24.目指すもの
今回はいつもより長いですが、お付き合い頂けると嬉しいです。
あの模擬戦を終えてからダグラス君に勝負を挑まれるようになった。この前の引き分けがそんなに悔しかったのだろうか。
私はその勝負を大変平和的な内容で済ませている。
最初は攻略対象者だからと避けていたけど、なんとヴァンとダグラス君は昔からの知り合いらしいのだ。
きっと二人で話したいことも沢山あるだろうに、私が理由で仲良く出来ないなんてことはよろしくない。
聞けば、得体の知れない私とヴァンが仲が良かったのが不可解であんな態度を取っていたらしい。私のクラスの立ち位置を考えれば仕方ない、かもしれない。解せぬが。
彼はきちんと謝ってくれたので、あの態度は水に流した。本当の理由もまだありそうだけど、話す気がないなら今はスルーだ。
そして、そういうことなら私も一緒に仲良くさせて頂きたいというもの!
ダグラス君本人はまだ気付いていないけど、私は勝負にかこつけて毎日共にボードゲームをしたり、昼食を共にしたりと着実に外堀を埋めている。傍から見れば、すでに彼は私の友人に見えること間違いなし。ふふふ。
たまーに、ヴァンにつられて「ダグ」と呼んでしまうことがある。しかし、指摘されたことはないのでこのままなし崩し的に呼んでやる予定だ。
前に一度、きちんと試合したいと言われたけどあの頃の彼は何かに対して苛立っていた。そういう感情に任せた戦いから学べることは案外少ないものだ。兄との稽古でよく知っている。だから、丁重にお断りさせてもらった。
ダグラス君はは気付いているだろうか。以前の彼よりも表情が柔らかくなっていることに。もうアルやニコルとも普通に会話していることに。
今の彼となら試合しても良いと思っている。彼ともう一歩仲良くなる為に、何かきっかけが欲しいものだ。
今日もダグラス君を含めた仲良し5人組で夕食を終え、各自解散した。いつものように寮母さんの所へシャワーを借りに行く。
「ユーリ君ごめんねぇ。シャワー壊れちゃったみたいで水しか出ないのよぉ。 」
寮母さん曰く、さっき急に壊れたらしい。
「今日はここのお風呂使えないから、寮のシャワールーム使ってちょうだいな。夜中の1時くらいなら皆寝てるから鍵開けるわね。」
寮母さんは私の性別を知っている数少ない人物。表面上はきちんと男の子として扱ってくれる。ご年配だが、しっかりとした方でとても信頼している。
「お詫びにこれ、紅茶とクッキーあげる。紅茶のポットは魔道具だから冷めにくいわよ。やっぱり甘い物も食べたいわよねぇ、ふふふ。ユーリ君はハンサムさんだから、私も最近毎日楽しいわぁ。」
とウインクと共に手渡された。優しくてお茶目な方だ。
「ありがとうございます。時間になったら鍵を借りにまた来ますね。」
それから課題をしたり本を読んだりして時間を浪費した。
「ほぇー、これが寮のシャワールーム! ひろい! 」
寮母さんのところは俗に言うユニットバスという奴で、お世辞にも広くはないので、こんな大きなところは久しぶりだ。
ここの作りは仕切られた個室のシャワールームがズラっと並んでおり、そこを抜けると大浴場がある。珍しい造りだとは思うけど、こんなに大きなお風呂を使ってるクラスメイトたちが羨ましい。
ちなみに私がここを利用してないのを他のクラスメイトに怪しまれていないのは、Cクラスのヴァンと一緒に向こうの寮のシャワールームを利用していると思われているからだ。
誰が言い出したかは知らないがそんな噂があった。私は肯定はしていない。否定もしていないだけ。
ふと、胸のサラシを緩めた。この瞬間が私の男女を切り替えるスイッチだった。
痩せてみたら姿を現したこいつは、ぺったんこだった前世の私なら喜んだであろう立派なサイズだった。しかし、今となっては邪魔以外の何物でもない。毎朝頑張ってサラシを巻き付けて誤魔化すのも面倒くさいのだ。なにより疲れる。
シャワーを全開にして身体を清めていく。やっぱりシャワーは良い。気持ちいい。
この時の私は完全に気を緩めていた。
「おい! ここの使用は23時までだ! ルールは守れ! 」
だって、まさか急に扉が開くなんて思わないじゃない。
振り返ると「これぞ驚愕」という表情を浮かべたダグラス君が立っていた。
私は私で冷静なフリをして叫び出す寸前だった。
叫び出そうとする互いを見て、二人が次に取った行動はお互いの口を塞ぐことだった。
「きゃ、むぐっ!?」
「お、おん、もごっ!?」
そうして隠す手段を無くした私の裸は余すとこなく彼に見られた。彼は倒れた。
(な、なんでこんなことに.......。)
あれから急いで諸々を済ませ、ダグラス君を引きずって私の部屋に運んだ。せっかくのシャワーを台無しにするくらいには汗をかいた。
「さて、どうしようかな.......。談話室でも行こうかな。」
さすがに同じ部屋で一晩過ごすつもりは無い。だけどダグラス君の部屋も知らないので、私が出ていくしか無さそうだ。
談話室と言ってもひとつの部屋ではなく、寮の玄関に入ってすぐのソファとテーブル、本棚が並んだスペースのことだ。
(あのソファなら一晩寝るくらいできるはず!)
と部屋を出ようとしたところで、ダグラス君が目を覚ました。目が合ったところで、
「も、申し訳なかった!!!!」
と土下座された。ベッドの上で。
「え、今の今まで寝てたよね? 土下座になった瞬間が速すぎて見えなかったんだけど....」
と素っ頓狂な返事をしてしまったのは許して欲しい。
「まぁ、起きたのなら良かった。でもこの狭い部屋に私たち二人がいるのは色々良くない。良かったら談話室で話さないかい? あそこなら開けているから人が来てもすぐ気付ける。それと美味しい紅茶とクッキーもあるんだ。」
ダグラス君は黙って付いてきたけれど、手と足が一緒に出てる。なんか動きもカクカクしてる。
(こっちの方が恥ずかしい思いをしたはずなのに....!)
「ここなら開けた場所だから、誰か通ったら気付けるはずだよ。それとこれからお互いが話すことは独り言。そういうことにしないか? 」
私はそう提案してみる。
「わ、分かった。.......これも独り言だ。」
(うんうん。話が早くて助かる。)
「えーと、何が聞きたい? あ、これも独り言ね。」
「なに、と言われると難しいな....。お前の思う騎士とはなんだ? 何を目指してここにいる? 」
「....思ってた質問ではないけど、核心にも触れるね。 」
湯気のたった紅茶を啜り、話し始める。
「私の家はとある貴族だ。領民から慕われている両親は私の誇りだ。私は騎士になり、家を守りたい。きっと自分らしくあれると思うから。....でも家族のことも大好きなの。彼らを悲しませたくない、でも自分の夢も諦めきれない。そこでとった手段が期間を設けること。この二年間だけは私の自由なの。両親にはこの学校に通わせてくれるだけでも感謝してる。その恩に報いる為にも卒業後は私の役目を果たすつもり。」
いつの間にか変わっている口調に自分では気付けなかった。
「私の思う騎士とは守りたいものを守る者よ。何を守りたいかは人それぞれで、国はもちろん個人や物、或いは誇りかもしれない。それらを守るためにはきっと力も知識も必要よ。でも同じくらい大切なのは自分が死なない覚悟だと思うわ。よく「命をかけて」なんて言うけれど、それはつまり最後まで守り通せないということよ。それは諦め以外の何ものでもないと私は思えてしまう。そして死なない覚悟っていうのは、自分らしさを殺さないことも含まれてる。」
「だから、私は騎士になりたいの。私は私の家を、家族という誇りを守るのよ。守り方も一つではないもの。それが私の目指す騎士。私の目指しているものよ。」
最初はゲーム好きな前世の私のわがままだと思っていた。でもダグラス君に話しているうちに自分の、ユーリアとしての強い意志も確認出来た。
「.......凄いな、ユーリは。俺は最初お前に憤っていた。それは騎士になりたいという意思が感じられなかったからだ。でも最近は、自分の目指していた騎士が曖昧なことに悩んでいた。もしかしたら王国騎士団長の父親の跡を継ぐことしか頭になかったのではないかと。それでは何も守れるはずもないよな。勝負に負け続けて当然だ。」
「それが怒っていた本当の理由ね。....それより、大丈夫だよダグラス君。君が私に憤ったということは、私が目指している騎士と、君の目指して騎士が違っていたからに他ならないよ。つまりまだ具体的な言葉を得ていないだけ。君の中にはちゃんと君の目指す騎士の理想があるってことだよ。」
その言葉を聞いて、彼ははっと顔をあげた。
「俺はそれを見つけられるだろうか.......?」
「そのために学校に通ってるんじゃないか。それに私たちはまだ子どもだ。卒業してからだって遅くはないよ。今は父親の跡を継ぐんじゃなくて、父親のような騎士になりたい、でいいんじゃないかな。仮の目標としては大き過ぎるかもしれないけど。」
「....喋り方。俺と二人の時は口調は気にするな。ユーリも自分らしく話せる時間が必要なのではないか? それと性別のことも誰にも言わないと約束する。授業中もできる限り手助けしよう。」
「ありがとう。でも今まで通りでお願いしたいわ。私としては「お前は女か?」と問われればいつだって正直に言うつもりでいるのに、今まで疑われたことすらないの。性別を隠しているのだって学校に言われたからよ。本当は男子のみなんて規定はないもの。」
「そうか、分かった。このことを知っているのは他には誰がいる? 」
「教官は全員知っているでしょうね。それと寮母さんとヴァンと貴方だけよ。」
「分かった。今まで通りには接する。しかし男子寮に住んでいる以上はなるべく隠しているべきだ。そこは曲げられない。だからその秘密は卒業まで守り通せ。」
「.......それもそうね。どうやら自分を安く見過ぎていたわ。だからヴァンにもよく怒られていたんだわ。反省しなくちゃ。」
「はぁ、ヴァンの苦労が伺えるな。こうも抜けていると四六時中一緒に居たくもなるか。」
なんだか凄く呆れられた。反省すると言っているのに。
「ユーリ、今日は話してくれてありがとう。俺のことはダグと呼んでくれ。それと勝負はもう仕掛けない。でも、」
ダグ呼び、本人から許可頂きましたっ! よっしゃ!
それと何かを言い淀む彼。
「.......飯はこれからも一緒に食べていいだろうか。」
目線を逸らしながら、恥ずかしそうに小声でそう言うイケメンの破壊力ったら...。
そうだった。彼はツンデレだった。でもさっきから急にデレ過ぎじゃない? 心臓に悪いよ?
「もちろんヨっ! 」
(.......声が裏返ったわ。)
そうしてカップの紅茶が冷めきった頃、ようやく二人は自室に戻った。
誤字の報告ありがとうございました。これからも見つけ次第教えて頂けると嬉しいです!
ここからは余談ですので、読み飛ばして頂いて構いません。
実はダグはツンデレキャラではありません。ユーリアがユーリだったから最初がツンだっただけで、本来は男気のある真面目キャラさんです。ユーリがそのことに気付けるのはいつでしょうか。
きちんとした? ツンデレキャラは別におります。まだ未登場ですが、名前は出ておりますよ。
ここまでお読み下さってありがとうございました!




