国也の変貌
国也が走って病院へ入って行く。そして受付で病室を聞き、急いで向かう。
「亜美ちゃん!大丈夫かい!」
病室へ入ると、亜美がベッドの横の椅子に座っていた。
「おじさん、ごめんなさい!」
亜美が立ち上がって、寄って来た国也に抱きつく。
「のぎちゃんが、のぎちゃんが・・・」
国也は、抱きついている亜美の両腕を掴んで、顔を覗き込む。
「泣かなくていいよ、乃菊ちゃんは、きっと大丈夫だから」
それでも、めそめそする亜美である。
「それより、亜美ちゃんは、怪我はなかったのかい?」
「うん、私は、叩かれて倒れただけだから・・・」
国也は、ベッドの加納を見る。
「すみません、加納さんまで巻き添えにしてしまって」
国也は、頭を下げる。
「たいした怪我じゃないですから・・・。それより、菊野さんを助けられなくてすみません」
「乃菊ちゃんを連れ去ったのは、誰ですか?」
「犯人は、二人でしたが、目だし帽を被っていたので、顔はわかりません。でも、確かに、男と女の二人組だったんで、キトウ呉服店の長男夫婦だと思うんです」
「キトウ呉服店?」
国也も浜名でキトウ呉服店の噂を聞いており、店を見に行ったこともあったのだ。
「菊野さんが病院を出る前に、見舞いに来ていた男がいて、それが事故を起こした女性の元カレだったんです。その男が言うには、女性がキトウ呉服店に勤めだしてからおかしくなって、その後に事故を起こしたって・・・。僕も調べていくうち、その夫婦に辿り着いたんですけど、元カレの話しを聞いて、二人が女性を操って、事故を起こさせたんだと確信したんです。でも、菊野さんが無事だったんで、病室に忍び込んだり、誘拐したりしたんだと思います」
国也は、頷きながら腕を組んで考える。そして椅子に座らされた亜美は、ただ黙って、加納の話を聞いていた。
「でも、それで、なぜ菊野さんが病院を出て行ったのかが、どうしてもわからないんです」
国也が窓の外を見る。
「キトウ呉服店の二人が関わっているとなると、乃菊ちゃん自身にも気になることがあったんだと思います。あの事件が要因で狙われる、もう一人のことを・・・。たぶん、その人のところへ行こうとしたんだと思います」
「おじさん、のぎちゃんは、どこに連れて行かれたんですか?」
亜美は、乃菊が心配でならない。国也も同じではあるが・・・。
「加納さん、警察は?」
「僕たちは、目だし帽の二人だったとしか言っていないので、現場検証や聞き込みをしていると思います」
国也は、二人の顔を見る。
「じゃあ僕は、キトウ呉服店に行って来ます」
「大丈夫ですか、大野さん。相手は、人間の川を被った悪縁鬼なんですよね。警察に任しては・・・」
「大丈夫です。浜名には、知り合いの警察官もいるから、助けてもらいますよ」
「おじさん、私に出来ることは?」
「ここからは、君が関われることじゃないから、とりあえず田沢さんに連絡して、事情を話してここに来てもらいなさい」
「は、はい・・・」
「じゃ、行くから」
国也は、そう言ってすぐに病室を出て行った。
「頼りになるでしょ、大野さん。ああ見えて、いざという時には、どこか違うんですよね。何だか、あの人も何か持っているような気がする・・・」
加納は、病室を出て行った国也の姿を思い出しながら、亜美に言う。
「そうですね。今まで見て来たおじさんと違う・・・。のぎちゃんもそうなんだけど、何だか、正義の味方みたいな、すごく頼りになる存在に見える時があるんだ・・・。おじさんもそうだったんだ・・・」
少ししょんぼりする亜美。
「やっぱりあの二人は、お似合いなんだ・・・」
亜美が呟くように言う。
「今堂さん、大野さんが好きなんですか?」
亜美の様子を見ていた加納が、覗き込んで聞いた。
「違いますよ!のぎちゃんです!私を助けてくれた時から、ずっと好きなんです」
「菊野さんの方なんですか・・・」
「誤解しないでくださいね、人として大好きなんです」
「付き合ってるんですか?」
「だから、そんなんじゃないってば、キスしてくれたことはあるけど・・・」
亜美が顔を赤くする。
「キス・・・」
「何を言わせるんですか!」
そう言いながら、亜美は、思わず加納の背中を叩いてしまう。
「あ、痛っ!」
「ごめんなさい!大丈夫ですか?」
「あ、ああ、大丈夫だよ・・・」
加納は、痛いのを我慢する。
「加納さんも勇敢でしたよ。最初に変な眼で見て、ごめんなさい」
ペコリと頭を下げる亜美。
「初めて会ったんだから、仕方ないよ・・・。でも、今堂さんって、可愛いですね」
またまた顔を赤くする亜美。
「いきなり何ですか、もう!」
思わずまた加納の背中を叩こうとする。
「あっ、あぶない。また、叩いちゃうとこだった・・・」
二人は、顔を見合わせて笑う。
「ちょ、ちょっと、電話してきます」
亜美は、急に恥ずかしくなった。
今まで、こんなに長く、男の人と二人きりで、話したことがなかったからだ・・・。




