別々
去り際、姉は振り返ると『アルバート様にお伝えください。私はすぐにでもお屋敷へ行きます』とリックさんに伝言を伝え意気揚々と去っていく。
「……分かりました」
去っていなくなった姉に対し、リックさんは答えるがその顔は険しく眉を少し顰めているようだ。
笑い、鼻唄を交え去る姉の声が虚しく廊下に聞こえてきた。
「アルバート様は何故あんな人を……」
リックさんはボソリと呟くと姉が落としていった紙を拾い上げ私に渡してきた。
「レナさん、本当にいいんですか?」
「……良いんです。私は父の介助をしないといけないので」
「でも、ちゃんと医者に診てもらわないと」
「父が拒否してます。もう、長くない、と……」
「そうですか……」
「すみません、父を見ないと」
「あ、あぁ、そうですね……」
私はリックさんにお礼を言い、父の部屋へと急いだ。
去る私をリックさんは何か言ったようだったが、私はそれが聞こえなかった。
「レナ、俺の世話なんていい。自由に生きろ」
「なにを言ってるの。私の家はここ。他に行く場所なんてない」
「……すまない。お前には何も残せそうにない」
自分の不甲斐なさから父は私の前で泣き始めた。
今まで見た事がなかった父の涙。
顔を覆い、泣く姿に私はそっと背を摩りつつ首を振った。
ーーーーーー
アルバート様からの手紙を受け取り数日が過ぎた頃、姉は部屋から大きな鞄をいくつも持ち、そわそわした気持ちで廊下に佇んでいた。
そう、あれからアルバート様から返事をもらい、今日屋敷へと越す日になっていた。
「早く来ないかな!」
床に置いた幾つもの鞄の周りで落ち着かない様子の姉の声。
扉を見ては天井を見つつこれから始まる生活の妄想を繰り返しているようだ。
「ふふっ。あんたとはこれでお別れね」
父の為に厨房で食事を用意している私に声を掛けてきた。
別れだから今のうちに沢山話しておいてあげると姉の気遣いらしいが、そんなもの要らなかった。
「……もう帰ってこなくていいから」
「はぁ?!」
「もうここはお姉様の家じゃ無いから」
「なによ、あんた!……ふっ、いいわ。こんなボロい家なんてこちらから願い下げよ。
だって今から私はこの国でいっちばん大きな屋敷で暮らすんだから。
それも何人も使用人を使い、そして、アルバート様と……」
自分で話しかけておきながら照れ、顔を真っ赤にし体をくねくねとさせる姉の相手などもうしたくなかった。
無言のまま私は厨房から出て父の部屋へと向かう事にした。
「ちょっと、最後よ、良いの?姉と話す最後の機会なのに」
去る私に姉は何故か引き止めてきた。
「……別にもう話す事ない」
「あっそ」
ふんっと鼻息を荒く見送るともうそれ以上何も言ってこなかった。
父に食事を渡し終え、自身の食事をしようと戻ると扉をノックする音があった。
「来たっ!?」
すぐに姉は扉を開いていく。
「……お早い事で」
ラルフさんだった。
「まぁ、ラルフ様。おはようございます」
「えぇ、おはようございます。……いつからそこに」
ラルフさんは廊下に並ぶいくつもの鞄を見つけては驚きの表情を見せていた。
「せっかくアルバート様にかけてもらったお言葉。
待たせるなんて出来ませんわ」
「そうでしたか」
「えぇ!早速行きましょう」
ラルフさんと共に姉は鞄を手に取り、外へと向かおうとした。
でも……。
「じゃあね、レナ」
姉は私に満面の笑顔で別れを告げ、止まっている馬車に鞄を詰め乗り込んでいった。




