっと教会の人も、ルカ兄さんのメッセージは読める状況だったんだ」
ファルコは、いつものように考えたことを口に出しながら整理していく。
「その状況で、わざわざ『さよなら』と書いて、何を伝えようとしたんだろう?」
ファルコが、コルヴスとアロエットに尋ねるように言った。
「『私を待たないで』……かしら?」
アロエットは、ルカの口調を真似るようにそう言った。
「僕もそんな気がする。でも、家を出て教会に行くっていうのに、待ち続ける僕らを心配するのって、うーんと、うまく言えないけど……違和感があるよ。兄さんは、どんなメッセージだと思って、僕たちに言わないことにしたの?」
ファルコのぐいぐいと質問する勢いに押されつつ、コルヴスは答えた。
「僕は、『今後は一緒に家族をやるつもりはない』という意味のメッセージだと思ったんだ。一方で、『これでお別れだけど、新しい移動先は教会には知らせない』という意味にも読める気がした……そして実際に、新しい隠れ家には追手は現れなかった」
ファルコは「ふむふむ」と頷いて兄の推察を聞いていた。
「状況から考えて、ペリグリン邸の防衛に関わる情報を漏らしたのは、ルカだと見て間違いないと思うわ。一方で、最初の隠れ家以降のわたくしたちの足取りを、教会には伏せている……」
アロエットは、これまでの情報を整理するようにそう言った。
「ルカの行動が、矛盾している」
コルヴスは、思わず困惑した声を出した。
落ち着いて考えれば、ルカの行動の不自然さに気づいたはずだ。
『情報を流したのはルカ』
『ルカは家族を解消したいと望んだ』
そう結論づけて、それ以上考えることを避け、傷つくことから遠ざかろうとしたのは自分自身だったのだ
「……お兄様。ルカの謎はまだ解けませんが、妹も弟も、なかなか役に立つと思いませんこと?」
アロエットは両手の指を緩くしなるように交差させて、そこに顎を乗せたまま優美な笑みを向けた。
すべてお見通しの妹の言葉に、コルヴスは降参し、笑顔で大きく頷いた。
続きは、また明日。10時頃に。




