悲しい再会
乃菊は、意識の戻らないまま、ICUで全身を包帯で巻かれ、ほとんど誰なのかもわからない状態で、人工呼吸器や管をつけられ、いつ何が起きても対処できるように監視されながら、ベッドの上で横たわっていた。
ただそれでも周りの機器は、乃菊が死んでいないことを示している。
廊下のベンチには、国也が座っている。
必要な仕事を終えると、病院へ来て、面会時間でなくても、近くにいることで、乃菊を少しでも感じられればと、ここに来ているのだ。
「ダイコクさん・・・」
夕衣と雄平だった。
「わざわざありがとうございます」
国也は、ルートで時々会うが、二人が乃菊に会うのは久しぶりである。
面会時間になって、国也は、二人を乃菊に会わせる。
「10分だけですけど、中へどうぞ・・・」
国也について、二人が中へ入って行く。
夕衣が、乃菊の横たわるベッドの脇にある椅子に座る。
「ダイコクさん、ずっとこんな状態なんですか?」
夕衣は、年下であるにもかかわらず、可愛い容姿からは想像できないくらい、強さと優しさで包んでくれていた乃菊が、こんな姿になっていることにショックを受けた。
「先生は、回復する見込みはないって言ってるけど、僕は違います。乃菊ちゃんは、必ず眼を覚まして、また笑ってくれると信じてます」
「そうよね、私を助けて怪我をしても、ちゃんと元気になったんですものね」
夕衣は、医療器具の付いている乃菊の手を握る。
「乃菊ちゃん、また一緒にお話ししてね、待ってるよ」
夕衣は、涙が出て、それ以上話すことが出来なかった。それを見て、雄平が夕衣の肩を抱く。
「ダイコクさん、あなたは、大丈夫ですか?」
やつれている国也の顔を見て、雄平が気遣う。
「僕は、大丈夫です。彼女に比べたら、何でもないですよ。こんなに可愛い子が、骨も折れてるし、内臓も傷んでる、皮膚も移植しなきゃいけないくらい剥がれちゃってても、こうして頑張って生きてるんだから・・・」
雄平は、国也の肩を抱き、廊下へ連れ出す。
「僕たちも、信じてますから、頑張ってください」
雄平は、国也をベンチに座らせる。
「乃菊ちゃん、ダイコクさんのためにも、目を覚まして・・・。それに、私も、みんなも、あなたの笑顔が見たいのよ・・・」
夕衣は、流れる涙を止めることが出来ない。しばらく乃菊の手を握り、包帯や器具で見えるところの少ない中で、唯一乃菊と認識できる閉じた瞼をジッと見つめていた・・・。
「ダイコクさんがお見舞いで持って来てくれたの、会ったでしょ?」
「おじさんのこと?ダイコクさんて呼ぶんですか?」
「呉服店の人たちは、そう呼んでるんだって」
夕衣がカットしたリンゴを乃菊の口元へ持っていく。
「彼のことを、おじさんじゃ可哀そうじゃない」
夕衣も一口かじる。
「だって、ずっと前からおじさんなんだもん・・・」
「え、乃菊ちゃん、ダイコクさんのこと前から知ってたの?彼は、乃菊ちゃんのこと知らないみたいだったけど」
「おじさんは、忘れてるんだけどね。でも、私はちゃんと憶えてるの」
夕衣がまたリンゴを食べさせる。
「そうなんだ。で、好きなの?」
「ううん、おじさんは、夕衣さんが好きみたい」
乃菊は、夕衣の顔色をうかがう。
「え、そんなことないでしょ。最近知り合ったばかりだよ」
「ああ、おじさんも私に同じこと言った。似たものどうしなんだ、夕衣さんとおじさん」
「おだまり!」
夕衣が乃菊の口にリンゴを押し込む。
・・・。
「乃菊ちゃん、私たちが入院した時、あなたが話してくれたこと、忘れてないよ。あの時、乃菊ちゃんが、ずっとダイコクさんのことを思っていることは、私にもわかったわ。それから一緒に暮らすようになって、テレビに出て、いつも一緒にいる二人が、いつか結婚して幸せになること、それが、私たちを結びつけてくれた二人に、私が心から願うことなの。だから、戻って来てちょうだい、乃菊ちゃん。必ず・・・」
乃菊の指に、夕衣の涙が落ちた・・・。




