不満
廊下からは面白い情報を手に入れたことで機嫌よくなった姉の鼻唄混じりの声が聞こえてきた。
一方で私は吐いてしまった皿を厨房に持ち、言われた通りに捨てた。
自分から出した匂いを感じると涙が自然と流れ、しばらく厨房の隅で泣いた。
ーーーーーー
時が過ぎ、姉の友人達も家を去り、辺りは暗く夜を迎えていた。
「ちょっとぉ」
見送った姉が厨房にいる私を見つけ声を掛けてくる。
見上げると不服そうに仁王立ちしており、機嫌は悪くなっていた。
「お姉、様」
「大広間、片付けてくれる?それと私お腹空いたからご飯の用意して。……あっ、でも魚は無しよ。思い出しちゃうから」
「……」
「なによ、聞こえなかったの?片付けて、用意をしなさい」
「……って」
「はぁ、なに?聞こえないんだけど!?」
「気持ち悪くて……」
「気持ち悪い?なんで?どうして?」
分かっているはずなのに、疑問を呈し私に聞いてくる。
そして隅に座る私の前に座り出すと、自身の口元を抑え始めた。
「やだぁ、ちょっと匂う。なんの匂いかしら?」
「……ごめ」
「話さないでくれる?すごく臭うから」
本末転倒なことを言ってくる。
「臭いから口濯ぎなさいよ、そしてすぐに言った事して」
姉は逃げるように立ち上がり厨房から出ていった。
気持ち悪さの残る体をおし、私は大広間に戻り少しずつ片付けた。
いまだに眠る父は起きる様子は無く、無理に起こせば機嫌が悪くなるのを知っているためそのまま寝かせておく事にした。
厨房と大広間を行き来していると、姉が監視するかのように廊下の向こう側にいるのが見えた。
私と目が合うと口元を抑え始め不敵に笑っているようだ…。
そんな事を見てグッと皿を持つ手に力が入った。
そして大広場は片付け、次は料理だ。
なに一つ手伝う事もしない姉。
この家で一番下はあんただから、と前に言われたことがある。
ほんの数分生まれた時間が違うだけなのにこの差…。
いっそ毒でも盛ろうかと思ってしまうことは何度もあった。
でももし、そんなことをしたらこの家、いや、この国に居続けるなんて出来るはずもない。
だから私は耐えるしかなかった……。
ーーーーーー
「で、出来ました」
廊下の向こう側にいる姉に対し声を掛けるとゆっくりこちらへとやってきた。
だけど片付けと料理に必死になっており、言われた口を濯ぐことを失念していた。
「……臭い」
一言だけ吐き捨て、大広間へ入った姉。
お礼など一言もない……。
口を何度も濯ぎ私も大広間に入った。
私と姉の席は向かい合う形だが、その距離は遠く同じ家に住む者とは思えないくらいだ。
ナイフとフォークの音のみが鳴る大広間。
姉妹の会話など全くなく、お互いに料理を食べるだけだ。
普段なら父が会話のきっかけを作るが、今その父は寝ているため全くの無言だ。
カチャンっと鳴らす音に、私はゆっくり目線を姉に向けると不服そうな顔を見せてきた。
「……もういい」
言われた通り、魚料理など出していない。
だけど、不服な顔を見せてくる。
「あの、味が変……?」
「飽きた」
「飽きた……?」
「あんたが作る料理はいつも同じのばっか。飽きて仕方ないのよ」
その言葉に私は溜め込んでいた気持ちが一気に吹き出した。
「……じゃあお姉様が作ればいいのに」
「はぁ!?」
「そうすれば飽きないでしょ……」
「なに言ってるのよ!料理なんてあんたの仕事でしょ。料理だけじゃなく家の事は全部あんたがするって決まってるの。私が作る?ふざけないで!?」
「でも!そう言うならそれが普通でしょ!?」
「普通ってなによ、普通って!?あんたは『妹』なのよ!妹は姉の言うことを聞くのが当然でしょ!?」
私の言いがかりに最初は驚いた様子を見せた姉だったが、すぐにいつもの調子で口撃してきた。
そこでいつもの私なら折れ、黙り、従うのだが、今は違った。
溜まったマグマが吹き出し、折れずに姉に対峙し、舌戦を繰り広げていた。
「……っぅるせぇな」
私達の口論に父が起きてきた。
「あっ、お父様、聞いて!こいつ私を責めるのよ!?なんとかして!?」
すぐに父を味方にしようと自席を離れ上座にいる父へと近寄っていった。




