23.騎士らしさ《ダグ視点》
俺の名前はダグラス・ハーヴェナー。
親しい者たちからはダグと呼ばれている。
俺の敬愛する父親は、現王国騎士団団長である。団長に任命されたと同時に一代限りの爵位も賜った。元々騎士を輩出している家だったが、ここまでの地位に上り詰めたのは父が初めてだった。それもたったの十年あまりで。それは父本人の活躍と実力が国に認められたからだ。
そして、長男である俺がその立場を目指すことは必然の流れだった。
俺の父親には尊敬している人がいた。まだ父が新米聖騎士だった時の騎士団副団長だったテオドラ・シュベールトという人物だ。騎士団に入る前からの付き合いだったそうで、かなり優秀な人だったらしい。「俺がこの立場になれたのも、あの人がいたおかげだ。」と父はよく言っていた。
俺がテオドラ様に初めて会ったのは奥様の葬儀の時。その時にヴァンとも出会った。それからは一年の内に二、三度は家族ぐるみで二人と会う機会があった。その度にヴァンとはお互い騎士を目指そうと語り合ったものだった。まだ友人と呼べる程は親しく無いけれど、きっとこれからそうなれると思っていた。
しかし、それは叶わなかった。俺が十歳のときにテオドラ様が殺されたという報せがあった。そしてヴァンはアレクサンドラ伯爵家という貴族に引き取られたとも。
「アレクサンドラ家の現当主はテオドラ様のご友人だった方だ。何度かお会いしたが、立派な方だよ。ヴァン君も任せて大丈夫だろう。」
父はそう言った。それからヴァンと会うことは無かった。
ヴァンと再び会えたのは士官学校に入学してからだった。クラスこそ違ったが、彼もまた騎士になる道を選んでいたことが純粋に嬉しかった。
同じ学校にいるのだし、そのうち挨拶も出来るだろうと軽く考えていた。しかしその機会は中々来なかった。何故なら、ヴァンとずっと一緒にいる奴がいるからだ。
それ自体は別に構わない。ヴァンもよく笑っていたし、仲の良さはすぐに分かった。しかし一緒にいる奴が問題だった。そいつは同じクラスで隣の席のユーリという奴だ。
銀髪に翡翠の瞳をした彼は華奢で非力そうな、いかにもな貴族だった。この学校は身分についての言及を良しとしないため、真実はさだかではないが。最初は引き取られたというアレクサンドラ家の繋がりで知り合った貴族なのだろう、と思っていた。
だがクラスでの奴の素行はどうだ!? とても貴族の振る舞いではなかった。いや、正確にはたまにらしい立ち居振る舞いもするのだが、それもまた奴の不自然さに拍車をかけた。クラスからも割と浮いていた。本人は気付いていないようだが。
しばらく昼休みや放課後、空いた時間に二人を観察するようにした。ヴァンが得体の知れない奴と関わり、道を踏み外してしまわないようにだ。
そして観察して気付いたことがあった。それはユーリに騎士になりたいという想いが見えないことだ。クラスでの授業態度は真面目だし、訓練も手を抜いている様子は無い。空き時間に自主的に鍛錬を行っていることも見ていて知った。しかし、奴から騎士になろうという熱意だけは見て取れなかった。
そのことが無性に腹立たしかった。士官学校に通う者全てが騎士を目指していないことは理解している。将来のために一応と通わせる親も多い。それは良い。だが、共に騎士になろうと志したヴァンとそんな奴が一緒にいるのは許せなかった。
そんなとき、授業で木剣での模擬試合があり、偶然にもユーリとの対戦だった。これは良い機会だと思った。正々堂々と戦い、実力差を示そうと思った。
しかし奴はちょこまかと数回打ち込んできては退く。それの繰り返しで、俺の攻撃はなかなか当たらなかった。やはり騎士に相応しくないと思った。
だが、そこで問われた。
「騎士らしい、というのはどういう基準で判断するのかな?」
(何を言っている? 騎士らしいとはもちろん、父やテオドラ様のような立派な....)
ここでふと自分の描く騎士像があまりにも漠然としているものだと気が付いてしまった。
俺が目指しているものが本当はあやふやだがら、こいつに勝てないのだろうか。騎士らしくないと卑下していたこいつには、目指している将来があるのだろうか。
戦いの最中にも関わらず、ぐるぐると答えの見えない問答に飲まれてしまう。それが、俺の判断を遅らせた。
普段なら避けられたであろう攻撃に対処出来なかった。出来たことと言えば、実戦では大怪我物の無様な反撃だけ。
悔しいが、引き分けでは無く負けたと思った。試合の途中まで、攻撃が当たらないのを騎士らしくないとユーリのせいにしていた自分に腹が立った。思わず舌打ちをした。
そのあとは、我ながら格好悪い捨て台詞を吐いた。
「おいユーリ。何でもいいから俺と勝負して欲しい。」
「え、やだ。」
これはここ数日頻繁に行われている会話だ。俺はユーリの強さの理由が知りたい。そのためにこうして仕掛けているのだ。
「うーん、早食い競争にしようか? それならいいよ。」
「分かった! 今日こそ勝つ!!」
「あはは、今日も一緒にご飯だねぇ。」
「最近毎日一緒だ。君、ユーリのこと好きだろう。」
とはCクラスのニコルと同じクラスのアルフォードだ。
「俺は嬉しいけどなぁ。ユーリとダグが仲良いの。」
ヴァンとは、ユーリに勝負を挑む内に話すようになった。俺のことは覚えてくれていたし、昔よりも話すようなった。
「ダグが何でも良いって言うから。.......今日も負けないけど。」
ユーリはニヤリと笑っている。
「俺こそ負けん!! 」
「「いただきます。」」
これがスタートの合図だ。ユーリとヴァンから教えて貰った感謝の挨拶は自然と身についた。
(.......今日も勝てなかった。何故だ。)
ベッドに横になり考える。これまで挑んだ勝負は、寮に帰ってからのカードゲームやボードゲーム。食事の際の早食い競争ばかりで、拳や剣を交えることはまだ無い。鍛錬と称して、勝負を挑んだこともある。しかし、
「戦いは好きだけど、相手を負かしたいからじゃない。ダグが変わらないうちは、そういう勝負はしない。今勝負しても、お互い得られるものはない。」
と言われた。意味が分からない。
(.......駄目だ。眠れない。)
もう夜中の1時近い。一度手洗いに行き意地でも目を瞑ろうと思った。
廊下に出て、共用の手洗い場に向かう。途中通ったシャワールームの中から音がした。
(使用は23時までのはず.......。クラス長として注意しなければ! )
俺は使命感に燃え、シャワールームへ入った。ズラリと並んだ個室。閉じているのは一つだけだった。
(どうやら一人のようだな。)
「おい! ここの使用は23時までだ! ルールは守れ! 」
と言いながら、個室のドアを開けた。
そこには、ユーリと同じ顔をした女がいた。
ここまでお読み下さってありがとうございます。
次回はユーリ視点ですよー。




