勝者と敗者
「このままじゃ一緒に働いてくれた人達が路頭に迷うわ。それは避けたいんじゃない、お父様?」
父は苦しみながらもその言葉を否定できず、さらに姉は続けていった。
「レナも働きたいならお父様の跡を継げばいいじゃない。そうよ、そうすればいい!一石二鳥じゃない!?」
「何を言って……」
「そうしましょう!早い方がいいわ。リック様、レナの件はアルバート様にお断りを」
決めつけた姉はリックさんに提案するが、リックさんは首を横に振り、それを拒否した。
「それはあなたが決める事じゃない。先程も言ったが、アルバート様の決定を私などが覆す事は出来ません」
「一言いってくれたらいいのです。……屋敷で働くのは無理だと」
パンッ!!?
乾いた音が廊下に響いた。
「なっ……なにするのよ!?」
「もう、いい……」
私は姉の左頬をビンタした。
赤く腫れた姉の頬、そしてジンジンと痛みが増していく私の右手。
「屋敷で働くのはやめる」
「へっ!?」
「れ、レナさん??」
「この家にもういないで、お姉様……。屋敷でもなんでも行って欲しい。お父様が亡くなる事をなんとも思ってない人にこの家にはいて欲しくない」
涙声で話す私に父はそっと寄り添ってくれた。
「……そ、そう。そう言うならすぐに出ていくわ。
リック様、お聞きになりましたよね?レナは無理だと自分から言いました。ならそれをアルバート様にお伝えください。本人が無理と言ったのだから!」
リックさんは私の事を見た後、『本当にいいのですか?』と確認してきたが、頷き了承した。
「……分かりました。お伝えします」
そしてリックさんは私達の家を後にし、屋敷へと戻っていった。
「馬鹿ね、せっっかくのチャンスなのに、自分で棒に振るなんて」
「もういいでしょ!」
「はいはい」
姉は私に打たれた頬を摩りながら自室へと戻っていき、廊下には私と父のみとなった。
「レナ……」
両手をグーにして握りしめた私を父は優しく包み込んだ。
「お父様、もう休んだ方がいい」
「……あぁ、そうだな」
私は父の腰に手を回し、ゆっくりと父の部屋へと歩んだ。
途中、姉の部屋の前を通ると、鼻唄が扉の外にも漏れてきて更にイラっとしてしまい、腰に回した手に力が入ってしまった。
「……後で飲み物を持ってくるね」
「すまない」
部屋へと送り、もう一度姉の前を通り厨房へと向かう。
まだ鼻唄は続いているようで先程よりも声量が大きいようだ。
(いつか、その勝ち誇った顔を絶望にさせる……)
私は心に誓い、その場を後にした。
ーーーーーーー
数日後の朝早くに家の扉をノックする音に気付く。
「はい」
開けると、そこにはリックさんがおり、神妙そうな顔で私を出迎えた。
「……どうしましたか?」
「レナさん、お姉さんはいますか……」
「姉、ですか」
「はい……」
暗い顔のリックさんの手元には2枚の白い便箋を持ち、掴むその手は少しだけキュッと力が入っていた。
「あら、何かご用で??」
リックさんを見るなり強気の態度で接する姉は腕を組み、持つ便箋にすぐに気づいた。
「それは、もしかして?!」
「……あなただけじゃない」
リックさんは二枚のうちの一枚を姉に、そしてもう一枚を私に渡してきた。
姉はすぐにその中身を確認していく。
「あはははっ!?」
高らかな笑い声を上げてはお腹を押さえている。
「ほらね!やっぱり!?アルバート様から屋敷で暮らさないかって。もう確定よね!?」
姉は持っていた紙を私とリックさんに見せつけるように広げ、勝ち誇っていた。
「今すぐにでも行かないと!……あっ、でもあんたの内容も《《一応》》聞いてあげる。確認してみなさいよ」
ジッとみる姉の前で私も便箋を破り、中を確認した。
「……」
黙っている私を見て、姉は奪い去るように紙をスッと取った。
「……なになに?」
内容を確認した姉は、また大きな笑い声を上げた。
「ホントあんたって馬鹿よね!屋敷で働けたのに辞退するって言ったからアルバート様も『残念だ』って書いてあるわ。
あー、おかしい!?」
私の不採用を知ると姉は紙を投げ捨て、屋敷へ行く準備するからと言い放ち去っていった。




