11.犯人確保?
実質的には9話の続きになります。
「ど、ドロボーーー!!!!」
強い衝撃と共にバッグが取られた。人影が去っていく。どうにか大声を出す。護衛もマリアも反応は悪くはなかった。なかったのに、あの速さはなに? 追いつける気がしない。
地面に足が着くか着かないかのタイミングで、異常に加速する。一歩がとても大きい。
あれが魔法だと理解するのに、時間はかからなかった。
とりあえず追いかけることにする。脚自慢の護衛、クリスが一足先に壁際まで追い詰めていた。なんとか合流できた所で、ひったくり犯は脚を曲げた。
「大きく跳ぶつもりだわ! 」
先程の走りを見るに、私たちの頭上を跳び越すことは可能だろう。でも、同時にそれは隙でもあるのよ!
私の言葉にマリアが両手を合わせた。
「土魔法・巨人の合掌」
ひったくり犯の足下の土が巨大な手の形をとり、両側から挟み込んでしまった。
「お嬢様! まだ危険です、お下がりください。」
「.......マリアっ! すごい!すごいわ!! かっこいい!」
これが魔法! すごい。目の前で見ると一入だ。マリアには後でこの感動を伝えさせてもらおう。今は目の前のひったくり犯についてだ。さ、切り替えていこう。
「オホン! さて、少年。」
くるりと向き合うと、土の手に挟まれ、悔しそうにもがいているのは私と同い年くらいの少年だった。体力は有り余ってそうだけど、魔力量は大人の方が上だったのね。
髪の色は綺麗な黒であろうに、今は土埃やら艶が無いやらでくすんでいた。その瞳は澄んだエメラルドグリーン。今はひたすらに警戒の色しか見られないが。
「お腹は空いてるかしら? 私たち今からランチなのよ。一緒に食べましょう。」
「.......は?」
「やっと喋ったわね。形式的に誘った形ではあるけれど、貴方に拒否権はないわよ。このまま町の自警団に突き出されたくなかったら、ね? 」
にっこりと笑顔もサービスしておく。少年は先程から間の抜けた表情を変えることが出来ないようだ。そのとき少年のお腹の音が鳴った。それが返事ってことかしらね。
少し歩いて、この少年の身なりでも問題なさそうな店に入った。大衆食堂って感じのお店。木製のテーブルとベンチが規則的に並んでいる。中々の混み具合で、私達も目立たなくて良い。マリアは渋い顔をしていたけれど。
「何でも好きなものを、好きなだけ頼みなさい。」
メニューを広げて渡す。
「じゃ、これとこれとあれとそれと.......」
「ふふ。遠慮がなくて良いわね。」
うん。文字は問題なく読めているようね。それによく見れば、今は汚れているけれど服だって元は悪くないものだわ。そもそもアーケイム領では保護されていない孤児の方が珍しいし。
私たちの注文も済ませると、ようやく少年から話し掛けてくれた。
「なんで.......。なんで、飯なんて、」
「なんでって、お腹が空いているのは良くないもの。お腹が空き過ぎるとイライラしちゃって、ついうっかり他人のバッグが手に引っかかったままで全力疾走してしまうこともあるかもしれないし.......。私からもいいかしら? 貴方、お名前は? 私はユーリア。ユーリア・アレクサンドラよ。」
「アレクサンドラ? じゃあ、ここの領主様の.......。俺、じゃない。私はヴァンです。ヴァン・シュベールト。」
「そう。ヴァンね。良い名前だわ。でもシュベールトって、まさかテオおじ様の?」
テオドラ・シュベールト様。10年前の王国直属の騎士団副団長。そして、お父様のご友人だ。何度かうちに遊びにいらしていたわ。2人は士官学校時代からの親友だそうで、いつも楽しそうだったわ。実際、私も何度も遊んでもらった。ヴァンの方も、私の話しを聞いていたのだろう。
「お待たせしましたー。こちらとこちらと.......」
次々と置かれる料理にテーブルがいっぱいになった。
「まずは食べましょうか。冷めてしまっては、お店に悪いものね。いただきます。」
「なんだそれ? っじゃなくて、なんですかそれ? 」
「話し方なら気にしなくていいわよ。今日の私は町娘だからね。あとこれは感謝を表しているの。食材とか料理してくれる人とか、色々ね。」
「ふーん。 初めて見た。 いただきます。」
一緒に手を合わせてから食べ始めた。随分と素直な子のようだ。余程空腹だったのか、すぐにガツガツと食べ始めたヴァンに、これから知らされる事実を先に告げられたような気がした。
食べ終わると、ヴァンがポツポツと話し始めた。ちなみに、ご馳走様も真似してくれたわ。
「飯、ありがとう。知ってるかもしれないけど、俺の父さんは王国の騎士団で副団長をしてたんだ。俺が産まれたときに辞めちゃったらしいけど、すっげー強いんだぜ!母さんは俺が8歳の時に病院で死んじゃったけど、俺には父さんがいたから、別に平気だったんだ。でも....」
ヴァンの声が段々と涙ぐんでいく。
「父さんは、騎士団にいた頃から悪い奴らから恨まれてて。それで、今でもたまにそういう奴らが襲ってきてたんだ。でも、父さんは強いから負けたことなくて。だけど、あの日は、俺が、捕まっちゃって。それで。父さん反撃出来なくて、お、俺のせいで、目の前で父さんがっ、父さんがっ、」
「.......ヴァン、もういいよ。話してくれてありがとう。」
だけど、彼は止まらなかった。
「とっ、父さんが死んで、大家さんがお墓とか色々、手伝ってくたんだけど、ある日、急に、冷たくなって。み、三日後には、家を出ていけ、って言われて。どうしようって、眠れなくて。そしたら、夜中に大家さんの、家から、父さんを、こ、殺した奴らと、同じ服の奴らが出て来て。た、たぶん、大家さんは悪くなくてっ、」
「うん。きっとそうね。で、貴方は大家さんの為に家を出たのね。」
嗚咽交じりの声からは悲しみや悔しさが感じられたけど、行動の端々からヴァンの強さと優しさが伺える。まだ、私と同い年くらいなのに。目の前で父親が殺されて、その精神状態で他人を庇えるかしら。私にはきっと無理だわ。
「ヴァン、貴方とても強いのね。」
「俺は、強くなんてない。父さんと、練習した魔法も、意味なかった。だって、俺が強かったら、父さんは.......。」
「いいえ、強いわよ。私は貴方を尊敬するわ。貴方は父親という誇りに恥じない生き方を出来ているもの。バッグの件は私と出会う為のきっかけに過ぎないの。それでチャラよ。ねぇ貴方、私と一緒に来なさい。」
ヴァンは「強い」と言われて驚いた顔をした。しばらく呆けた後でようやく言葉を発した。
「.......最初に会った時から思ってたけど、あんた、なんでそんなに偉そうなの? 」
彼はそう言って、泣きながら小さく笑った。
ここまでお読み下さってありがとうございます。
次回は、ヴァン視点の予定です。




