救出
男は、目だし帽を自ら脱ぐ。
「佐舵之さん、どうしてこんなことを・・・」
目だし帽の男は、夕衣の義理の兄だった、木頭佐舵之だ。
「私たちとこの女の関係は、お前にはわからない話しさ。ただ、父や弟の仇打ちで言えば、夕衣、お前も標的だがな・・・」
「そうよ、あなたたちのおかげで、私たちの店は、地に落ちてしまったのよ。自分からここに来るとは思わなかったけれど、手間が省けたわ。夕衣さん、あなたにもここで死んでもらうから」
佐舵之の妻、比絽江は、佐舵之の持っていたナイフを手にとり、夕衣に近づく。
「お願いですから、乃菊ちゃんを助けてください。まだ、こんなに若い子なんですよ。恨みを晴らしたいなら、私だけにしてください」
夕衣は、乃菊を死なせたくなかった。
「夕衣さん、あなたは、本当にお人好しね。自分が死んでも、この女を助けたいの?ごめんなさいね。この女だけは、殺さないわけにはいかないのよ」
比絽江が、座り込んでいる夕衣の前に立ち、ナイフを強く握る。
「あなたも真佐雄さんみたいに、首にナイフを刺してあげようか?夫婦だったんだから・・・」
比絽江は、ナイフの刃先を、夕衣の首に当てる。
「やめてっ!」
乃菊が目を覚まし、叫んだ。
「乃菊ちゃん、あなたを死なすわけにわいかない。きっと助けるから・・・」
夕衣は、磔にされている乃菊を見上げて言う。
「夕衣さん。あなたは、このナイフで一突きすれば、すぐに死んでしまうけど、この女は・・・」
ズッ!
「うっ!」
「嫌ああっ!お願い、やめてください!」
乃菊の腹を刺した比絽江の足を掴んで、夕衣が涙を流して乃菊から引き離そうとする。
「この女は、こんなことでは死なないのよ」
「やめてください!」
夕衣が比絽江の足を離さない。
「じゃあ、先にあなたから止めを刺してあげるわ」
比絽江は、膝で夕衣を突き倒す。
「乃菊ちゃんを殺さないって、約束してください」
夕衣は、乃菊の足元まで下がる。
「だから、そんなわけにはいかないのよ」
比絽江が近づき、夕衣の胸に向けて、ナイフを持つ腕を振る。
「やめろっ!」
血しぶきとともに、乃菊の右手が比絽江を殴り倒した。
「乃菊ちゃん!」
乃菊の右手から血が溢れ出る。釘が貫通した手で、比絽江を殴ったのだ。
「この、怪物が!」
佐舵之は、ナイフを拾って、乃菊の腹を刺す。
「ううっ!」
乃菊は、口から血を吐く。
「乃菊ちゃん!」
手を出そうとする夕衣を、佐舵之が張り倒す。
「今すぐ処刑してやるからな」
佐舵之は、ロープを切り、気を失っている乃菊を肩に乗せた。
「佐舵之さん!乃菊ちゃんを助けてください!」
夕衣は、叫ぶ。
「比絽江、その女は、お前が始末しろ!」
佐舵之は、そう言ってナイフを床に投げ、部屋を出て行く。
「殺してやる・・・」
比絽江がナイフを拾いに行く。それを見た夕衣もナイフのところへ向かう。
「こんなことをして何になるんですか!」
夕衣が先にナイフを蹴って、遠くへ飛ばした。
「殺してやる・・・」
比絽江は、夕衣に襲いかかり、首を絞める。
「やめろ!」
男が二人、部屋へ入って来た。赤ずくめの男、最上と国也の同級生で刑事の亀井新五郎だ。
比絽江が、二人を見て逃げ出す。
「待て!」
奥側の扉から出て行く比絽江。亀井がすぐに追いかける。階段を勢いよく降りて行く比絽江に差をつけられる。
「あっ!」
暗い中、階段を踏み外した比絽江は、転落して行った。
「おい、女はどうだ!」
亀井が下で待機していた警官に声をかけた。
「駄目です。首の骨を折ったようで、意識がありません」
警官が、首の曲がった状態で倒れている比絽江の脈を見る。
「亀井さん、死んでます」
「そうか、上にも怪我人がいるから、救急車を呼んで、上に来てくれ」
「わかりました」
亀井は、夕衣のところへ戻る。
「赤い服の人は?」
「上に行きました」
亀井と夕衣は、初対面ではない。以前の事件で顔見知りになっていたのだ。
「奥さん、大丈夫ですか?」
亀井は、手を当てている夕衣の腹部を見る。
「大丈夫です。そんなに深い傷ではありませんから・・・」
「そんなことないでしょ、これは・・・」
亀井は、上着を脱ぎ、夕衣の肩にかける。
「すみません・・・」
「また、国也から出動命令がありましてね。とにかく、奥さんが無事で良かった」
美人の夕衣の前では、亀井もつい仕事を忘れてしまう。
「亀井さん、乃菊ちゃんを助けてください」
「あ、そうだ。すぐに警官が来ますから、それと救急車も。奥さん、動かないで大人しくしててください」
そう言って、亀井も部屋を出て、上に向かった。




