乃菊の憂鬱
「亜美ちゃん、トイレまで連れて行って」
車椅子を押している亜美に、乃菊が頼んだ。
「うん」
亜美は、急いでエレベーターに乗り、記者たちが訪れることのない5階のトイレに向かった。
「どこ行くの?」
控室に向かわず、エレベーターに乗って行った亜美と乃菊を心配する、みおんたち他のメンバー。
「とりあえず、控室で待とう・・・」
みおんたちは、控室へ向かった。
「ここで待ってて・・・」
乃菊は、トイレの入り口で車椅子から降り、歩いてトイレに入って行く。
「のぎちゃん・・・」
亜美は、そっとついて行く・・・。
一番奥の扉を開け、中に入ると、扉に背をもたれかけて立ったまま、ただ天井を見た。そして、一息つくと水を流した。
「国也さんは、4才の時から恋人なんだぞ、バカヤロー!!」
水の流れる音と一緒に、苦しい思いを吐きだす乃菊。
「死にそうになったって、きっと、きっと迎えに来るって、思ってたんだ!何も知らない人間に、私の気持ちがわかるかああああ・・・!!」
水の流れが弱くなり、外へ漏れる声もよく聞こえる。
「のぎちゃん、苦しいんだね・・・」
亜美は、入口の陰で涙を流す。
「ううっ!」
乃菊は、急に吐き気をもよおし、便座の蓋を開ける。
「ううっ、そうだよね、悲しいよね。ううっ!」
「のぎちゃん!!」
扉のロックをしていなかったので、亜美が扉を開けた。
「のぎちゃん、大丈夫!!」
「痛い、扉が当たった・・・」
「ごめんなさい。苦しそうな声が聞こえたから、慌てちゃって・・・」
乃菊が立ち上がり、水を流す。そして亜美に手を引かれて、手洗い場に向かう。
「ううっ!」
乃菊は、手洗い器に顔を埋める。
「大丈夫、のぎちゃん」
亜美が背中をさする。
「大丈夫だよ。だけど・・・」
乃菊は、鏡で自分の顔を見る。
「やっぱり・・・」
「のぎちゃん・・・」
乃菊の眼が、ワニのような縦に細い瞳になっている。
「亜美ちゃん、こんな私なら、嫌いになる・・・」
「嫌いになんてならないよ!!」
亜美は、後ろから乃菊に抱きつく。
「亜美ちゃん・・・」
「のぎちゃんにとり憑いてる人は、のぎちゃんを助けてくれたんでしょ。だから、のぎちゃんと同じくらい好きだよ」
亜美が泣きながら言う。
「亜美・・・」
「行きましょ、みんなが心配してるから・・・」
亜美は、涙をぬぐって、乃菊を車椅子まで連れて行き、座らせた。
「亜美ちゃん・・・」
「みんなには、内緒でしょ。何もかも、のぎちゃんと私の、ひ、み、つ・・・。何だか嬉しい」
まだ涙が止まらない亜美だが、しっかりと車椅子を押す。
「ありがとう・・・」
二人は、エレベーターに乗った。
「じゃあ、先に連れて帰りますから」
国也が、車に乃菊を乗せる。
「気をつけて帰ってください」
田沢が、頭を下げる。
「のぎちゃん、土曜日にまた会おうね」
車の窓を開けた乃菊に、みおんが声をかける。
「うん、必ず来るから、心配しないで、みおん」
頷くみおん。
「菊野ちゃん、電話するから」
ジュリアも声をかける。
「ジュリアも真阿子も、ロケ頑張ってね」
ジュリアと真阿子が頷く。
「亜美ちゃん、バイバイ・・・」
乃菊が笑顔で手を振ると、亜美も満面の笑みで手を振る。
そして車は、蒲橋へ向かう。
「疲れたかい?」
国也が後部座席の乃菊に聞く。
「うん・・・」
乃菊は、窓の外を見る。
「じゃあ、寝てなさい」
国也は、乃菊が苦しい思いをしていることが、表情を見てわかっていた。
「国也様・・・」
「何だい・・・」
「国也様・・・」
「乃菊・・・」
「く、に・・・」
乃菊は、眠った・・・。




