追跡
加佐井が病室を出て行くと、廊下で男とぶつかった。
「すみません」
「いいえ」
加佐井は、そのまま去って行った。
「そうか、これで繋がりがハッキリしたな・・・」
男は、記者の加納だった。
「何してるんですか?そんな所で!」
可能に声をかけたのは、亜美だった。
「誰ですか?警察を呼びますよ」
「あ、怪しい者じゃないですよ、今堂さん」
「私を知ってるんですか?じゃあ、のぎちゃんも知ってるってことですいね。やっぱり怪しい!」
「いや、僕は、記者です。あ、大野さんに菊野さんの様子を見ているように頼まれたんです」
「聞いてません!ちょっと、ロビーまで来てください!おじさんに確認しますから」
亜美は、加納の腕を掴んで、犯人を連行するかのように、ロビーへ向かった。
「じゃあ、本当なんですね。はい、わかりました。病院で待ってます」
亜美は、電話を切ると、加納の座るソファの反対側に腰を下ろした。
「嘘じゃないみたいですね。でも、どうしてあなたみたいな人間に頼んだのかしら・・・」
亜美は、初めて見る加納の人相が気になって仕方がないのだ。
「本当は、何か企んでのぎちゃんに近づいて来たんじゃないですか?」
加納は、頭をかいた。
「何だか、今堂さんには、嫌われたみたいですね」
「そ、そんなこと、ないです、けど・・・」
「実は、最初はそうだったんです。他の記者とは違う記事を書きたくって、大野さんも張っていたんですけど、大野さんや赤い服の人が、菊野さんのことを守っているのを見て、手伝おうと思ったんです・・・」
「ま、少しは、いい人みたいですね・・・」
「少し、ですか・・・」
加納は、苦笑いをする。
「のぎちゃんを守るって、何からですか?ひょっとして怪物だったりして・・・」
亜美が不安そうな顔をする。
「怪物ですか?」
「ええ。私、以前、怪物にとり憑かれてる人を知ってて、のぎちゃんがその人に殺されそうになったんです」
「それって、頭の怪我をした時のこと?」
「はい、私、見たんです。人間の姿をしてるのに、目が怖くて、舌が蛇みたいな怪物を・・・」
身振り手振りで説明する亜美。
「そうか、それが、悪縁鬼なんだ。本当だったんだ・・・」
「のぎちゃん、今もその怪物に狙われてるんですか?」
「今堂さんの言うとおりだと思うよ。その怪物にとり憑かれている人間に、今も命を狙われてるんだ。今回の事故もそうだし、この前、病室にも現れたんだ」
「嘘だ、どうしてのぎちゃんを狙うの?早く捕まえてよ!」
「でも、これって、警察なんかに信じてもらえるようなことじゃないし、だから、大野さんがいない時に、僕が見張ってるんだよ」
「じゃあ、どうしたらのぎちゃんを守れるんですか?このままじゃ、のぎちゃんが殺されちゃう・・・」
亜美は、今にも泣き出しそうだ。
「彼女は、必ず大野さんが守りますよ」
「でも、おじさん、頼りないから・・・」
「さっきから、おじさんって言ってるけど・・・」
「国也さんのこと」
加納の視線が、亜美から外れる。
「あ、あれ!」
加納が玄関の方を指さす。
「あっ、のぎちゃんだ!」
乃菊が、パジャマの上にカーディガンを羽織った格好で、病院の玄関を出て行く。
「どこへ行くんだろう?」
二人は、立ち上がって玄関に向かう。
「のぎちゃん!」
亜美が呼びかけたが、乃菊は、玄関の近くに停まっていたタクシーに、乗り込んでしまう。
「今堂さん、大野さんに電話してください!僕は、車をとって来ます」
加納が走って駐車場へ向かい、亜美は、タクシーの向かう方向を確認しながら、国也に電話をする。
「早く乗って!」
加納が玄関前に車を停め、電話をしている亜美を乗せてすぐに発車した。
「乃菊ちゃんが、パジャマのまま病院を出て行っちゃったんです!」
「あ、あれだ!」
加納が、乃菊の乗ったタクシーを発見した。
「早く追いついてください!あ、ひょっとして、おじさんのところに行くのかも・・・。とにかく追いかけます」
亜美は、とりあえず電話を切る。
「早く、早く!」
焦る亜美。加納の車が、タクシーに乗る乃菊の後ろ姿を、何とか確認出来る所まで追いついたが、タクシーとの間には、まだ2台の車が走っていた。




