衝撃の知らせ
「昨夜7時ごろ、蒲橋駅前で、IMEテレビ“ど曜っと情報カップ”などに出演中のユニット“大人少女23”のメンバー、菊野乃菊さんが、信号無視の車に轢かれ、蒲橋総合病院に運ばれたそうです」
パンをかじっていた女性は、パンを皿に戻し、立ち上がり、ダイニングを出て行った。
「ジュリア、たいへん!すぐ来て!テレビで・・・」
左島ジュリアの母親が、娘を呼びに来たのだ。休みだったジュリアは、夜更かしをして、まだベッドで寝ていた。
「何よママ、そんなに慌てて。まだ寝てたいのに・・・」
それでも起き上ったジュリアは、目をこすりながら、パジャマ姿でテレビのあるダイニングへ向かう。
「まだやってる。ジュリア、ほら見て!」
ダイニングにやって来たジュリアは、立ったままテレビを見る。
「何のニュース?」
まだスッキリしないジュリアは、頭をかきながら内容を聴く。
「あれじゃあ、即死ですよ。ぶつかってかなり飛ばされたから・・・」
「倒れてるのを見たんですけど、もう息をしてなかったから、駄目だなって思いました。ファンだったので残念です」
「現場で目撃した人たちは、一様に菊野さんが事故で亡くなったのではないかと話しています。以上現場からお伝えしました」
「はい、わかりました。・・・まだ病院からの発表はありませんが、現場からの報告では、菊野乃菊さんは、亡くなられたのではないかと思われます」
「嘘・・・、菊野ちゃん・・・」
ジュリアは、力を失って、その場にしゃがみ込んだ。
「真阿子だけど、亜美ちゃん、ニュース見た?」
今堂亜美のところに、鈴木真阿子から電話がかかって来た。
「朝は、音楽聴いてるから、見てないけど、どうしたの?」
「じゃあ、落ち着いて聞いてよ、私も泣きそうだから・・・」
「真阿子さん、何かあったんですか?」
嫌な予感がする亜美。
「乃菊ちゃんが、乃菊ちゃんが・・・」
真阿子がなかなか言い出せないほどのこととは・・・。
「のぎちゃんが、どうしたの?」
「乃菊ちゃんが、死んじゃった・・・」
「え、何?今、何て言いました?」
「死んじゃったのよ、乃菊ちゃんが・・・」
亜美は、電話を耳にしながら、しゃがみ込んだ。
「真阿子さん、悪い冗談はよしてください」
「信じないよね、私もそうだもん。でも、テレビで言ってたんだ・・・」
「聞きたくない、そんな話、さようなら!」
亜美には珍しく、声を荒げて電話を切った。涙を流す亜美、部屋を出て、リビングへ向かう。
「お父様、お母様、おはようございます」
「あ、ああ、おはよう」
父親がリモコンをテーブルに置く。テレビは、消えている。
「亜美、おはよう。朝食食べる?」
二人の表情がいつもと違う。亜美には、そう思えた。
「テレビ見てたの?」
50型の大きなテレビの前に座っている二人。明らかにテレビを見ていた気配がする。
「私にも見せて」
「知ってるのか?」
「見ても大丈夫なの?」
亜美は、怖かった。
「真阿子さんから電話があったの。嘘ですよね、菊野さんが・・・」
亜美は、母親に抱きつき、顔を埋める。
「亡くなってなんかいませんよね、お母様・・・」
涙を流す亜美。
「まだ病院からの発表がないから、亡くなったわけじゃないと思うよ亜美・・・」
「そうよ、菊野さんならきっと大丈夫よ」
「連れてって、今すぐ連れてって。泣いたりしないから、病院に連れてって」
亜美が父親に懇願する。
「あなた、連れて行ってあげましょ」
「ああ」
父親は、運転手に連絡を取り、蒲橋の病院に向かうことにした。
車で出かけたはずの三嶋雄平が、慌てて戻って来た。
「夕衣、今ラジオで聞いたんだけど・・・」
着物をたたんでいた夕衣が、顔を上げる。
「何か忘れ物ですか?」
「いや、ラジオ・・・」
「ラジオがどうかしました?」
雄平は、戸惑っていた。
「ダイコクさんに電話してみる・・・」
雄平は、バッグから携帯電話を取り出し、電話をかけながら外へ出る。
「もしもし・・・」
なかなかつながらなかったが、やっと国也が出た。
「ダイコクさん、雄平です。あの・・・」
「乃菊ちゃんが、乃菊ちゃんが・・・」
国也の話にならない返事に、雄平は、ラジオのニュースが事実であると認識する。
「ごめんなさい、国也の母です。今、国也が、まともに話しが出来る状態じゃなくて・・・、どちら様ですか?」
「あ、三嶋です。お世話になってます」
「こちらこそ、いつもお仕事ありがとうございます」
「あの、ラジオで聞いたんですけど、乃菊さんが・・・」
「今も手術中なんです。ずっと待ってるんですけど、まだ・・・」
「じゃあ、助かるんですね」
「・・・」
雲江の返事がない。
「大丈夫ですよね・・・」
「ごめんなさい、ちゃんと返事が出来なくて。・・・先生は、出来る限りのことをするけれど、家族には、覚悟をしておいてくださいと言われたんです。でも、国也も私も絶対に諦めない。必ず乃菊ちゃんは、元気になってくれるって、信じてます」
「大野さん・・・」
「じゃ、また連絡しますから・・・」
電話が切れた。
「乃菊ちゃんが、どうかしたの?」
雄平が振り返ると、入口で夕衣が立っていた
「話すから、中へ入ろう・・・」
雄平は、不安そうな顔をする夕衣を連れて、店の中へ入って行った。




