16.デビュタント〈2〉
つい先程15話も公開しました。まだの方は、そちらからご覧下さい。
会場内を一言で表すなら「煌びやか」という言葉以外無いと思った。
白と金を基調とした内装、キラキラと輝くシャンデリア、厳かに流れる弦楽器たち。
(こ、これが王宮.......! いかにも感しかないけど、全てが上品に統一されている。 女の子が夢見るお城そのものだわ。)
大きさは、高校の体育館の倍かそれ以上。ほかの例えが浮かばない自分にがっかりした。
中央には大きな階段が扇状に広がっており、登った先には2つの椅子が並んでいる。謁見の間は別にあるらしいけど、あの椅子に誰が座るのかは明白だった。
見渡したいという欲求をなんとか抑え、先に来ていた両親と合流する。
「んまぁ、ユーリア! とても素敵だわ。私の見立てはやはり間違ってなかったわ。」
「ユーリア、本当に綺麗だよ。 今日はめでたい日なのだから楽しむと良いよ。」
「あなた、そういうことはらしい顔を作ってから仰って下さいな。そんな怖い顔をして。」
「くっ、だってこんなに綺麗なんだよ? 明日から私は毎日、婚約の申し込みを断りまくらなければならないんだ。こんな顔にもなる。」
「お父様、お母様、お褒めいただきありがとうございます。お父様は気が早いと思いますよ。」
しばらく家族で談笑していると、時間が近づいてきた。
「それでは、控え室に行ってきますので、また後で。」
お兄様にエスコートされ、控え室に行く。今日デビューする子は一度控え室に行き、デビューの証である小さなティアラを受け取る。時間になったら、王様方の御成り、その後一斉に入場しダンスを披露するという段取りになっている。もっと細かいこともあったけど、大体はこんな感じだ。
ダンスの相手も身内と決まっているので、そんなに緊張もしなかった。むしろ、お兄様とのダンスはとっても踊りやすかったし、とっても楽しかった。
他のご令嬢やご子息は家の将来の為にギラギラとしているけれど、我が家は揺るがぬ地位にある為のんびりしていた。その努力をして下さっているのはお父様やお兄様で、そのことに感謝を忘れてはいけない。
「お兄様はお顔も整っておりますし、ダンスもお上手ですから他のご令嬢が放っておいてくれませんわね。」
「ふふふ。これから、何事も無ければユーリアもそうなると思うよ? 」
微笑みながら優雅なダンスを披露する2人は、実は会場内の視線を一同に集めていた。それを知らないのは当の本人達のみであった。
お披露目の一曲が終わったら後は自由である。用意された軽食を食べるも良し、お友達や家族と過ごすも良し、もう一曲踊るも良しである。もちろん婚約者探しも。
私はダンス終了と共に早々にご令嬢たちに連れ去られた兄様と別れ、これからどうするか迷っていた。
(ん? 急に向こうが騒がしくなったわね。)
どうやらこの国の王子様が出てきたらしい。騒ぎにならないようにデビューのダンスも免除らしいので、このタイミング。でも実は、大変お体が弱いとの噂もある。滅多なことは口にしないけれど。
アルフレッド・エーデライト殿下。名前だけはよく知っている人物。唯一覚えていた攻略対象の一人。お近付きにならないのが一番良いに決まっているので、敢えて騒ぎとは逆の方向へ逃げた。それがいけなかった。
「初めまして、ご機嫌麗しゅう。私はザッケローニ・キルシュタイン。今日は妹のデビュタントの付き添いでね。お綺麗な貴女のお名前を伺っても? 」
プラチナブロンドのふわふわの髪をセンターに分け、橙色の瞳を眩しそうに細めている。そう! 懐かしき名前の彼は、私の元婚約者に違いなかった。
(.......っていうか、お前も攻略対象やないかーい! )
(いた! 確かにいたよ! パッケージに!っていうか、私の周りに多くない!? )
中々名乗らない私に、彼は続けた。
「少し不躾だったかな? ごめんね。でも私は美しいものに目がなくてね、是非一曲どうかなと思ったんだ。」
(どう返すのが正解? 攻略対象にはなるべく近づきたくない。魔王側へ付く理由は知らない。それなら、可能性は少しでも減らすべきだもの。 いっそ正直にバラした方が、気まずくて離れてくれるかも....)
「お久しぶりです、ザック様。ユーリア・アレクサンドラでございます。この度はご機嫌麗しゅう。」
「.......は?」
これを間抜け面というのだろうな、という顔をしている。それはそうだろう。過去に醜いとフッた相手に、美しいですねと声を掛けてしまったのだがら。
個人的には、ザック様の事は嫌いじゃない。彼なりの信念のもとハッキリと物言えるのは美徳だと思うし、何より私に変わるきっかけをくれた人だ。まぁ攻略対象であった以上、これから仲良くすることも無いけれど。
「う、嘘だろう? 本当にユーリア・アレクサンドラ? 」
「ザック様、私は良いですけれど他のご令嬢に敬称を付けないのはよろしくないですよ。 キルシュタインのおじ様は父とお友だちですから、これからもアレクサンドラ家と仲良くしてくださいませね。」
言外に私個人とは仲良くしなくて結構だと伝えてみる。
「ダンスのお誘いも嬉しいのですけれど、今日はお互いの両親もおりますしお断りさせて頂いても? 」
「あ、あぁ。すまない。そうして貰えるだろうか。」
やっぱりね。こちらは気にしてないけれど、ザック様は急な婚約破棄を突き付けたことを、家から怒られたに決まっているのだ。
実はこのダンスも二人の関係の修復にうってつけだったのだが、ザック様は動揺し過ぎて気づいていない。ならば、逃げさせて貰おう!
「その、ユーリア嬢。君は本当に綺麗になったよ。驚いた。いつかの非礼を詫びさせてくれ。」
(.......本当に憎めない人だなぁ。美しい人限定の人たらしね、きっと。)
「ありがとうございます、ザック様。実はザック様のおかげでもあります。あの一件が無ければ、私は変われませんでした。」
「そ、そうか。」
「妹君もこの度はおめでとうございます。それでは、失礼しますね、ザッケローニ様。」
愛称で呼ぶのは今日を最後にしようと思う。嫌味ではなく、心からの微笑みと共にそう告げた。
一人になると途端にダンスの申し込みが増えた。頑張ってお相手したけれど、体力的にも精神的にも疲れた。
私は中身は騒がしいけれど、表情は微笑みを崩さないことを徹底している。それがそろそろ限界だ。
私は中庭に逃げた。
社交場を描いてみると、急に傍点の使用頻度が上がりました。恐ろしいですね、貴族社会。
ここまでお読み下さってありがとうございます。




