エピローグ
「以上、本日のニュースでした。」
キャスターの声が途切れる。
画面には、いくつもの駅の映像が並んでいた。
どれも同じ構図。
白線の内側に立つ、一人の人間。その背後に、数人の普通の人達。
そして映像は、必ずその直前で切れる。理由は簡単。
どれも、事故として処理されているから。
部屋は静かだった。
スマホを開く。流れてくる言葉は、いつも通り。
「怖すぎる」
「またホーム転落?」
「押されたんじゃないの?」
指が止まる。本当に? その疑問は、一瞬で消える。
考える必要なんてない。事故なら事故でいい。
誰も、自分が関係しているなんて思いたくないから。
人は、顔を持っている。
優しい自分、正しい自分、常識的な自分。
それがペルソナ。社会の中で、生きるための仮面。
でも、その裏側には、必ずある。
ほんの一瞬だけ浮かぶ感情。
「邪魔だな。」
「どいてくれればいいのに。」
「いなくなればいいのに。」
声にもならない、思考にもならない衝動。それが影。
誰も、それを自分のものだとは認めない。
だから押していない、事故だ、見ていないと言う。
でも本当は、ほんの少しだけ、前に出たことを知っている。
あの日、ホームにいた四人も同じだった。
優しい恋人、完璧な女性、無垢な笑顔、ただの通行人。
全員が、自分のペルソナを信じていた。
だから気づかなかった。
自分の影が、同時に手を伸ばしたことに。
そして、もう一人。それを見ていた存在。
誰でもない。名前もない。ただズラしただけの存在。
この物語の主役は、人間じゃない。ペルソナの影。
次の日の朝。駅のホーム。いつも通りの人の列。
白線の内側に、一人。ほんの少しだけ、前に出ている。危ない位置。
でも、誰も何も言わない。背後に、人が立つ。一人、もう一人。
距離が、わずかに近い。そのとき、ふと浮かぶ。
「もし、落ちたら。」
違う。そんなこと、考えるはずがない。自分は、そんな人間じゃない。
そう思った瞬間、影がわずかに動く。
前の人が、少し揺れる。
ただ避けただけかもしれない。でも、空気は確かに前に流れた。
あの日、ほんの少しだけ前に出た人が、もう一人いる。
それが、あなたです。




