二人の狭間
一人、二人と大広間を後にする役職の人達を見送り、残った父と私。
「んん?なんだ、酒じゃないのか!リナ、酒だ、酒!?」
「お父様、もう飲むのはやめて……」
「なんだぁ!父親に向かってその言い草は。誰がここまで!!?」
普段は温厚なのに酒が入ると人が変わったようになる父を何度介抱しただろうか…。
その度に優しくするが、一度スイッチが入ると酒が抜けるか寝るまでこうなってしまう。
だから私は何度も厨房を行き来し、お酒だと言い、水をも持ち、諭しながら飲ませる。
ただ、ごく少量のお酒を混ぜ……。
次第に眠くなったのか、父は机に俯ぶし、いびきを掻き眠り始めた。
「……やっと」
静かになった大広間に残る多くのお皿を一つ一つ重ね、片付け始める。
ただ、ほとんど食べてない皿もあり見るとそれは一つだけではなく、いくつもある。
父の周りの皿は食べ残しはあまりないが、下座に行くほど残る率が多い。
多分父の世話をするため食べる余裕なんて無かったんだろう…。
「作ったのに……」
残る皿に載る魚のムニエルを私は手づかみで食べた。
「行儀が悪いわね、あんた」
振り返ると姉がいた。
「何故……?」
「トイレよ、トイレ。用を足すのにあんたの許可がいるの?」
「そんなこと」
姉はトイレと言いつつも大広間に入ってきて周りを見渡すと大きくため息を吐いたのち、少しだけ残った瓶を手にし始めた。
「なにを?」
不思議がる私をよそにその瓶をラッパ飲みし始めた。
「お、お姉様、それ、お酒!?」
タンッと机に置くと私の事を見てきた。
「お酒がなに?もう私は15よ、飲んでもいいはず」
レスター国では15になると大人と認められ、お酒はもちろん、結婚する事もできる。
「でも、まだ私達は」
「うるさいわね。お酒の一つくらい飲めなくてどうするの。これからそんな機会たくさんあるじゃない。
飲めて損はないのよ!ほら、あんたも飲みなさい!」
机に置いた瓶を私に向け差し出すが私はそれを拒否した。
「なに拒否ってるのよ?え、なに?まさか私が口を付けたのを飲めないの?」
「そういう訳じゃ……」
「じゃあ飲みなさいよ」
普段の物言いもだが、こうやって人を口撃する様は父親から受け継いだのだろうか…。
冷めるまで、納得するまで止められない。
「ほら、早く!?」
差し出された瓶を持ち、その飲み口を見つめる私。
諭す…いや、強要するように口撃してくる姉の言葉からは逃れられそうになく……私は一口だけお酒を飲んだ。
「飲めるじゃない!ほら、あとは全部あげるから飲みなさいね!?」
上機嫌になった姉は大広間から出て本来の目的のトイレへと向かっていった。
「ケホケホ……」
初めて口にしたお酒はワインだった。
口当たりが良いとかそんな気持ちはなく、ただただ苦味しか感じなかった。
(こんな物をこれから飲む事があるなんて……)
一度しか口にしなかったお酒を一気に嫌いになった。
しかし、体に回り始め足元がふらつき、視界も少し歪んで見えるようになっていた。
呼吸も早く片付けなど考えられないほど立っていられなくなり床に崩れ落ちた。
「はぁはぁ…はぁはぁ……」
気持ち悪さが襲い、いますぐにも嘔吐しそうになり口を抑え必死に耐えた。
だけど、体に回ったお酒は簡単には収まってくれず、私はふらつきつつ机の縁に手をつき、なんとか立ち上がると少し深めの皿に嘔吐した。
「やだぁ、なに吐いてるのよ」
運悪く姉に見つかってしまった。
「うわぁ……汚い。やだやだ、レディがそんな姿見せて。近寄らないでくれる?匂いも嫌だし、なによりその皿、さっさと捨てなさいね」
口を塞ぎつつ私の目の前から去っていく姉。
最悪な場面を見られ、多分この事をいずれ父に言うのだろう。
そしていつまでも覚え、口撃するネタにするに違いない……。




