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59.恋する乙女のランチタイム


 大型ショッピングモールのフードコートエリアに設置されてある何組ものテーブルの一画に腰掛けている名乃は、いつも学校に持参している手作りお弁当を開いて一人遅めの昼食を摂っていた。休み時間もお昼休みもずっと校内を周りながら聴き込みをしていたせいで、昼食に手を付ける時間などなかったのだ。



「ハァ〜、絶対にアイツらとの時間が余計だったよね」


 二切れほど盛り付けているだし巻き玉子を箸で半分に切りながら、昼休みにキズナ達と屋上で話したことを思い出す。

 予定であれば月下君と待ち合わせしている十分前くらいには昼食を摂って向かうつもりだったのに、まさかキズナの守護霊の方からアクションを起こしてくるとは……いや、()()()()とは思いもしなかった。

 普段はコミュニケーションを取ることが出来ないと言っていた手前、よっぽどの緊急事態かユイが自分に乗り移っている時くらいしかやり取りする手段がないと踏んでいただけに、まさかあんな形で話しを持ちかけられるとは本当に想定外だった。


(殺気を向ける? 世の中で守護霊って言われてる存在は、そんなことをするヤバい奴らなの?)


 イメージとしては、こう……何かご先祖様的な霊が自分の後ろで見守ってくれていて、自分に身の危険が迫った時に人知れず助けてくれるような、そんな優しくて温かな存在を守護霊と呼ぶのだろうと思っていたのだが、実際は優しさや温かさとはかけ離れたただの凶悪マイペース女の集まりだっただけに、どうにも腑に落ちなかった。もし自分にもそういう守護霊が取り憑いているのをこの目で見てしまったら、露骨に嫌な顔をしてしまうだろう。

 しかしどんな存在であろうと、殺気を飛ばされたままというのは自分のプライドが許さない。

 それは負けを認めることになり、今後ナメられる可能性が出てくるからである。

 だからどうにかして時間を作って、早い段階で一言断りを入れておきたかったのだ。

 もちろん、キズナと話す分にはどんな予定があろうがどれだけの時間を費やそうが一向に構わない。(むし)ろウェルカムである。


 そう、今夜は久しぶりにキズナと夜遅くまで一緒に居られる口実が出来たのだ。

 そこには邪魔な守護霊達も当たり前のように居るんだろうけど、それも無視し続けたらいいだけの話。

 まだまだ平日ど真ん中だが、そんな事知ったことか。


「ちょっと想像するだけでニヤケ顔が止まらないわね」


 お弁当に入れてあるウインナーを箸で(つつ)きながら嗜虐的な顔つきになる名乃。

 しかし、いくら昼食時を過ぎた時間帯とはいえ周囲に人がまったく居ないのかといえばそんなことはなく、スーツを着た中年の男性や、買い物に来たであろう奥様方の集い、割とめんどくさそうなグループまでテーブルの一画を占拠してたりする。

 そんな中、ただでさえ一般的な学生はまだ学校で授業を受けている筈の時間なのに、制服を着た女子学生がこんなところで――しかも一人でニヤけながらご飯を食べているところなど見られたら瞬く間に世間へと拡散され嘲笑の(まと)にされるだろう。

 そして、もしそれがキズナの耳に入ってしまった日には、あっけなく人生終了のお知らせと共にこの世を去る命運を辿る結末となるのは必至。



 ――そんな馬鹿げた未来など万が一にもあってはならない。



 名乃は煩悩を振り払うと、気を紛らわすようについさっき会いに行っていた女を思い返してみた。


(まさか自覚がないとはね〜)


 あの女が千歳という名前に過剰な反応を示した時は思わずこの街から消してやろうかと思ったが、なんとか感情を抑えて話しを引き出したところ、どうやら登校拒否になってから一度も外出をしていないらしく、全く身に覚えがないらしい。

 千歳という名前に反応したのも、自分が一方的に好きになって告白までした過去があり、何か相手の気持ちに変化があったと思ったから――などと言っていた。ちなみに告白した時はきっぱりと断られたようだ。


(私とキズナの邪魔をしたことは万死に値するけれど、それがまったく悪意のない人からの無自覚によるものとなると、少しは情けというものをかけてあげても良いと思ってしまうのね)


 今までそんなイレギュラーな人間と出会わなかっただけに、名乃自身も正直自分の中にこんな甘っちょろい感情が存在していたことに驚きを隠せないでいた。

 しかしまあ、犯行に及ぶ意思も物的証拠もないのに犯人扱いされては誰だって納得いかないのも分からないでもない。自分だっていきなり預かり知らぬ所で『お前が犯人だろ』なんて言われたら、間違いなく『何言ってんだコイツ』と思う筈だ。


(結局私が狙われた理由は謎のままだけど、たぶん無差別って線が濃厚かな)


『マジで今日あの白髪野郎潰してやるわッ』


 その時、めんどくさそうな四人グループの内の一人が大きめな声で感情を露わにしていた。自分と同じか少し上くらいの、見るからにチャラそうな男だった。


『どうせ金カンとこの路地裏っしょ? オモロそうだし俺も行くわ』


『じゃあ俺も行くわー』


『じゃあーしも〜』


 などと身内同士で盛り上がっているようだが、生憎自分には一切興味のないことだった。


 それよりも一つ気になった点は、藍川涙花が言っていた《昨日見た夢に出てきた途轍もなく恐ろしい眼をした女》の話。


 この話しになった途端すぐに顔色が悪くなり吐きそうになっていたから仕方なく追求するのを止めてあげたけど、どうやら夢の中だというのに目の前に現れた慈悲の欠片もない女の人に本気で殺されるかと思ったらしい。


(もしかして……雅か楓が何かしたんじゃない?)


 まったく根拠はないが、もし藍川涙花が昨日の出来事に関与しているなら、同じ場所に居たあの性悪女達と出会っていても何ら不思議ではないし、あの二人なら()()()()()も平然とやるだろうと容易に想像出来た。


(今夜さりげなく訊いてみようかな)


 名乃は綺麗に食べ終えたお弁当を片付けながら今夜守護霊達と話す事を脳内でまとめる。

 色々と訊きたいことはあるけれど、昼休みの時のような話にすらならない状況だけは作りたくない。

 そして何より、その後のお楽しみがすこぶる待ち遠しかった。

 わざわざこんなところまで一人で買い物にやって来たのもその為である。

 舞い上がっているのは百も承知だが、何しろ女の子には色々と準備というものがあるのだ。


(キズナめぇ〜、私が本気を出したらどうなるか、久しぶりに思い出させてあげるわ♪)


 名乃は怪しげな瞳で舌なめずりすると、レディース専用武器ショップへと歩を進めた――






過去にもお伝えしましたが、この物語はフィクションです。

この物語に登場する霊などの設定は全て創作であり、作中で説明しているような事についての根拠は一切ございません。

なので、もし現実で守護霊を見かけたとしても、決して不快な思いはしなくて大丈夫だと思いますよ!

むしろ大切に想ってあげてください、ええ。


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