表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/46

きくから乃菊へ

山を越え、川を渡り、かなり遠くまで逃れて来たきく。ろくな食事もせずに歩いて来た疲れで、意識を失いそうなくらいだった。

「太兵衛様・・・」

きくと太兵衛は、真反対の方向へ逃れ、子の荒れた世では、もう簡単には巡り合えない。それは、聞く自身にも身に沁みてわかっている。

「会いたい・・・」

太兵衛ときくは、きくが4才の時、戦で両親を失い、太兵衛の親が仕官していた豪族の屋敷に、親戚の世話でやって来て出会った。そして小姓だった太兵衛と年の離れた兄弟のように育ち、やがて戦で手柄を立てた太兵衛の屋敷に、侍女として入った。

「どうした、こんな所で」

その声に、きくは驚く。山道から少し離れた大きな木の根元の窪みに、隠れるようにして、休んでいたからだ。

「あ、あなたは?」

そう聞きながら、懐の短剣を握る。

「おお、何か物騒な物をもっておるな。そなたは、武家の娘か?心配するな、私は、京の寺の者だ」

身なりは、僧侶のようだ。それでも安心出来ず、警戒を怠らないきくである。

「そなた、備前の戦から逃れて来たのか?」

その通りだった。

「戦のことを知っておられるのですか?」

きくは、主たちのことが気になっていた。

「戦は、一方が勝ち、もう一方が滅びる。ただそれだけだ。何も残らん・・・」

「・・・」

きくには、答えがわかった。

「そなた、一人でここまで逃げて来たのだな。その顔なら、喰うものも喰わずにひたすら逃げて来たのだろう」

その通りだった。

「こんな物でも喰うか?」

僧侶は、懐から袋を出し、きくに渡す。きくが中を覗くと、干飯のようだ。

「遠慮するな・・・」

現実、空腹だったきくは、遠慮なく食べた。食べていると涙が流れてた。

「誰かと生き別れになったのかい?」

この僧侶は、何もかもお見通しのようである。

「太兵衛様・・・」

僧侶が手を合わせて、目を閉じる。

「そなたには、憑きものがいるようだ。悪いものではなく、そなたを守ってくれるものでもある。しかし、今の荒れた世では、生き別れになった者と再び会うことは困難だろう。しかし、そなたの思いが強ければ、後世必ず散り散りになった縁も、いつか巡り合うであろう・・・」

きくは、膝をついて涙を流す。

「私は、どうすれば良いのでしょう・・・」

僧侶が、きくの手を握る。

「そなたは、京に行き、修行をして、そなたに憑いているものと共に、人の悪縁を切り、そなたの良縁が成就するまで、受け継いで行く、その始祖となるがいい。そうすれば、そなたの想いは、消えることなく子孫によって成し遂げられるだろう」

きくは、その言葉を信じることにした。そして僧侶と共に、京へ向かった・・・。


「国也様・・・」

「気がついたかな?」

乃菊は、声の主を捜す。

「あ、あなたは・・・」

見覚えのある顔だった。以前、浜名での事故で入院した時、同じ病院で世話になった、母親のような看護師だった。

「あなた、テレビに出て、歌も歌ってるんだってね」

乃菊は、上半身を起こす。

「無理しないで。まだ傷は塞がってないのよ」

「あの時は、ありがとうございました。おかげで夕衣さんが・・・」

乃菊は、言葉を止める。看護師には、関係のない話だから・・・。

「もう、随分テレビには、出ていません」

「そうね。あれからまた酷い事故にあったのよね。それでまたこんな所へ来るような大怪我をして。だけど、ちゃんとこうして生きているんだから、守ってくれてる人が、心の中にいるんだね」

乃菊は、看護師の顔を見る。誰かに似てる・・・?

「でも、あなたに何かあったら、悲しむ人がいっぱいいるんだから、もっと身体を大事にしなさい、きくさん・・・」

また母親のように怒られた乃菊。それでも嬉しかった。

「お仲間を呼んで来るわね」

「仲間って?」

「今日も心配して、大人少女のメンバーの人たちが来てるわよ」

「知ってるんですか?大人少女・・・」

「実は、原豊から通ってるから、土曜日、いつも見てたの・・・」

そう言って看護師は出て行く。

「きくさん・・・」

乃菊は、笑顔になる・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ