20.授業開始
今日から本格的な授業が始まる。昨日は自己紹介とクラス長決め、午後からは体力テストだったからだ。
ちなみにクラス長は、隣の席のダグラス君だ。深緑色の髪は短くさっぱりとしているし、切れ長の瞳が格好良い。14歳にして体格も良い。スポーツマンって感じの爽やか系イケメン。
彼もまた攻略対象者であった。
(いやいや、ほんと周りに多すぎじゃない? どうなってんのよ。)
このクラスにはもう他の攻略対象者は居ないはずだ。たぶん。あんなに近くにいたヴァンに数年気付かなかった自分を信じることは出来ないけど。
教室に教官が入ってくる。丸いレンズの眼鏡を掛けた優しそうな教官だ。
「みんなおはよう。早速始めようね。クラス長、挨拶を。」
「はい。全員起立! 礼!」
(おぉ、なんだか懐かしい。前世と一緒だわ。)
などと思いつつ、ダグラス君に倣う。
「.......全員なってない! やり直し!!」
礼の直後、そんな怒声が響いた。
「お前ら礼を舐めてるな。騎士とは礼に始まり、礼を尽くす者だ。この調子だと、今日の授業は挨拶だけで終わりそうだなァ?」
と凶悪そうな笑みを浮かべている。
(あ、あれ? 見た目と口調が合ってないよ!? 怖い!! )
それから、約80分の間私たちは立ったり座ったり、お辞儀の角度等についての指導をみっちり受けた。
「.......まぁまぁかな。ようやく見れる程度になったな。以降、礼を怠った者が1人でもいたら今日と同じことが起こると思えよ。着席しろ。」
(ひぃぃいい。怖かったよー。)
「それじゃ、改めて僕の名前はグレイだよ。皆よろしくねぇ。あんまり時間も無いし、後は自己紹介を皆にお願いしようかな? 」
それはそれは、穏やかな口調と笑顔であったそうな。
(ひぃぃいい。だ、誰ぇ!? 急に誰なの??)
目の前に居るのは先程まで私たちを扱いていた彼に違いないのだが。それこそ第一印象の通りの穏やかさだが、今はひたすらに怖いだけだ。
(に、二重人格だとでも言うの!? キャラ濃すぎだろ!この学校、怖っ!!)
そうして、怒涛?の1時間目は終わった。もちろん挨拶は完璧に。
グレイ教官が教室を出た瞬間に、教室内の空気が緩んだ。かく言う私もやっと、肩の力を抜いた。
この学校は90分授業が午前と午後に2コマずつある。最初はその長さに慣れなかったが、それも1週間も続けば当たり前になりつつある。
それでもこの前の授業は酷かった。
「君たちは騎士を目指している訳だけど、単に騎士と言っても様々な形がある。国家に仕える聖騎士の中でも、城の警備専門の役職があるのを知ってるかい? 」
(アレね。門番でしょう。ゲームではよくお世話になったわ。時には入城を拒否されたり、時には犯人確保を手伝ったり、時には情報をくれたり。どんな時間に訪れても、彼らはずっとそこに立っていたわ。)
なんて思い出に耽ってみる。
「城の警備は基本的には近衛兵だよ。でも城の顔とも言える出入口を守護するのは、聖騎士の役目なんだ。門番と呼ばれているね。交替で城を守る大変立派な役職だ。彼らは毅然と立ち、有事の際には即座に立ち回らなければならない。」
うんうんと頷く。
「後は、騎士としてどこかの貴族等に個人で仕えることもあるだろう。その時どこまで付いて行くかは主によりけりだけど、もしかしたらずっと後ろに控えていなければいけないかもしれない。 」
「という事で、皆今から第一演習場に移動するよ。」
(.......どういうこと? )
「じゃ、皆1列に並んでね。それじゃ今から合図があるまで毅然と立ち続けてね。もちろん私語は厳禁。合図は僕が攻撃を仕掛けることだから、きちんと避けるんだよ? .......テメェら 少しでも気ぃ抜いたら、最初からやり直しだからな!! 昼飯食いたきゃ 気合い入れろよ!!」
(ひぃぃいい。だからギャップが怖いって。 こういう心折る系の授業担当なのかしら、グレイ教官は。)
それから、私たちはずっと立たされた。わざだと思うけど時計と反対向きに立たされたから時間が分からない。
あと何時間立たされるのか、いつグレイ教官が攻撃を仕掛けてくるのか、緊張だけがこの場を支配する。ただ立っているだけのことがこんなに辛いなんて。
(あらゆるゲームの門番さん、正直役に立ってないだろとか思っててごめんなさい。立ってるだけじゃん、とか思っててごめんなさい。今は貴方たちのことをとても尊敬します。)
なんて懺悔をしていたら、グレイ教官が凄い楽しそうな形相でこちらに向かってきた。
殴りかかろうとしてきたのをなんとか後ろに飛んで躱す。体が重い。
そのまま回し蹴りが飛んできた。今度はガードだ。そして相手の足首を掴みそのまま体勢を崩した。
グレイ教官は一瞬驚いたようだけど、そのまま片手を地面に付いてすぐ起き上がった。
どうやらターゲットを変えたようだ。そして、順番に全員と軽い組手をして終了。
「初回にしてはまずまずだね。これたまに抜き打ちでやるから、みんな楽しみにしててね。」
なんて授業があったなぁと思い返す。あれは2コマ連続のグレイ教官の授業があった時のことなので、それ以来みんな警戒している。実質2時間以上立ち続けていたらしい。
ちなみに他の教官は割と普通だ。グレイ教官が少し異質なだけで。
「ユーリ、ぼーっとしてどうしたの? もうお腹いっぱい?」
「.......ヴァン、君といると本当に癒される。」
今は食堂でヴァンと昼食中だ。昼休みとか放課後とかはヴァンと一緒にいることが多い。一緒に鍛錬することもよくある。他のクラスメイトともそろそろ仲良くなりたいものだ。
「まだ1週間だけど色々凄いもんね、この学校。ユーリが疲れるのも分かるよ。だけど、ちゃんと食べないとね? 」
(あぁ神様、今日もヴァンが可愛いです。癒しです。)
「今日は座学ばかりだったから、放課後体を動かしたいな。付き合ってくれるかい? 」
「もちろんだよ! .......そういえばユーリ、まだバレてないの? 」
急に小声で喋るから何かと思った。そのことか。
「.......意外とバレてないよ。直接「君は女性か? 」って聞いてくれれば素直に答えるつもりなんだけど。中々、そんな機会は来ないね。普通に授業に付いていけてるからかな。」
聞かれるまではバラさない。これが私が決めたルールだ。
なるべく男性として振る舞うけど、勘づかれた相手に嘘をついて、それを押し通すのは精神的にも疲れてしまう。だから、そう決めた。
それと座学はもちろんだが、それ以外の授業にも割と付いて行けている。
「剣術や体術はヴァンと兄様もおかげでそこまで苦労していないし、体力的な面も毎日ライツェンとペイルストとかけっこしていたおかげで問題無さそうだよ。」
でもこれは今の状況である。この学校は実力が全て。少しでも遅れれば、それは大きな差になってしまう。怠けることは出来ない。
「そっか、良かった。最初はどうなるかと思ったけど、ユーリが毎日楽しそうで俺も嬉しいな。」
「ヴァンの存在は大きいよ。絶対的な味方が一人居るってだけでも、精神的にはすごく助かってるんだ。ありがとう、ヴァン。」
「い、いやぁ、改められると照れるなぁ。アハハ.......。」
その様子を少し離れた席から見つめている者がいた事を、二人はまだ知らなかった。
門番さんが騎士というのは、あくまでもこの国の話です。
それとユーリアの門番さんの話も、あくまでも一例です。




