19.士官学校
アレクセイ騎士養成学校。周囲を煉瓦の壁で囲まれ、正面の門より見える校舎は重厚な造りをしている。ひとたび入れば、緑も豊かなことが分かる。広大な敷地の中には、校舎を初めとする様々な建物があった。
今日からこの場所で私の新しい学校生活が始まる。
以前、入学手続きや説明を聞きに行ったときのことだ。女子の入学が数十年ぶりらしく、女子用の設備があまり整っていないと言われた。学校としてはシャワーや寮の部屋等は、現状での精一杯の配慮をしてくれるとのことだった。
しかし万が一のことが無くは無いかもしれないので、絶対とまではいかないが、なるべく性別が分からないようにした方が良いかもしれないとの話もあった。
(言い方が回りくど過ぎるわっ。でもこちらの身を案じてのことだし、貴族の娘ということも関係あるのでしょうね。)
「分かりました。あまり隠すつもりはなかったですけれど、そちらの方向で努力致します。」と返答する。
(この学校の特徴は完全実力主義。在学中に自分の身分を明かすことを良しとしない。つまり一度入学してしまえば、貴族であっても家名は名乗れないということ。.......要は女であることを隠さないのなら、実力で自分の立場を築いてみせろということ。それまでは大人しく男のフリをしないといけないのね。)
さて本日はもう入学式であるが、私がとった行動と言えば、腰まで伸ばした髪を肩位まで切ったこと。胸にはサラシを巻き、くびれにはタオルを巻いたことだった。マリアに披露した時は泣かれた。なんか、ごめん。
この学校は制服の支給がある。いわゆる軍服の簡易版だ。紺色の詰襟は金色のボタンがよく映えている。ウエストのところでベルトを巻くので、タオルのずり落ちも防げそうだ。このベルトは場合によっては帯剣出来る仕様だ。下は白のスラックスに黒のブーツという具合だ。
ちなみに今日のような式典用のジャケットは別にある。制服の詰襟を基本とし、肩に金のピラピラと胸元に掛けての紐が付く。名前は知らない。でも格好良いのでテンションは上がる。マリアに披露した時またに泣かれた。でも今回は嬉しそうだった。良かった。
今行われている入学式は、親が参加するような類のものではない。この学校のルールや心得を改めて伝える場という感じだ。先程から色んな人が壇上に上がっては、お話ししている。いつの時代、どこの世界であってもこういう場の話は眠くなりそうだ。無論きちんと聞いているし、表情には出さないけど。
周りはといえば、同じ制服に身を包んだ男子たちがピシリと座っており、程よい緊張感が場を支配していた。
(いよいよ、私の新しい生活が始まる。これから2年間、私は存分に剣を振るえる。乙女ゲームも関係ない! 誰の目も気にせずに! なんて楽しみなんだろう。学校生活だってやるからには全力よ! )
改めて決意表明していると、もう式が終わりに近づいていた。
そのままクラス分けも発表された。クラスの分け方は、無作為に人数だけ平等にしたものらしい。つまり実力にまだ上も下も無いということ。
私はAクラスだった。ちなみにヴァンはCクラス。ここの授業体制はまだ分からないけれど、例えば前世のように2クラス合同の授業があっても、AクラスとCクラスが一緒にやることは無いだろう。
(少し寂しいけど休み時間とか寮では会えるだろうし、まぁいっか! )
と私は考えていたが、そのことを後でヴァンに伝えるとそれはそれは悲しい顔をされた。なんか、ごめん。
教室に入ると、担任の教官から挨拶があった。
「俺の名前はアラン。これから一年間お前ら20人の担任だ。よろしくな。」
ぐるりと見渡された。30代後輩くらいだろうか。明るい茶色の髪を後ろに流しており、人当たりの良さそうな顔をしていた。しかしその声は鋭い。
「.......さて、聞いての通りここは完全実力主義の学校だ。原則として家名は名乗らない。つまり貴族も平民も関係ない。明日、自己紹介の時間を設けるから自分の名前を考えてこい。もちろん本名で構わないが、この学校でしか使われないから偽名でもいいぞ。これから己を示す名だ。恥ずかしくないものを考えておくように。じゃ、午後は入寮の準備の時間だ。今日は解散! 」
(自分の名前.......。そう言えば何も考えて無かった。格好だけ男でも名前がユーリアじゃ意味無いものね。)
「あ、そうだ。そこのお前、少し残れ。」
と指をさされた。どうやら私らしい。
教室で二人きりになったところで、ようやく話しかけられた。
「お前だよな? 今年唯一の女子ってのは。しっかし、小綺麗な顔してんな。 女子だからって特別いじめたりはしねぇが、特別優しくもしないからな。そこはよく覚えておけよ。っても、生活は別だ。分ける所は分けねぇとな。部屋はそもそも一人部屋だから問題ねぇな。便所はしばらく教員用の使っとけ。あとシャワーは時間をずらせ。本来風呂の使用は23時までだが、それ以降にお前の時間を取ってやる。それでいいか?」
(や、やっと返事を聞かれた....! よく喋るお方だ。 )
「はい、構いません。お気遣い感謝します。」
「一応何かあれば俺に言うように。明日、女性の教官も紹介するからそっちでもいい。ま、頑張れよー。」
「はい、ありがとうございます。では失礼致します。」
と教室を後にした。私だって、部屋の片付けがあるので急がなければ。
学生寮は1つの棟に2クラス分の生徒が入る。つまりここもヴァンと離れた。お風呂は大浴場とシャワールームが各寮に付いていた。お手洗いは寮母さんのを借りることになった。部屋も寮母さんの隣の部屋で、玄関も近い。
何だかんだ言いつつ、とても配慮されていた。
個人の鍛錬にも寛容で、門限は特に無い。しかし汗を流したければ23時までに帰ってこいよ、という感じらしい。男子しかいなかったから成り立っていたとも感じる。
食事は全クラス・全学年共通の食堂がある。朝の6時から夜の22時まで開いており、その間なら自由に利用できる。自炊用のキッチンもあるらしく、簡単な許可だけでそちらも利用可能らしい。
校舎の隣には、体育館のような巨大な演習場が2つ。その隣は先程まで入学式が行われていた講堂がある。視線を別の方に向ければ、先程まで居た食堂とその隣には四つの寮が並んでいる。
部屋の片付けを済ませ、ヴァンと合流し学校内を見学していた。
(.......なんか楽しい。士官学校だけど、もう一度学校に通えるなんて思ってもなかった。)
「お嬢様、お部屋狭くありませんでしたか? あと別の棟とは言え、何かあればすぐに仰って下さいね。」
「いや、部屋は最高だった。」
寮の一人部屋は机、クローゼット、シングルベッドに小さな棚があるだけのこじんまりした部屋だった。でも前世の記憶のある私にしたら、落ち着くことこの上ない部屋だった。
「それからヴァン、これから私たちは学友だ。敬語は無し。お嬢様と呼ぶのもやめてくれ。もちろん今までだってそのつもりだったが、今度こそ対等な友人としてよろしくな、ヴァン。私のことは『ユーリ』と呼んでくれ。」
「おじょ.......。いや、分かったよ。よろしく、ユーリ! 」
今更感と既視感を覚えたけど、単純にヴァンとただの友人になれたのは嬉しい。
ちなみにこの口調はお兄様達の真似に過ぎない。
(明日からの学校生活、楽しみだ!!頑張ろう!!)
そうして、今日という日を終えたのだった。
学園タグを付けていたのに、学園入学までが長くてすみませんでした!
明記はしませんが、これより新章のスタートです。




