22.模擬試合
ここ最近はお昼休みを4人で過ごすようになった。
私、ヴァン、アル、そしてヴァンのクラスメイトのニコル君だ。
淡いピンクの髪と瞳。髪は本人曰く生まれつきのゆるふわパーマ。そこらの女の子より可愛いという言葉が似合っている。
最初は口数の少ない子だなと思ったけれど、今ではすっかり打ち解けていた。
「ああ、癒されるー。」
目の前のヴァンとニコル君、隣のアル。彼らは皆穏やかで、体からマイナスイオンでも出ているんじゃないかと思う。ほわほわだ。アルだけはたまに一言余計だけどね。
前世の私なら近づくことすら憚られる顔面偏差値の高さだが、今の私はユーリだ。黙っていればこの並びにも劣らないぞ。ちなみに「黙っていれば」とはアルの言葉だ。
「確かにねぇ。ニコルはもちろん、ヴァンもユーリも見た目冷たそうだけど喋ると全然違うよね。君たちとの時間は本当に穏やかだ。.......この視線さえ無ければだけど。」
ピシリと空気が凍った。本当に一言余計な男だ。
「あ、皆ちゃんと気付いてたんだ。良かった。じゃあ敢えて無視してるの? 」
「.......そうだよ。もうひと月半にもなるかな。相手も何もしてこないから無視してたらいつか無くなるかなと思ってさ。」
「なるほどね。でも最近は殺気も混じってきてるし、それも限界じゃない? 」
そんなことは分かっているのだ。それに最近は私一人の時にこの殺気混じりの視線を寄越してくることが多い。犯人の狙いはどうやらヴァンでは無かったらしい。
「前に一度、この視線の犯人を追いかけたとがある。でも、すぐに気配を消された。これは我慢比べだよ。相手の方にボロが出るのを待つよ。」
自然とため息が出る。ヴァンが「そんな話聞いてない」という視線を寄越してくるがこちらも今は無視させて貰う。
「よーし!午後の授業も頑張ろう!」
大きく伸びをして、思考を切り替える。
「よし、今日は木剣を使った試合をするぞー。対戦相手はこっちで勝手に決めるから、名前呼ばれたら前に出ろ。それ以外の奴らは上の踊り場で見学だ。学生同士なんだから、互いの技は盗んでいけよー。試合だからな、入学初めてお互いに優劣がつく。だが、そんな機会はこれからいくらでもある。勝った奴も負けた奴も大事なのはその後どうするかだ。今日は怪我人も出るかもしれないから、自分の試合が終わったところで授業も終いだ。残って試合見ててもいいし、救護室に運ばれるかもしれないし、帰って寝ててもいーぞ。それじゃ第一試合は....」
私ではなかったので、踊り場の方へ移動する。
(試合かぁ。楽しみだなぁ。私としては、是非皆の試合が見たい。)
なんて呑気に思いながら。
第五試合が終わったところで、私の名が呼ばれた。
「次、第六試合! ユーリとダグラス! 」
(おぉ! クラス長ではないか!! クラス内でも指折りの実力者! 張り切っちゃうぞ!! )
と意気揚々と対峙するも、楽しみな気持ちはすぐに消え去った。
「ユーリ、皆の前で貴様を倒せることを嬉しく思うぞ。」
(「貴様」って言う人初めて見た!!ってか怖いっ!)
と普段の私ならば呑気に思えただろう。だけど今は無理だ。だって私はこの視線を、この痛いまでの殺気を知っている。
(まさか、犯人はダグラス君? それにここまでの殺気を向けられる理由は何なの? )
はっきり言って彼のことは入学まで知らなかった。入学してからだって、攻略対象者である彼には近付かないようにも気を配ってた。だからこそ、謎である。
「いやぁ、ダグラス君にそこまで意識して貰えていたなんて光栄だな。お手柔らかによろしくね。」
なんて口では言って見るものの、その効果は無さそうだ。
アラン教官の合図で互いに礼をする。試合開始だ。
すぐさま、ダグラス君が突っ込んできた。両手で剣を持ったまま大きく振りかぶっている。
(速いけど軌道が丸分かりだ。いつもなら避けられるけど、今は.......)
私も両手で剣を握り、彼の一撃を受け止めた。この近さなら会話が出来ると思ったからだ。
「私はっ、君の、怒りを買う何かを、してしまった、かなぁっ? 」
踏ん張れるけど中々に重たい一撃だ。この状態をキープするのは骨を折りそうなので、一旦弾いた。語尾が強くなったのはそのせい。
「貴様、Cクラスのヴァンとはどういう関係だ? いや、どういった関係でも貴様が彼の隣にいることは相応しくない!」
(あ、あれ? やっぱり原因はヴァンなの!? って、相応しくないとはどういうことだ!! )
「ヴァンとは友人だよ。大切なね。」
今度は私から攻めさせてもらう。正直、私の体から重たい一撃を放つことは難しい。だから、私がずっと鍛錬してきたのは攻撃の速さ。
簡単に言えば、弱攻撃連打しては一歩引く戦術。ヒットアンドアウェイってやつだ。
前世から一番得意なパターン。兄にモンスターをハントするゲームに付き合わされた時も、ストリートでファイトするようなゲームの時も、4人のブラザーズと大乱闘した時もだ。派手さは無いけど、負けることも無い。
この世界をまだゲームの世界と認識しているわけじゃない。それでも、一番しっくりきた戦い方だった。
ダグラス君もガードしているけど、間に合わなかった分は脇腹や腕に入っている。そして、彼の反撃に合わせて後ろに跳ぶ。先程からその繰り返しだ。
「くっ、その小賢しい戦い方も騎士らしくないっ! 不愉快だ! 」
彼の一撃は当たらないのも相当なストレスのようだ。だからって、当たってやるつもりもないけど。
「騎士らしい、というのはどういう基準で判断するのかな? 是非、教えてほしいなぁ!」
何をしても文句を言われるので、段々腹が立ってきた。つい大振りになってしまった。
これはガードされるなと思ったのだが、ダグラス君は私の攻撃を避けることはせず、私の横っ腹に思いっきり一撃をくれた。
二人とも正反対の方向に吹っ飛んだ。ごめんなさい、嘘です。盛りました。吹っ飛んだのは私で、ダグラス君はせいぜい倒れた程度です。
「はい! そこまでっ! お前ら長ぇよ。 しゅーりょー!引き分けな。後もつっかえてるんだがら。 あとそのまま救護室行け。」
まだ立ち上がろうとした二人の間に、アラン教官の声が響いた。
「ぃたたた.......。」
木剣で殴られた脇腹をさすりながら立ち上がろうとする。既に歩き始めていたダグラス君は、私とすれ違う時に舌打ちをした。
(えぇ、仮にも攻略対象者でしょう? 男らしくあれ!)
と、思っていたら手を差し出された。どうやら手助けしてくれるようだ。
「....ありがとう。助かるよ。」
とお礼を言うと、そっぽ向かれた。
「小賢しいとは言ったが、実際最後以外手も足も出なかったのは俺だ。.......すまなかった。」
最後の言葉はギリギリ聞き取れる程度の声量だったけれど。分かったことがある。
(ツンデレっ! そうなのね!! ダグラス君はツンデレなのね! なるほどー。)
と一人頷いていると、
「だが、ヴァンとのことは今だに理解できん! 」
そう言い残し、演習場を出ていった。
(そうだった。何故恨まれているのかは分からずじまいだった。)
胸の内にもやもやを抱えたまま、私は救護室へと向かった。
ここまでお読み下さってありがとうございます。
次回はダグラス視点です。




