21 セーフ
(ふーん? 単純にすばしっこい子を回復役に、火力が高い子を攻撃役にしたわけじゃないんだね……?)
役割を、全員が動的輪番で動かしている。カストルは、実験的に一人ずつ凍らせてみて、残りの四人の動きを観察した結果そう結論づけた。
カストルは、このチームのメンバー全員が、この短時間でそれを実行できるところまで仕上げてきたことに感心した。
(……ということは、このチームが六番目を選んだのも、偶然じゃないね。フィールドが荒れすぎる前で、迷わず動ける程度に暗記できる時間を選んだのか)
「あはは! いいね!」
屈託なく笑うと、カストルは次の実験を始めることにした。
すでに、開始から二分が経過しようとしていた。
ウルススが捕まるのは、五度目だった。
(ウルススが狙われている? なぜ?)
メラノは直前まで、コルヴスがフリーズしたので、レウカスとともにカストルに攻撃を仕掛けていた。コルヴスが救助されたところで、カストルがウルススを捕らえ、今は自分がウルススの救助に向かっているところだった。
ジュリアンとレウカスが、息をつく間もなくカストルを攻撃している。
レウカスはあまり魔力が多い方ではない。彼女が攻撃に回る回数が増えていることも、メラノは気にしていた。
メラノが、疲れてきて集中を切らしていたことも、原因だった。
レウカスが苦し紛れに放った、カストルに対する風の魔術に、運悪く風下にいたメラノは巻き込まれ、風の勢いに思わず目をつぶった。
「やられたっ!!」
メラノが、カストルを見失ったことに気づいたときには、その手は彼女の肩に触れる直前だった。嗅ぎとったのは、微かな林檎の香り。
メラノの咄嗟の判断で、仲間に異常を知らせる叫びだけは、かろうじて間に合った。
ウルスス救助役のメラノは、完全に沈黙した。
(狙われていたのは、私だ――!)
開始から約二分半が経っていた。
メラノの叫びを聞き、残り三人は素早く動きを変えた。
救助はコルヴス、レウカス。攻撃は自分だけだ。
(三分……くらいまで四人体制を持たせたかったが。私のミスだな)
メラノを狙ったカストルが、レウカスに風の魔術を撃たせるのを阻止できなかった。
メラノは開始から緊張を解くことができず、毎回直線的に救助に向かっていたので、そろそろ刈られる予感はしていた。救助役におけるメラノの神速の足が、それだけカストルにとって邪魔だったということでもある。
ウルススは、本人の問題ではないのにカストルに追われ続け、気の毒なことだった。レウカスは、できれば魔力を温存させてやりたいが、状況を選ばせてやれそうもない。
幸い、コルヴスはまだ足も動くし、魔力にも余裕がありそうだ。
(さて、解放するならウルススからだが――)
「風と飛礫よ、突進せよ!」
見えない風と見える飛礫を混ぜて、カストルに放つ。カストルが大きく後ろに下がって避ける間に、コルヴスはウルススを救助した。
ジュリアンは、カストルから目を離さず追撃しながら、「Perfect!」と叫びたい気分になった。コルヴスは、こちらの意図を汲んだ上で、狂いもなくナイトさながらに盤面を駆け回っていた。
「……ディアマンテ君、今の詠唱は『習った』んだっけ?」
カストルからジュリアンに白い目が向けられたが、それに構っている余裕はない。
「『習った』詠唱を合体させたくらいで、ガタガタおっしゃらないでくださいね」
ジュリアンの令息らしからぬ口調に、カストルが驚いたように眉を上げて笑った。
「それもそうだね。僕の教え子は、実に優秀だね! 『大地よ裂けろ、彼らの足元を覆せ』」
カストルの足元から、ドドドド……パキパキ……と音を立てて地面の陥没と隆起が素早く広がっていく。
カストルの側にいたジュリアンとコルヴスは、直接の衝撃を受けるのは回避できたが、足を取られて出遅れた。
カストルは、崩壊の影響が少ない足場を見極め、飛び石のように跳ねて移動していった。移動しながら、次の魔術を唱える。
「逃げろ、レウカス!」
カストルが彼女を狙っていることに気づき、ウルススの声が飛んだが、レウカスは地面の隆起に巻き込まれて尻もちをついた状態だった。
「切り裂け、風よ」
レウカスは、跳躍したカストルを狙い、上にも下にも避けがたい体の中央を狙って薙ぐような風の魔術を放った。カストルを弾き飛ばせる程度の威力を込めていたが、彼の体に触れた途端に、効果が四散した。
カストルは、あらかじめ狭い範囲に、魔術から強力に身を守る魔術を展開させていた。
「魔力切れが近いから、一点集中するしかないもんね?」
着地と同時に、カストルはとてもいい笑顔で、レウカスの頭にそっと触れて囁いた。
「南南東、彼を拘束して」
カストルは、地面の凹凸と土埃で視界が悪い中、レウカスへの忠告の声が聞こえた方角に、人差し指と中指の二本を向けて走り出す。
レウカスと一瞬目が合ったときに、罵詈雑言が聞こえそうな視線の圧を感じたが、カストルは「この子はまだ伸びそうだなー」と、ご機嫌に考えていた。
可哀想なウルススは、気をつけの姿勢のまま、落とし穴に胸まではまった状態で動けなくなっていた。
「……先生、これは僕への直接の魔術使用では」
「あはは。鋭い指摘だね。でも、落とし穴は、地面への操作のうちだからセーフです!」
カストルは、ウルススにピースサインをしてみせた。
「そんなの、何でもありじゃないですか……」
がっくりとうなだれるウルススの肩に手を置き、「はい、お疲れ様!」とカストルはねぎらいの声をかけた。
続きは、また明日。次回決着です。




