21.友人ゲット
入学から1ヶ月が経った頃。最近、妙な視線を感じる気がする。
気がするだけならどんなに良かったか。
謎の視線は教室ではほとんど無く、昼休みや放課後に多い。
つまり犯人の目当てはヴァンだ。間違いない。たぶん。
(おのれ、犯人。いくらヴァンが可愛いからってそういうストーカー紛いのことはどうかと思うわ。)
ヴァンに言うと「俺のせいですみません。」とか絶対言うから、お互い視線には気づかないフリをした。それに視線以外の被害は全くないのだ。手の施しようもない。
こういうのは無視が一番良いはずだ。どうやらヴァンもそのつもりらしい。よし、決定!
「さぁ今日は対人で素手の組手だ。今まで習った型は使ってもいいし、使わなくてもいい。本物の人が相手だと、思い通りにいかないこともざらにあるからな。それも含めて対人訓練だ。相手を打ち負かすつもりでやれよ。ただし、大怪我はさせるな。俺がめんどくせぇから。互いの為になるような時間にしろよ。じゃ、適当に二人一組作って合図があるまで続けるように! 」
今日の戦闘訓練の担当はアラン教官。
(今までは型の訓練だけだった。今日から対人訓練かぁ。兄様とヴァン以外とは初めてね。)
「誰か私と組んで.......」
言いながら振り返ると、既にほとんどのクラスメイトは相手を見つけていた。
(で、出遅れたー!!)
一瞬焦ってしまったが、偶数のクラスで溢れることはまず無いので一安心。残っていた彼に声を掛ける。
「君、良かったら私と組んでくれないかい?」
「良かったら」とは建前である。もう二人しか居ないのだから。
「もちろんだよ、よろしく。.......あんまり話したことないよね、僕たち。」
確かに。1ヶ月も経つのにあまり交流のないクラスメイトだった。
「私はユーリだ。よろしく。」
「ふふ。もちろん知ってるよ、君浮いてるしね。僕はアルフォード。アルって呼んで。」
彼は碧い瞳を細め、ダークブラウンのサラサラな髪を楽しそうに揺らした。
(今サラっとおかしなことを言わなかった? 衝撃の事実なんですけど! え、私浮いてるの? どこらへんが? 確かに今だって、誰にも声掛けて貰えなかったけど! まさか女だってバレてるの??)
「なんで浮いてるか分からないって顔だね。今はきちんと訓練しないとだし、この話はまた今度。」
今の話が気になって全く訓練に身が入りそうもない。こんなことではいけないと、一旦深呼吸をした。
彼との組手の感想は、可もなく不可もなくという印象だ。彼は習った型を上手く応用して繰り出してくるけど、対処は難しくなかった。息が上がるのも早い。スタミナに難ありと言う感じかな。
偉そうなことを言ってはいるが、こちらの繰り出す技もまだ彼に致命的な一撃を与えることは出来ていない。ガードや拳のいなしかたが上手いのだ。
(ふふっ。楽しくなってきた! 次はこれならどうだろう! )
自然と口角が上がっていくのが自分でも分かった。
「それまで!! 」
アラン教官から合図があり集合が掛けられた。今日の訓練のまとめの後、昼休みに入っていいという指示があった。
「アル、今日はありがとう。ところでさっきの話がしたいからお昼ご飯一緒にどうかな? 」
「あー気にしてたもんね。分かった。でも、シャワー浴びたいな。それからでもいいかい? ユーリも行くでしょ?」
(私だってシャワー浴びたいぃ。でも.......)
「私は着替えだけで済ませるよ。それじゃあ、20分後に食堂で。」
寮に戻り、濡れたタオルで全身を拭く。それから新しいシャツと制服に着替えた。
(くそぉ、これでも乙女なのに!! さっぱり綺麗にしたいのにー! シャワーの件アラン教官に相談してみようかしら。)
ヴァンに今日はクラスメイトと食べることを伝えると、自分もそうすると言っていた。ヴァンには既に昼食を共にできる友人がいたのだ。何となく切ない。
食堂に行くと既に彼は食事と共にテーブルについていた。私も食事が乗ったトレーと共に彼の正面に座った。
「すまない。待たせたかい? 」
「こっちこそごめん。お腹が空いちゃって。」
食堂のメニューは日替わりで、毎日三食決まっている。おかわりも自由。きちんとバランスは考えられているし、連続して同じメニューなんてことも無いので、毎日満足である。美味しいご飯万歳。
「ユーリは美味しそうに食べるね。」
笑われた。でも貴族というしがらみの無い食事は楽しい。食事の作法も周りの目も気にしなくて良いのだから。
何よりさすがは前世のゲームというか、食事の内容が「ザ・庶民」だった。今までは貴族の食事ばかりだったのだ。まさか、家庭的なカレーやうどんやそばがあるなんて誰が想像出来ただろう。
これらのメニューに作法を求める方が難しいというものだ。強いて言うなら大口を開けて食べる、盛大に啜るくらいだろうか。
「えっとね、簡単に言えばそういうところだよ? 」
(? 急に何の話なのかしら? )
「ユーリは黙っているとさ、綺麗な所作と中性的な顔立ちがいかにも貴族って感じなんだよ。でもよく一緒に居る彼といる時は大声で笑ってたり、資料で両手塞がってたら平気で足で扉開けたりとか、飲み物を他人と共有しようとしたりとか。見た目と中身が違い過ぎるんだよね。」
(くっ、前世で男兄弟に囲まれて育った弊害が!!)
「な、なんだって....。いや、でも誰かの迷惑になる声量では無かったはず.......。」
「あはは、そこはそんなに気にしなくて良いよ。後は実践系の授業ではいつも笑ってるからね、一部からは戦闘狂だって言われてるよ。以上が君が浮いてる理由かな。」
「せ、戦闘狂.......。なるほど、ありがとう。何となく分かったよ。この学校は身分について言及するのは禁止だから、余計に目に付くんだろうね。ハハハ。」
(うーん、妙に納得してしまった。つい男性だらけの環境に前世の私の方がはしゃいでしまったわ。)
「あ、そうだユーリ。今日の訓練、僕なんかが相手でごめんね。つまらなかったでしょ。僕はクラスでもたぶん一番弱いから今日だって最後まで残ってたんだし。普段仲の良い奴らも成績が絡むとこれさ。」
「なんで謝るんだい? むしろ私は楽しかったけど。」
「さ、さすがは戦闘狂だね。」
「いや、違うから。それと弱いってなんだい? アルは弱くなかったよ。型の応用だって上手かった。対処出来たのは、同じものを私も習っていたからだ。それに攻撃の躱し方も見事だった。アルはカウンターとか向いてると思ったよ。強いて言うなら、スタミナ不足だと思うけどね。あと、私たちは強くなるためにここにいるんだ。まだまだ未熟で当然だろ?」
アルは少し呆けた後、笑った。
「ふふ。やっぱり、ユーリは変わってるね。でも凄く嬉しいな。ね、ユーリは兄妹いる? 君って僕が会ったことある人にそっくりな気がするんだ!」
「兄弟なら上と下に2人ずついるよ。あと私はそんなに変わってない。」
「へぇ、5人兄妹! 多いんだね。ユーリとは仲良くなれそうだな。これからもよろしくね。」
「ちょっと無視しないで。 でも、よろしく。」
少し腑に落ちない所もあるけれど、ヴァン以外の初めての友達ゲットです!万歳!!
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