距離
残された私は初めて会う国王に緊張しているが、どうやら姉も同じようだった。
先に口を開いたのは国王の方だった。
「其方達は双子といったな、……仲は良いのか?」
その質問の答えはNOだ。
でも…。
「えぇ!とても仲は良いですわ。少し性格は違いますが、レナは……」
姉は私の事を色々と国王に答えていくが、そのどれも偽りである。
だから饒舌に話す姉に対し、私は何も言わずにただ黙ってそれを聞き、目線を姉に送っていた。
「……そうよね!レナ?」
同意を求めてくる姉の目は優しくもあるが、その奥に潜む感情を私は感じとった。
「……えぇ、そうです」
ここでも私は嘘をつき、後ろで組んだ手をギュッと握りしめた。
「そうか、仲が良いのは良いな。アルバートには兄弟もいないから寂しい思いをさせてしまったのかもしれん。
妹思いのレオナに会ってあいつも良かったのかもしれんな」
「ほ、本当ですか!そんな事言ってもらえて光栄です!?」
好感触を得たと思った姉は近づき、ベットに軽く横たわる国王の右手にそっと手を添えた。
初対面にも関わらず厚かましい…と思った。
少しばかり好感を得ただけで懐に入る姉の行動に苛立ちを覚えてしまい、『あの……』と私は声をかけた。
「どうしたの、レナ?」
「その、体調が悪いって言ってたから、あまり……」
その言葉に姉は触れていた手を離し、距離を取った。
「も、申し訳ありません!」
深々と謝る姉に対し、国王は怒りもせず優しそうな目でその姿を見ていた。
「いや、いい。それよりもあいつは少し頑固な所がある。それをレオナの優しい心で癒してもらえたら変わるのかもな」
「あ、アンドリュー様」
姉の巧みな言葉と行動は国王の心を得たようで、もうほとんど公認のような形になっていた。
すぐ近くにいる二人はどこか『家族』のような空気感になっており、私はその輪に入ることが出来ずにいた。
ゴホ、ゴホっ
国王が少しキツめの咳をし始めた。
「アンドリュー様!?」
姉はすぐに近寄り背をさする。
「レナ、外にいる人達を呼んできて、早く!?」
姉の言葉にハッとし、すぐ扉を開け、近くにいるアルバート様やラルフさん、エリスさん達を呼びに向かった。
「……はぁっ」
「無理をなさらずに、アンドリュー様。今日はもうお休みにならないといけません。これは私の指示です。いいですね?」
エリスさんは白いガウンの前を剥ぎ、聴診器を当てながら国王にキツめの口調で責めた。
「……敵わんな、お前には」
「なんとでもおっしゃってください、私は主治医ですので」
そう、エリスさんは医師であり、周りにいる二人の使用人は看護師だ。
「アルバート様、ラルフ様、今日はもう……」
「あぁ」
体調の悪化によりこれ以上は厳しいと判断したエリスさんの言葉に二人が異を唱える訳もなく私達を連れて部屋を後にした。
ーーーーーーーー
「すまないな、レオナ」
「いえ!……お父上様はどこか悪いのですか?」
その後、アルバート様の隣には姉がベッタリとくっつき会話をしている。
「……レナさん」
コソッとリックさんが私に声をかけてくる。
だが、ラルフさんは私達の元を去り、他にやらねばならない事があるらしく、引き継ぐ形でリックさんが私達の対応に当たっていた。
「君のお姉さんは、……なかなか」
「……え、えぇ」
少し離れて歩いている為、聞こえはしないかもしれないがそれでも私は先を歩く姉に注意し、あまり深く答えようとしなかった。
そのまま屋敷の外の花壇がある場所へと向かっていった。
「ここにあるのもアルバート様のご指示ですか?」
「あぁ」
「赤い花。……とてもいい香りがしますね」
「分かるか」
「えぇ。とっても」
どうやら共通の話題をいくつも知ろうとする姉。
二人の距離は次第に近くなっているように見えた。
だが、アルバート様から寄ってはいない。
姉からだ。
「あっ」
花壇を歩く姉は急にバランスを崩し花壇の中へと転びかけた。
「レオナ!」
すぐに左手を腰に回し、引き留め自身の方へと引き寄せていく。
「あっ……」
一気に近づきお互いに見合っているのを私とリックさんは目の当たりにしていた。
「……図々しい」
「えっ」
「あ、いや……」
私はつい姉のとった行動が本意では無い事を感じ取っていた。
あれは絶対演技だ。
どうすれば更に距離を縮められるかを知ってる姉の策略であり、見事にアルバート様のすぐ側に身を委ねる事に成功していた。




