悪縁鬼対悪縁神
「お前さえいなかったら、我々の世界になっていたのに、お前さえ・・・」
佐舵之は、屋上のフェンスの手前で、ぐったりしている乃菊を下ろし、そこに用意してあったロープを手にとる。
「お前は、ただの殺し方では、簡単には死なない。悪縁神がお前を助ける前に始末しないと、こっちの身が危ういんだ」
佐舵之は、乃菊の首にロープを回し、解けないように縛り、片方の端をフェンスの上部に括りつける。
「苦しいよお・・・」
乃菊は、両手で刺された腹を押さえていたが、息苦しくなり、左手でロープを掴む。
「今、楽にしてやるからな。お前さえ死んでしまえば、悪縁神も葬り去ることが出来るんだ。そうすれば、我々の自由も繁栄も思いのままになるんだ」
佐舵之が、朦朧としている乃菊の顎を掴んで言う。
「私の、中に、いるのは、あなたの、仲間じゃ、ないんだ・・・。良かった・・・」
乃菊は、消えかける意識の中で、呟いている。
「お前に宿っている悪縁神は、元々我々と同じ悪縁鬼だったんだ。しかし、仲間を裏切り、敵である太陽姫神と交わって、神の称号を得てしまったんだ。故に我々悪縁を作る鬼の邪魔をする、最大の敵となったんだ。だから、こうして止めを刺せば、我々の自由が保障されるんだよ」
「良かった・・・。私は、国也様の、お役に立てる、人間だったんだ・・・」
乃菊は、死を覚悟しながら意識を失って行く。
「いよいよ、処刑の時だ・・・」
乃菊の首にロープを巻き終えた佐舵之は、乃菊の身体を抱き上げ、フェンスの上部に、上半身を外へ出した状態で乗せた。フェンスの柱を伝って、乃菊の血がコンクリートの上にポタポタと落ちる。
「ここにも血が・・・。菊野さん、死んではならない!」
階段に点々と続く血痕を目にして、最上が心の中で叫ぶ。
バタン!
最上が屋上の扉を開けると、フェンスのところに佐舵之の姿があった。乃菊は、上半身をフェンスの外側に出した状態で、ぐったりしている。やはり血痕は、そこまで続いていた。
「もう終わりにしようじゃないか。君たちの世界なんて造ることは出来ないよ」
最上は、ゆっくりと佐舵之に近づく。
「ここにも血だ。彼女を死なせたら、国也に責められるなあ・・・」
亀井は、血痕を確認しながら、階段を進む。
屋上の扉が開いている。亀井は拳銃を握り、外へ飛び出す。
「その子を解放しなさい!」
亀井が銃を構える先には、最上の背中が・・・。
「君、横に寄りなさい・・・」
最上が振り向き、亀井の姿を見て、素直に横へ移動する。
「こいつさえ処刑してしまえば、我々の世界が造れるんだ。お前たちのような普通の人間に、私を殺すことは出来ない!」
佐舵之が乃菊の足を掴む。乃菊をフェンスの向こうに落とし、首つり状態にするつもりだ。
「止めないと撃つぞ!」
確率を上げるため、亀井がジリジリと佐舵之に近づく。
「ブフッ!」
乃菊がまた血を吐く。
「もう手遅れさ。この女は、悪縁神と共に死ぬのさ!」
ドギューン!
佐舵之が乃菊の身体をフェンスの外へ放り出そうとした瞬間、亀井が引き金を引いた。
国也がビルの上を見ると、屋上のフェンスに人の姿があった。
「乃菊!」
国也は、両手に持った勾玉と石のペンダントを、顔の前で祈るように突き上げた。
「うわあああ・・・!」
国也にもわからない、勾玉と乃菊の持っていた石の力。両手から光が現れ膨らんで行く。
「乃菊!」
国也がもう一度乃菊の名を呼んだ時、乃菊の身体がフェンスを乗り越え、落下し始めた。
「これは、あの時、夢で見た・・・」
国也の脳裏に浮かぶ、過去にみた夢の映像。
「落ちる!」
近くにいた警察官が、屋上を見て叫んだ。
落下しようとする乃菊の身体から、霧のような白い塊が噴き出し、その中から光る大蛇が現れる。
「な、何なんだ!」
亀井は、目の前の光景に、銃を構えたまま茫然と立ちすくむ。
「撃たれてフェンスに寄り掛かっていた佐舵之の身体からも、立ち上る霧の中から赤く光る大蛇が現れ、乃菊の身体から現れた大蛇に向かって行く。
「ガアアア・・・・!」
佐舵之の大蛇が、何度も乃菊の大蛇に噛みつこうとするが、かわされてしまう。
「愚かなり!」
大きさもスピードも勝る乃菊の大蛇が、形勢を逆転し、攻撃に回る。
「お前さえいなければ・・・」
佐舵之の大蛇が、乃菊の大蛇の攻撃をかわし、乃菊のロープを噛みきる。
「ぐわあああ・・・!」
その瞬間、乃菊の大蛇が、佐舵之の大蛇の首に噛みつき、佐舵之の大蛇の首が千切れて、道路へ落ちて行く。
「うわあああ・・・、逃げろ!」
下にいた警察官が、落ちてくる巨大な大蛇の頭を見て叫ぶ。国也は、気にも留めずに、乃菊に向かって光を送る。
ブウォン!
道路に落ちた大蛇の頭は、炎が上がり、すぐに黒焦げになって、灰となり、風によって飛ばされ、消えて行った。
「菊野さん!」
最上がフェンスのところから手を伸ばし、ロープを掴もうとするが、すでに届かない空中へ離れて行ってしまう。
乃菊の身体は、5階建のビルの屋上から、道路に向かって静かに落下して行く。




