絆
「夕衣さん、僕は車で追いかけますので、乃菊と一緒に病院へ行ってください」
「はい、わかりました」
国也は、乃菊が担架で救急車に乗せられると、夕衣も一緒に乗り込ませた。
「夕衣さん、怪我をさせてしまって、申し訳ありません」
扉の前で国也は、夕衣に謝る。
「いいんです。乃菊ちゃんが無事だったら、それで・・・」
「乃菊をよろしくお願いします」
夕衣が頷くと、扉が閉まり、すぐに救急車は、サイレンを鳴らし病院へ向かった。
「おい、国也。上司にどう報告すればいい?」
亀井が国也のところへやって来る。
「新ちゃん、木頭夫妻は?」
国也は、屋上での状況が知りたかった。
「二人とも死んだよ。何が何だかわからないよ。怪物が彼女の身体から出てきて、木頭の方から出てきた怪物と戦ってたんだ・・・」
「そうか、それじゃあ、乃菊を狙う悪縁鬼は、いなくなったんだな・・・」
国也は呟く。
「おい、聞いてるのか?木頭が死んだら、ミイラみたいになったんだ、信じられるか!父親の時もそうだったけど、また報告に困るよ、まったく・・・」
頭を抱える亀井。
「ゾンビだったのかもしれないな、そう調書に書けば・・・」
「そんなの書けるか!それより、彼女は無事か?」
それでも乃菊を心配してくれるらしい。
「酷い怪我だけど、死んだりしないさ」
「そうか、じゃあ、すぐに病院へ行けよ」
「うん、何か聞きたいことがあったら、電話してくれ」
国也が車へ向かう。
「ああ、上司に追及されたら、お前を呼ぶからな」
立ち去る国也に向かって声をかけた亀井は、うな垂れながら現場検証に戻る。
「最上さん、僕と乃菊の縁って何なんですか?僕のこの勾玉は、先祖の宝として、長男によって受け継がれて来たことは、自分でもわかっているんですけど、この乃菊が持っていた石のペンダントともつながりがあるんですよね・・・」
追いかけるように病院へやって来た国也は、手術室の前のベンチで、最上と並んで座っていた。
「お話ししますよ、大野さん。とうとう二人が完全に良縁として向き合える今だから・・・」
「良縁?」
「もう、菊野さんの前に悪縁鬼が現れることはないでしょう。だから、今まで、直接的に二人を結ばせることが出来なかったから、私もスッキリした気分になれました。ただ、菊野さんがこれほど身体を痛めながら、悪縁を切らなければならなかったことが、見てて辛かったですよ」
国也は、最上の顔を見ながら、話を聞いている。今まで赤色に揃えたコーディネイトに、多少なりとも変人扱いして来た国也も、今は、その姿が、昔からの友人のように見えている。
「直接的にって・・・」
「国也さんもわかるでしょ。あなたのように縁を結ぶ役目も、直接二人を自分自身が結びつけてはいけない。何とか策を練って、縁を作って行く・・・」
「じゃあ、最上さんも縁結びの役割をされているんですか?」
「いいえ。私は、これでも神社の神主で、私の神社は、縁切りと縁結びの両方を司る神社なんです。そして、あなたもお気づきでしょうが、菊野さんが縁切りで、あなたが縁結び。私は、一般の方も承りますが、先祖から受け継いでいる一つの役割が、すなわち、菊野さんの悪縁を切り、あなたとの良縁を結ぶことが、我が神社の使命だったんです」
「使命・・・」
国也は、まだ本質が掴めない。
「その勾玉と石は、私の祖先が二人の神様より授かったもので、それを動乱により奪われ、祖先は、ずっとその二つを追って来ました。そして、その二つが、戦国の世に、初めて神の血筋である二人の手に渡ったんです。しかし、その二人が離れ離れになり、現代に至るまでその勾玉と石が出会うことがなかったんです」
「それが今、僕の乃菊が出会うことによって、結びついた・・・。でも、偶然なんですよね・・・」
「偶然かどうか・・・。私の神社に伝わる資料によると、その離れ離れになった二人の生まれた月日と、あなたと菊野さんの誕生日、年の差が、同じではないかと・・。だから500年近くの間に縁のなかった巡り合いが、二人の縁によって、やっと達成されたのですよ」
国也にも少し理解出来たように思えた。
「ただ、菊野さんは、普通の人間でもあり、あなたも見たように特殊な運命も背負っています。彼女自身は、あなたと初めて会った時から、あなたとは、特別な関係だと感じ取っていたと思います。しかし、彼女にとって悪縁を切っていかなければ、あなたと結ばれないこともわかっていたはずです。だから、彼女のような特殊な運命を持つ人を守っていけるのは、あなたしかいないんです」
「乃菊は、僕と出会った4才の時に、其の500年も前からの縁を感じ取っていたと言うことですか・・・」
「あなたもでしょう・・・」
「僕も?」
「あなたは今、菊野さんのことを乃菊と言っています。彼女は、あなたのことを何と呼びましたか?」
「あれ、僕は、乃菊ちゃんって呼んでいたのに、自然に乃菊って言ってた気がする。でも、乃菊は、いつもおじさん・・・、いや、あのビルで受け止めた後、国也様って言ってた気がする」
「そうなんです。あなた方は、きっとあなたの祖先の大野太兵衛さんと、菊野さんの祖先であるきくさんと同じ関係、呼び方になっているんだと思います」
国也は、手術室を見る。
「じゃあ、乃菊が必ず無事でなくてはいけませんよね。そうじゃないと、二人の祖先が巡り合えなかった悲しさを、僕たちが断ち切れない・・・」
「そうですね・・・」
国也は、拳を握る。
「大丈夫ですよね。乃菊は、大丈夫ですよね・・・」
「心配しなくても大丈夫ですよ。あの方は、彷徨うことには慣れています。そして、戻って来る道筋も知っているはずですよ」
国也は、ホッとする。最上の言葉を、今はすごく信用できるのだ。
「最上さん、ありがとうございます」
「お礼なんていいですよ。そのかわり、いろいろなことがあるでしょうが、必ず幸せになってください」
「はい」
最上は、立ち上がる。
「じゃあ、私は、これで失礼します」
「もう、会えないんですか?」
「時々、嫌でも、あなたたちの前に現れますから・・・」
「じゃあ、あなたの神社にも行かせてもらいますから、どこか教えてください」
「お母様にでも、聞いてください」
「母さん・・・?」
最上は、何も答えず、そのまま行ってしまった・・・。




