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黎明の適合者 -Colors of Dawn-  作者: 雨野 天
第二部 第三章

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43.新たな火種

ビー!ビー!


入り組んだ基地の中に赤い光とけたたましい警告音が響く。


(しくじった!)


警備兵を避けながら、イチゴは基地の中を逃げ回る。やがて、基地の高い塀が見えた。


(あそこを超えれば…!)


すると、別の方向から複数の足音が聞こえる。それはあさっての方向に走り去っていった。


(どういうことや?)


てっきり追われているのは自分と思っていたが、イチゴが見つかった場所とは明らかに別の施設が騒がしい。何か別のトラブルだろうか。


(それならそれで、チャンスやな。今なら、名簿くらい盗めるんちゃうか)


イチゴは好機をみすみす逃すような男ではなかった。

ここ数週間で仕入れた施設の地図を頭に思い浮かべる。どのルートが最短で安全か、素早く計算して走り出した。


予想通り、実験施設内は混乱を極めていた。

イチゴは何人か遭遇した兵士をのした後、メインコンピューターからデータを探す。画面に映る無数の英数字の羅列が瞳に映る。一見意味のなさそうな記号を見て、にやりと笑った。

顧客名簿のようなそれを、スクロールしていくと、見知った名前に手がとまる。


「は…うそやろ…」


ガタン


入口の扉が破壊され、人影がイチゴに向かってくる。


「え?」

「は?」


襲って来た人影はイチゴを見て驚いた。イチゴもその人物に驚いた。


イチゴの目の前にいるのは14,5の少年だった。傲慢そうな瞳に、撫でつけられていないつんつんとした茶色の髪。


知っている人物に限りなく似ている。が、そんなはずはない。黒の暴走時、昏倒させて、この基地に送ったのは確かに壮年の男だった。結婚していたとも、こんなデカい子供がいるとも聞いてない。他人の空似にしては似すぎている少年にイチゴは思わず、問いかけた。


「自分、戸ヶ崎…の隠し子か?」

「てめぇ!あん時のスパイか!!」


少年はイチゴに少しも躊躇わずに殴りかかってきた。イチゴはそれを避ける。メインコンピューターの基盤がバキっと割れた。人間の力じゃない。よく見れば、少年の指先から黒いモヤが出ている。


「あっちゃー…あれか、奪われたデータで黒の適合、成功させたんか…」


予想より早いやんけ、とイチゴは額に手を当てる。少年はますます眉を吊り上げ、怒気を露わにした。


「君、名前は? 攻撃やめてくれたら保護したるよ」


保護、と言う言葉に少年はぴくりと反応した。きっと目覚めたばかりで混乱しているのだろう、とイチゴは同情する。例え、少年が戸ヶ崎光一郎の隠し子であっても、罪はない。保護してやるのが、年長者の務めだろうと思った。


後から考えると、軽率だったと思う。

ファーストインプレッションはとても大事だと、自分に言い聞かせたい。


しかし考える暇もなく、バタバタと廊下が騒がしくなる。足音に少年はびくりと震えた。そして震える拳を下ろす。


「本気だな?」

「ん?」

「…俺を、保護するって」

「うん、ええよ。(ノクス)の適合者なんやろ?」


「実験台にされて、えらい怖かったなあ」と同情するように肩を抱く。少年はその手を払いのけたが、距離を取ることはしなかった。


イチゴは少年を連れ、実験施設を抜け出した。




***


リヒトがソレイユの元へと向かう決意を固めていると、扉をガンガンと叩く音が聞こえた。


「何?誰?」


驚いて、扉を開けると、ワン博士が扉の前に立っていた。


「タイヘンヨ!」


何が、と聞く間もなく、腕をひっぱられ、彼女のラボに連行される。


パチパチとキーボードを叩く彼女の後ろに突っ立っていることしばし。彼女が画面を見せてきた。


「政府の実験施設で行われた実験の結果ネ。」


王茂琳(ワン・マオリン)が見せたその画面をリヒトはまじまじと見つめる。

ざっと必要な個所を拾い読みすると、“黒適合化実験は成功……若返り遺伝子による細胞増殖…20年から30年の細胞活性化……戸ヶ崎光一郎、脱走”


「は!?……はあ!?」


リヒトは画面にかじりつく。


「お、おま、マオリン、お前!?あれは解読できないって!?」

「解読されちゃったみたいネ」


マオリンがにんまりと笑う。


「しかも若返り実験も成功!ワタシの後進も優秀ネ!」

「え?で、戸ヶ崎光一郎を若返らせたぁ!?」

「そうヨ!若返ったから黒の適合も成功したネ!」


「どんだけ…人権を踏みにじれば済むんだ…」と改めてマオリンの倫理観のなさに、リヒトは顔を覆った。



***


ドックされた小型船から、真っ青な顔のイチゴが降りてきた。その後ろには勝気そうな少年が続く。


「お前、そいつが誰か分かってんだろうな?」


リヒトがイチゴに確認すると、小さな返事が返ってくる。


「い、今、聞かされた。もう引き返せんとこで…」


顔面蒼白になって項垂れるイチゴの頭を軽く叩く。そしてその後ろの少年を睨みつけた。


「よう、戸ヶ崎光一郎。よくのこのこアスリオンにやってこれたなぁ」

「そっちが保護するって言ったんだ。きっちりおもてなししろや」


対峙した戸ヶ崎は14歳にしては小さく細かった。アスリオンの高等部編入試験に落ちたというのもうなずける。劣等感の塊みたいな瞳だけがギラギラと燃えていた。


こうして、またアスリオンに火種が舞い込んできた。


(第二部 第三章 完)


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