ドキドキの復帰会見
数ヵ月後・・・。
乃菊は、退院してしばらくすると、復帰会見を行うためにテレビ局に、国也と一緒にやって来た。
「まだ3時間ありますから、ゆっくりしていてください」
裏口からテレビ局へ入り、念のため用意していた車椅子で、控室まで来た。
「国也様、結婚するって言っちゃ駄目?」
田沢が会見の準備に向かい、二人きりになると、乃菊が話し出した。
「結婚?誰が?」
国也は、乃菊の言葉にビックリした。
「国也様と私」
「何を言ってるんだよ。君はアイドルの仕事でここに来てるんだ、それに、プロポーズもしてないんだから・・・」
「やっぱり、駄目?」
「駄目だよ。いつかは、みんなに認めてもらいたいけど、今は、アイドルとしての乃菊の青春を続けて行ってほしいんだ」
「青春しちゃっていいの?」
乃菊が、国也の顔を覗き見て言う。
「いいよ。輝いてる乃菊を見るのも楽しみだから」
本心かどうか・・・。
「田沢さんが、ちゃんと国也様と一緒に仕事が出来るように、スケジュール調整してくれるから、テレビの方も一生懸命やってみるね」
「でも、無理するなよ。乃菊は、何でも頑張るから、身体の方が心配だよ」
乃菊が、国也の手を握る。
「無理しません。マイペースでいきます」
乃菊が敬礼をする。
「そのマイペースが心配なんだよね」
その通りだ。
「国也様、肩、揉んでくださる?今日は、車だったから、こっちゃったみたい」
「いいよ・・・」
国也は、車椅子に座る乃菊の後ろに立ち、肩を揉んだ。
「気持ちいい・・・」
しばらくすると、乃菊は眠った・・・。
「わお、ラブ中!」
ジュリアが控室に入って来た。
「おはよう、ジュリア」
「おはよう、菊野ちゃん」
ジュリアが近づいて来て、乃菊の前に腰を下ろす。
「大丈夫か?」
「うん・・・」
ジュリアが突然乃菊にキスをした。
「えっ」
国也は、当然驚く。
「大丈夫だよね、菊野ちゃん」
ジュリアが、真面目な顔をして言う。
「うん・・・」
「そっか、じゃあ、会見も大丈夫だな。変なこと言い出すなよ、まだ一緒に仕事したいんだから」
ジュリアが、国也の顔を見る。
「だよね、国也さん・・・」
「そうだね・・・」
ジュリアも同じことを考えていたんだと、国也は思った。
ジュリアちゃん、ずるい!」
亜美が中に入って来て、地団太踏んでわめいた。
「まあまあ、欧米式の挨拶だから」
真阿子とみおんも入って来た。
「今、衣裳が来るから、着替えてね」
みおんが、リーダーらしく指示をする。
「じゃ、僕は、外に出てるから・・・」
国也が出て行こうとすると、亜美が国也の手を掴む。
「国也さん、のぎちゃんいるんだから、いなくちゃ」
何を言い出すんだと、国也は思った。
「だけど、みんな着替えるんでしょ」
国也は、顔を赤くして言う。
「気にしなくていいですよ、国也さんなら、見られてもいいから」
真阿子がとんでもないことを言う。
「そうだよ、いつも真面目にしてるんだから、一度くらい若い女の子の生着替え見せてあげる・・・」
ジュリアが、国也の前でセクシーなポーズをする。
「二人とも、国也さんを困らせるのは、やめなさい」
やっぱり、リーダーである。
「隅っこからなら、見てもいいですよ」
国也は、ズッコケそうになる。
「みんなやめて、くに、あ、おじさんがその気になっちゃう。誘惑しないで」
「はーい」
乃菊に言われて、みんなが笑う。
「じゃ、出てるね」
国也は、またいじられないうちに、控室を出て行った。
「ふう。女の子ばかりだと、圧倒されちゃうな・・・」
廊下に出て、やっと落ち着けた国也である。
「大野さん・・・」
記者の加納だった。
「お久しぶりです」
国也は、自販機コーナーへ加納と向かった。
「菊野さん、やっと復帰ですね」
「いやあ、まだ早いくらいですよ。手の怪我は、まだ完治じゃないし、お腹の方も少し歩いたら痛いようだし、とにかく心配で・・・」
国也は、缶ジュースを飲みながら言う。
「言い出したら聞かないタイプですか?」
「みんなと早く仕事がしたいって、そしたら、家でも仕事が出来るって、何かしてないと駄目みたいなんだ」
「でも、危険なことじゃなければ、大丈夫ですよ」
「まあ、そう思って、しばらくは、保護者として見張ってますよ」
「会見は、どうするんですか?」
加納も、缶コーヒーを口にしながら話を続ける。
「控室で待っていようかと思ってるけど・・・」
「せっかくの会見だから、一緒に聞きましょうよ」
「だけど、僕を知ってるマスコミもいるし、会見の邪魔になったら、乃菊に悪いし・・・」
加納が、バッグの中をまさぐる。
「じゃあ、このメガネとヒゲをつければいい。しばらくは、気づかれないと思いますよ」
「加納さんの変装用ですか?」
「結構、気づかれないんですよ」
「ありがとうございます。実は、会見を見たかったんですよ」
国也の本音が出た。
「この前電話で話したことですけど、いいんですか、大野さんのことを載せても?」
「いいですよ。加納さんなら、僕たちが困るような記事は書かないでしょ」
「そう言われると、どうかなって思いますけど、とにかく迷惑がかからないような内容にはしましたよ。大野さんの御蔭で、メンバーの独占インタビューが出来たんですから、本当にうちの雑誌だけの大人少女23の素顔特集です」
加納が満足げな顔をする。
「僕の御蔭だなんて、加納さんが、亜美ちゃんと仲良くなったからじゃないですか。・・・で、亜美ちゃんとは・・・?」
加納が頭をかく。
「時々、今堂さんのお宅にお邪魔してます」
「えっ、もうご両親公認?」
「いえ、記事のことで伺った時に、お父さんと大学が一緒だったことで、話が合って、そっちの方から呼ばれてるだけですよ」
国也がにやける。
「亜美ちゃんは、どうなんです、付き合う気があるんですか?」
「いや、だから、お父さんが呼ぶんで行ってるだけですってば。でも、少しは、今堂さんと話す時間はありましたけど」
「まあ、彼女もアイドルだから、目立たないように、少しずつだね・・・」
二人ともにやける。
「お待たせしました。大人少女23の新曲発表と、メンバー菊野乃菊の復帰会見を行いたいと思います」
演台の上には、いくつものマイクが置かれている。田沢が会見場の角に立ち、マイクを持って進行を行う。そして会場には、多くのマスコミが、椅子に座って待ち、他局のテレビカメラも入っている。
「それでは、大人少女23のメンバーです」
田沢の紹介で、メンバーが入場する。鈴木真阿子、左島ジュリア、皆賀みおん、そして車椅子の菊野乃菊とそれを押す今堂亜美の順に入場して来た。
「まず最初に、リーダー皆賀みおんが代表して、ご挨拶いたします」
みおんがマイクの前に立つ。
「みなさん、本日は、私たち大人少女23の新曲発表と菊野乃菊の復帰会見にお集まり頂き、まことにありがとうございます」
みおんが新曲のプロモーションを行う。
「次は、菊野乃菊の復帰の挨拶です」
乃菊が、亜美に支えられて、車椅子から立ち上がり、みおんと入れ替わり、マイクの前に立つ。
「菊野、乃菊です。皆さん、大変ご心配をかけ、申し訳ありませんでした。長い休みだったので、忘れられちゃったかなと思いますが、今日、ここに来れたことをとても嬉しく思います。まだ移動は、こんなですが、新曲をみんなと一緒に発表できることが、一番の望みだったので、復帰することになりました。メンバーには、迷惑をかけるかもしれませんが、マイペースで頑張っていきますので、よろしくお願いします・・・」
乃菊は、頭を下げ、みおんに支えながら車椅子に戻る。露出の多い衣裳を着ていても、傷は見えないが、手の怪我を隠すため、手袋をしている。
「それでは、メンバー一人ひとりからの挨拶です」
田沢から、マイクが渡され、真阿子から新曲の感想、意気込みなどを話した。次にジュリア、亜美とマイクが渡され、それぞれが話をした。
「それでは、質問をお受けします。まずは、代表の方、お願いします」
指名された2列目中央に座っていた女性記者が立ち上がった。
「菊野さん、お身体の方は、活動に影響はないんですか?」
乃菊にマイクが渡される。
「激しい運動は、まだ無理があるみたいですけど、ど曜っとの出演とか、座って出来る仕事を中心に活動して行くので、大丈夫です」
乃菊は、笑顔で答える。
「じゃあ、ダンスは、無理ですか?」
「歌の時は、今のところ、ボーカルに専念してもらって、他の4人が、のぎちゃんの移動に合わせて、ダンスをするようにします」
みおんが代わって答えた。
「メンバーの方の、菊野さんの復帰に対するお気持ちを、お聞かせてください」
亜美が最初にマイクを持った。
「のぎちゃんが復帰してくれて、とっても嬉しいです。私にとってのぎちゃんは、スーパーアイドルですから、一緒にお仕事できることが、すごく幸せです」
会場から笑いが起こる。
「菊野ちゃんが動けない分は、私が二人分動きます。だって、菊野ちゃんに、ラブ中だから」
ジュリアがまた笑いを起こす。
「駄目だよ。のぎちゃんにラブ中は、私の方が先だもん!」
亜美がジュリアに噛みつく。
「真阿子、どうぞ・・・」
亜美を無視して、真阿子にマイクを渡すジュリア。
「すみません、ジュリアと亜美ちゃんが、内輪もめをしてしまって。とにかく、乃菊ちゃんの復帰は、メンバー全員の待ち望んでいたことなので、みんなで乃菊ちゃんのとり合いをしたいと思います」
また会場に笑いが起こった。
「みおんさんは?」
亜美からみおんにマイクが渡された時、みおんは、すぐにジュリアにマイクを渡していた。
「す、すみません・・・」
みおんは、涙ぐんでいて、話せなかったのだ。それを見て、乃菊がマイクを持つ。
「みんな、ありがとう。でも、私の身体は一つなので、順番を守ってください」
乃菊の言葉に、また笑いが起こった。
「それでは、他の方の質問をお受けします」
田沢の言葉に、ほとんどの記者がすぐさま手を上げる。田沢がその中の一人を指名する。
「菊野さん。噂になっている男性とは、実際のところ、どういう関係なんですか?」
メンバーが凍りつく。
「そう言う質問には・・・」
田沢がそう言って、間に入ろうとすると、乃菊が、田沢の方を見て頷く。
「答えます」
乃菊の対応に、会場が静まり返る。そして乃菊は、立ち上がる。
「その噂になってるおじさんは、私の命の恩人であり、敵打ちの助っ人でもあり、それから、店の仕事の師匠で、身内のない私の保護者にもなってくれてる、とってもありがたい方です」
笑顔で説明する乃菊。
「恋人ですか?」
ズバリと聞かれる。
「違います」
きっぱりと否定する乃菊。
「いろいろ世話になっていて、恋愛感情は、生まれなかったですか」
乃菊は、記者の方を見て言う。
「恋人ではありません。ご迷惑をかけたくありませんし、私は、大人少女23のメンバーとして、いっぱい活動して行きたいと思っています」
「それじゃあ・・・」
他の記者が手を上げて立ちあがる。
「敵打ちとおっしゃいましたが、そのことによって、逆恨みを買い、大怪我をされたことに関しては、どんなお気持ちですか?」
またまた、メンバーが凍りつくような質問だ。
「のぎちゃんをいじめる人は、私が許しません!」
亜美が怖い顔をして訴える。
「亜美が、スーパーアイドルをいじめるなと言っておりますので、この辺りで質問は終わりにしたいと思います」
ジュリアが乃菊のところへ行き、マイクを取り上げて、仲裁する。
「そうだぞ、乃菊ちゃんが怒ると、あなたの身に何かが起こるわよ・・・」
真阿子が、マイクを持つジュリアの手を引っ張って言う。
「うわっ!」
質問をした記者が座ろうとすると、お尻から床に落ちてしまった。
「ほらっ!」
しかし、記者が尻餅をついたのは、ちょうど後ろに座っていた加納が、椅子を引いたからだった。
「失礼・・・」
振り返った記者が、加納の顔を見る。再び会場に笑いが起こった。
「それでは、以上をもちまして会見を終了させて頂きます」
亜美が車椅子を押しながら、質問した記者を睨んで会場を出て行く。
「先程の記者の方、許してください。亜美ちゃんは、可愛い顔をして、一番きついんです。これからは、気をつけてください」
最後に出て行く真阿子が、そう言ってピースをする。
そのピースは、会場にいた、国也と加納に向けてしたのかもしれない・・・。




