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別れの前

迎えた翌日、私は夜中に家の周りを警戒してくれた使用人の二人にパンと暖かいスープを出していた。

大広間でもてなす私を姉は廊下に佇み、その様子を見ていた。


だけど、その視線の先にあるのは私ではなく、自身の秘密を告げられたあの使用人に向けられていた。


(……何か行動があったら動くかも)


私はその視線を感じつつ、平然を装い迎えが来るのを待った。


そして、家の扉をコンコンっとノックする音に姉は気付き、開くとラルフさんがいた。


「……あなたはいつもそこにいるのですか?」


以前も同じ場面があったためラルフさんは驚くというより不思議そうな顔をしていた。


「いいえー、アルバート様を待たせる訳には」


家を出ていく時と同じ言い訳をし、その後ろにいる本人に気付く。


「アルバート様!?」

「迎えに来た。……昨日は久しぶりの生家だったがどうだ?」

「えぇ、なんだか懐かしい気持ちと、それと……」


姉は父がいない家はなんだか寂しいと告げる。


「……そうか」

「あの、お父様は?」

「あぁ、二人が来たら埋葬する事にしている。今は地下に安置してある」

「そうですか、何から何までありがとうございます」


ゆっくり頭を下げ、お礼を言う姉。


「レナはどうした?」


アルバート様は私の姿が見えない事で少し背を伸ばし家の中を覗こうとしてきた。


「すぐ、呼んできます!」




「アルバート様……」

「よく知らせてくれたな、レナ。礼を言う」

「そんな、私は……」


「用意が良いなら行く事にするが……?」

「あっ、少しお待ちを」


使用人達が食べ終えた食器を片付けようと大広間に戻ろうとした時、姉がついてきた。


(なぜ?……まさか、アルバート様がいるから?)


「どうしたの、レナ。早くしないとアルバート様を待たせるわ。私も手伝うから」


やはり、そうだ。

絶対しない片付けを姉はパパッとし始め、大広間から厨房へと足早に向かい、洗い出す。


手が荒れると言っていたのに、率先してする行動に私は少しだけ手を止め、その様子を見てしまった。


カチャカチャ、っと音を鳴らし、水を流す行動は奇妙に映った。

人はこうも変わるのか、と。






「さぁ、アルバート様、行きましょう」


姉は私の分まで行い、二人の元へと現れ、屋敷へ行く事を促していた。


「レオナ、お前」

「な、なにか?」


アルバート様の突然の問いに姉はもしや……といった顔と肩をすくめ緊張した態度を取り始めた。


「……いや、なにもない。行くぞ」





馬車へと戻ると私達を連れ、屋敷へと向かう。

二台の馬車には以前と同じように、アルバート様と姉と私。

後ろの馬車にはラルフさんと夜通し警備してくれた使用人が乗っている。


揺れる馬車の中、特に会話もなく進んでいくが、姉だけはそわそわした気持ちでいるようだ。

何故なら後ろの馬車に乗っている使用人がラルフさんに告げ、そして、隣にいるアルバート様へと伝わるのではないかという恐怖心だ。


だから姉は向かい合う私の後ろを走る馬車の荷台へと視線は一直線に向けられていた。





ーーーーーー





コツコツ……っと屋敷の地下へと降りる階段。

そこは以前通された長い廊下の先の空間を左手に進み突き当たった場所にひっそりとあった。


先頭を行くラルフさんの手元にはランタンがあり、蝋燭の火がゆらゆらと揺れながらその階段を照らす。


「気をつけろ、二人とも」

「えぇ」

「はい」


姉は落ちない為か、はたまたその暗い階段の為か、アルバート様の白いマントを掴み降りていく。






ギィィィっと錆びついた物が開くような音を鳴らしながら降りた先にある扉をラルフさんは開いていき、中を照らすとそこには父が眠らされており、その体には白い布が覆い被さっていた。


「あぁ……お父様……」


すぐに姉は近寄り、その体へと顔を埋め悲しむ『フリ』をした。


「お父様……」


私はゆっくり近づき、眠る父の最後の顔をみていた。

するとアルバート様が口を開いた。


「親子でいれる最後の時間だ」


そう告げるとラルフさんと共にその場を去っていき、扉を閉められた。



「あぁ!お父様ぁ!」


まだ姉はフリを続けていた。


「……本当はしたくもないフリ、でしょ」


私はそんな姉に問い掛けると、姉はその泣く真似をピタッと止め、スッと立ち上がった。


「ふん、当たり前よ。さっさと埋葬して欲しいくらいだわ」

「……いいの、すぐ側にはアルバート様がいるはずだけど?」

「いいえ、居たとしても聞こえない。見てみなさい」


姉は扉を指差す。


「ここはあの馬車と同じで防音。だから聞こえるはずなんてない」

「……」

「あら、なんで知ってるのかって顔ね」

「まさか、……要職の人?」

「さぁ、ね?」


姉は含みたっぷりの表情でニヤつき、父の体を覆い被さっていた白い布を顔へと移動させていた。










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