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歪んだ考え

ーーー夜ーーー



「はぁ~…早く来ないかなぁ、ドレス。それをアルバート様に早く見せたいわ」


姉の陽気な声が大広間に響く。

聞きたくもないその言葉を無視し、私は無言で食事を続ける。


「ねぇ、お父様、アルバート様は何が好きかしら?」

「何、というとなんだ?食べ物か?」

「そうよ、せっかくなら私が何か作って贈るわ。好きな食べ物知っていたら教えて欲しいわ」

「食べ物……か」


父は考え込むが、私はなんとなく察した。

姉が作るなんて事はしない、そしてそれを作らされる羽目になるのは私だ…。


「あぁ……確か、栗が好きだと聞いた気がするな」

「栗!……じゃあモンブランなんか作ったら喜ぶわよね!?腕が鳴るわ!?」


作る気満々のポーズを父に見せ、はしゃぐ姉をよそに私は食べ終えた食器を持ち大広間を出ていった。

厨房で洗っていると予想通りというか姉がやってきた。

手にはあまり手をつけず大量に残った食器を手に…。


「あの、あまり美味しくなかった?」

「いいえ、別に」

「そ、そう」


私が洗う流しに乱暴に投げいれると少しだけ皿の端が欠けてしまった。


「なにしてるのよ、割ったりして!」

「今のはお姉様が……」


すぐに割った事を父に報告にしにいこうとする姉。


「待って!」


私の呼び止めに姉はすぐに足を止め大広間から父が来ない事を確認したのち、私に近づいてきた。


「あんた、黙ってて欲しかったらモンブラン、つくりなさいよ」


やっぱり……。

姉の考える事なんてすぐに予想がつく。


「どうして、私が……。お姉様が作るってお父様にいったはずでは?」

「私が作れると思ってるの?それに手が汚れてしまうじゃない。そんな手でアルバート様に会ったら嫌われてしまう。私はアルバート様を落とすんだから」

「お姉様には友人がいっぱい居るんじゃ?」

「……あぁ、あれ。あんなのを落とすつもりはないわ、だってアルバート様に比べたら貧乏じゃない。私は裕福な人が好きなの。お金よ、お金」

「そんな、お金ばかりじゃない……」

「あんたって本当に馬鹿ね、お金があればなんでも手に入る。服もアクセサリーもなにもかも」

「……お金より大事なものがあると思う」

「なによ?」

「……愛、とか」

「愛!?……あははっ!笑わせないで。愛はいつか消えるのよ、そんな浅はかな物より大事なのはお金!

いい、覚えておきなさい。

私は絶対アルバート様を落とす、だから真剣にモンブランを作りなさい、いいわね!?」


姉は私の右肩を強く押し退けた後、大広間に戻っていった。



残った私は流しに残る食べ物と少し欠けた皿を拾い上げ片付け部屋へと戻っていった。

その傍ら大広間では姉が父にいくつもアルバート様についての質問する声が聞こえ、時には笑い声も聞こえてきた。




「……愛よりお金、か」


一人、部屋にいた私はボソリと呟き姉の言葉を思い返していた。

歪んだ考えを持つ姉がアルバート様を落とせるなんて思わない、何処かでボロが出て気付かれて終わると私は思った。

むしろそうなってくれた方がスッキリするし、いつか気付くなら早い方がいいのに…とさえ思っていた。


そんな時だった。

小さくノックの音が部屋の中に届いた。


(姉…か)


「……どうぞ」


だが、誰も入ってこない。

もう一度私は返事をした。

それでも誰も入ってこなかった。

不思議に思った私は扉をゆっくり開け、様子を伺った。


「こっちよ」


左の方を見ていた私の後ろから声がし、向けるとやはりそこには姉がいた…。


「なにか……用?」

「言い忘れたけど、あんた、こそこそと聞いて回ってるみたいね」

「……なにを?」

「とぼけるのね、いいわ、どうせそういうと思ったから。あんた、働き口を探しているわよね。街であちこち聞いて回ってるらしいじゃない」

「……」

「黙るということは図星ね、分かりやすいわね」

「……いいでしょ、別に」

「なんで働くのよ?」

「それは、もう、大人だし」

「大人、ねぇ」

「お姉様は働かないの?」

「馬鹿ね!働く?そんな野暮な事しないわ、私はアルバート様と結婚するんだから働かなくて良いの。

大きな屋敷で美味しい物食べて子供育てて…」


姉はアルバート様との先の事を語り出し、どんどんと饒舌になっていった。

まだ会ってもないのに飛躍しすぎたことをずっと私に話しかけてきた。

身振り手振りを加えながら…。


「それはお姉様の妄想でしょ?」

「妄想じゃないわ、事実になる、絶対!?」


どこからその自信が湧くのかわからないが、姉はとにかくアルバート様との未来を決定づけており、家に招いた友人達とは縁を切ったとさえも言ってくる。


「だから、いい!あんたは最高の物を作りなさい。

そしてそれを食べたアルバート様は私の虜になるはず」

「……わかった」


もう話に付き合いきれないと思い、了承すると勝ち誇った顔を見せ私の前から離れていった。


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