18.俺の妹《レド視点》
お待たせしてしまい、すみません。レドウィン視点になります。
俺の名前はレドウィン。アレクサンドラ家の次男だ。
妹が叶えて欲しい我儘とやらを両親に告げた後、しばらく俺と兄貴の間にはため息しかなかった。
「ったく、なんであいつはああなんだ。」
「まったくだねぇ。本当に困ったね。」
俺と兄貴は両親を説得するためにあの場に居させて貰った。あいつの願いが叶うようにと。兄貴はずる賢く立ち回ったみたいだけどな。俺はそんなんは得意じゃないが、居ないよりはマシだと思ったから。
実際のところは二人とも要らなかったけどな。
「なんで、自分一人の為の我儘を言えねぇんだろうな。2年間ってのは、家に迷惑かけたくねぇからだよな。.......絶対『冒険者になりたい』って言うと思ってんだが。」
「そうだね。あの子は優し過ぎる。これは想像でしかないけど、その我儘は、アレクサンドラ家に迷惑がかかると分かっているから選択肢にも無かったかもしれないね。」
「まぁ、言っててもしょうがねぇよな。もう入学まで1ヶ月だし。」
あいつは来月から全寮制の士官学校へ入学する。
「そういや今日もこれから剣の稽古だった。じゃあな、兄貴。」
「そうか、たまには僕も参加したいね。まぁ、今日は無理そうだ。じゃあ、頑張ってね。」
窓から庭を見るとユーリアとヴァンがもう準備をしていた。
あの日からユーリアは剣の稽古を周囲に隠さなくなった。元々バレてたけどな。それからはのびのびと成長しやがって。今じゃ俺やヴァンと打ち合えるようになった。
俺もヴァンも弱いからじゃない。ユーリアの潜在能力が高いんだろう。実際ヴァンは強い。父親の血は伊達じゃない。もちろん本人の努力をその一言で片付けるつもりは無いが。
(.......にしても、ヴァンってこんな性格だったんだな。)
俺と兄貴は前世でこの世界の原作?的な乙女ゲームをプレイしていた。そこでの知識と今この現実がたまに噛み合わないときがある。
それこそヴァンの性格もだ。あいつのルートは一度アルフレッド王子を攻略してからじゃないと発生しない。ヴァンのルートはユーリアが魔王側に付いたところから始まるからだ。
ユーリアに裏切られたこと、止められなかったことを後悔し自分のせいにしていたヴァンは酷く冷たい人間になった。それをなぐさめていくのが主人公。まぁ、最後は『これが彼女の為だ』って二人でとどめを刺すんだから、今は笑えねぇよな。
って訳で、ヴァンは無口でぶっきらぼうなクール系担当だった。それが現実じゃただのワンコ君だもんな、分からないもんだ。14歳になったら魔法学校行くって言ってのが、あの日のうちに「お嬢様が行くなら、私も士官学校に先に行きたいです。」って言い出したし。
ちなみに、俺の推しはイルフリート殿下だ。アルフレッド王子の弟。次男という所に親近感が湧くし、ストーリーも良かった。理由はそれだけだけどな。
「あ、レド兄様いらしてたのですね! 今日も厳しくお願いしますね。」
「いいけど、もう少しお前らの手合わせ見とくわ。」
「まぁ、分かりましたわ。」
.......こっち見て会話してくれ。ヴァンと剣の打ち合いしながらとか色々な方面で失礼だろ。とりあえず木陰に腰を下ろす。
本当にどうなるんだろうな。魔王側に付いたゲームのユーリアは中ボス扱いだったが、実質ボスじゃね? という強さだった。ゲームでは控えめな性格のご令嬢だったのが、今はしっかりと戦う術を身につけようとしている。もし、そうなった時人間は太刀打ち出来るだろうか。
(.......ははっ。考えんのやめよ。)
まぁ、アレクサンドラ家が強いのにはちゃんと理由がある。うちの父親はユーリアに対して親バカな面しか見せてないが統治の腕は一流だし、何より士官学校時代から、元騎士団副団長の親友の立場にいた人だ。剣の腕が低いわけがない。
母親も固有魔法が半端ない。本人は『威圧』について「本気を出したら、熊一匹くらい〜」としか話さない。でもその熊ってのは冒険者ギルドで、特別討伐クエストが組まれる『血濡れの熊』っていう凶暴な奴のことだ。それを指一本触れずに気絶させるって言ってんだから恐ろしい。
ちなみに兄貴は水魔法の高度な使い手で、嫡男でなければ宮廷に仕える魔法騎士として推薦されていた。本来であればどこの誰でも飛び付く話だが、「僕は家を離れるつもりはない。」と断った。
ユーリアは自分の魔力がまだ発現しないことを少なからず気にしているようだ。俺としては「間違いなく発現する。それも超強いのが。」と言ってやりたいが、そうもいかない。
ゲーム内ではユーリアのことに関してそこまで細かく描かれていなかったし、それ以前にゲームと同様のことが起こるとは限らないってのが大きい理由だ。
「レド兄様、私達も一度休憩しますわ。お隣よろしいですか? 」
勝手にどうぞと言うと、二人は俺を挟むように座った。なんでだよ。暑苦しいわ。
「レド兄様は来年から、国に仕える聖騎士様になるんですよね?」
「レドウィン様は士官学校でもずっと首席だったんですよね。騎士団に入っても、きっとご活躍されること間違いないでしょうね。」
「レド兄様の炎魔法と剣術の腕は素晴らしいもの! 間違いないですわ。」
この二人は人を手放しで褒めすぎる。特にユーリアは貴族としてはどうなんだよ。少し心配だ。
「おめーら、褒めても稽古の手は抜かねぇからな。.......まぁ、今年は入団試験やら準備やらあるから来年からだな。」
「一応、騎士団は兄貴が領主を継ぐまでだな。そうしたら騎士団を退団して、兄貴と家に忠誠を誓うつもりだ。ほとんど誰も知らないとはいえ、辺境伯も賜ってんだ。一中隊くらい作ってもいいよな。」
「ふふ。ブルーノ兄様の頭脳とレド兄様の剣があれば我が家は安泰ですわね。」
(.......そうだよ。そうなるよう兄貴と将来を考えたんだ。だから、お前は家に縛られず好きなことしろよ.......。)
「まぁ、聖騎士の方だって蔑ろにするつもりはねぇよ。ヴァンの父親がいた所だしな。国を守るってことは、回り回ってお前等を守るってことにもなるしな。」
「レド兄様!」
「レドウィン様!」
声被ってんぞ。そのむず痒い視線もやめろ。
「レド兄様が余計な一言を言わない時は、本当に格好良いですわね! 」
「そうか、俺のカワイイ妹君はもっと厳しい稽古を望んでたんだな。今日は特別に魔法も使ってやるよ。ははは、楽しくなりそうだなァ? 」
「れ、レド兄様。私は来月から学校が始まるのです。今怪我をする訳には.......」
「じゃあ、怪我しない程度にいじめてやるよ。休憩終わりな。」
この穏やかな日も残り1ヶ月。俺は最高の作り笑いを妹にくれてやった。
ここまでお読み下さってありがとうございます。
次回より、士官学校編が始まる予定です。




