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ペルソナの影  作者: 一宮 沙耶


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10話 犯人

人は、見たいものしか見ない。

優しい人は、優しいままでいて欲しい。

悪い人は、悪いままでいて欲しい。だから、物語は単純になる。


でも現実は違う。誰もが、自分の都合で嘘をつく。

私は、ずっと見ていた。

神谷莉緒、三島将生、桜井早希、佐藤芽衣。



全員。最初から最後まで。彼らは繋がっていた。

偶然じゃない。全部、私が繋げた。

きっかけは、些細なものだった。


一通のメッセージ。一つの紹介。一つの偶然。

それだけで、人間関係は簡単に絡み合う。


莉緒を、将生に会わせた。

早希に、将生を見せた。

芽衣に、隙を作った。

悟に、莉緒を与えた。

莉緒に、澪の静かな時間を奪わせた。


少しずつ、歪ませる。少しずつ、ズラす。

それだけで人は勝手に壊れていく。

私は、何もしていない。ただ、見ていただけ。そう。


駅のホーム。あの日も、そこにいた。

莉緒は、笑っていた。スマホを見て。

誰に向けた笑顔だったのか。それはもう、どうでもいい。


周りには、全員いた。それぞれが、それぞれの理由で、あの瞬間を待っていた。

将生は、逃げるために。早希は、排除するために。

芽衣は、確定させるために。悟は、壊すために。


そして莉緒は選ばれるために。

電車の音が近づく。一歩。誰かが、踏み出す。

その瞬間、私は見た。四人の手が、同時に動いた。


押したのは、誰か。答えは、簡単だ。

莉緒の体が、前に傾く。そのとき、彼女は振り返った。

誰を見るでもなく、でも、確かに誰かを見て、口を動かした。


「将生・・・。」


でも、それは違う。あの口の動きは。


「待ってる。」


その言葉だった。

人は、聞きたい言葉に変換する。将生は、自分の名前を聞いた。

悟は、助けを求められたと思った。早希は、命乞いに見えた。

芽衣は、意味すら考えなかった。


真実は、どこにもない。ここまでが、彼らの物語。

でも、ここからが本当だ。莉緒は、知っていた。

自分が、どう見られているか。


いい人、都合のいい女、壊れそうな女、全部。

だから、利用した。

将生の歪みも、早希の計算も、芽衣の狂気も、悟の執着も。

そこにいない澪が自分を面倒だと思っていたことも。

全部、分かっていた。


あの日、莉緒は、わざとあの場所に立った。

全員が揃う時間、全員が動く状況。完璧に計算して。

そして、ほんの少し、自分から前に出た。押されたんじゃない。


押させた。最後に笑っていた理由も、全部、説明がつく。

彼女は、選ばれたんじゃない。全員に選ばせただけ。

それで五人の心に永遠に生き続けるために。

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