この手は・・・
大男に動けないまま引きずられて来た乃菊は、大扉の前に捨てられるように置かれた。
「ここにいれば迎えが来る。もう、花安天に行くのか、泥悔天に行くのかわからない。お前は、花安天に行ける切符を自ら捨ててしまったのだ。もう一度そこからの迎えが来るか、泥悔天に落とされるか、それとも・・・、何にしろ、それを決められるのは、お前の持っている運命だけだ。まあ、泥悔天にならないように、祈ってやるよ」
そう言うと、大男は、太い槍を担いで去って行った。
「どうすればいいの、このまま誰かに連れて行かれちゃうの?」
動けない乃菊は、不安でいっぱいだった。大男の言った通り、自分で選ぶことは出来ないらしい。
上を見上げると、霞んでいた空間が、晴れ渡るように青くなっている。
「どうせ行くなら、カンテンがいいな。きっと天国みたいなところだろうから・・・。でも、天国も知らないし、私みたいな波乱万丈の人生だった女の子は、死んでもそんな環境なのかな。だったら、デカイテンで闘って行こうかな。でも、どこへ行っても、おじさんには会えないんだ・・・」
乃菊は、傷だらけの自分の身体を見る。
「おじさん、私が死んだと思って、焼いちゃったかなあ。そしたら絶対戻れないよ。おじさんと生きて行くことが出来なくなっちゃう。雲ネエ、私、死んでないから、燃やさないで。ここにいるから、迎えに来て・・・」
ギギーッ。
扉の開く音だ。
「迎えが来たんだ。どうしよう、手遅れだったかなあ、燃やされちゃったのかなあ・・・。やだよ、おじさんのところへ帰りたいよ。誰か助けて、連れてかれちゃうよお・・・」
仰向けになったまま動けない乃菊の手首を、扉の向こうから現れた手が握る。
「誰ですか?どこに連れて行くんですか?」
手を上げるような体勢になった左手を、その手が扉の方へと引いて行く。身体も一緒になって扉の方へ引きずられる。
「おじさん、サヨナラみたいだよ・・・、私たち・・・」
乃菊の眼から、大粒の涙がこぼれた。
「おじさん・・・」
乃菊の身体が、半分扉を抜けた。その時、扉に触った右手に力を入れて、引きずられる身体を止めようとする乃菊。
「駄目だと思うけど、最後にあがいちゃう・・・」
乃菊の身体の動きが止まった。
「戻っておいで、乃菊ちゃん・・・」
「えっ!」
乃菊には、国也の声のように聞こえた。
「おじさんなの?」
扉を掴む右手を優しく触れる手があった。
「乃菊ちゃん、こっちへおいで・・・」
「雲ネエ・・・」
今度は、雲江の声に聞こえた。
「嘘じゃないの、ホントにおじさんと雲ネエなの・・・」
「早くおいで、話をしよう・・・」
乃菊は、その声を国也だと思った。
「もしも、私を騙す声だったとしても、おじさんの声なら、仕方ないか・・・」
乃菊は、右手を扉から離した。
「おじさんだよね、私の大好きなおじさんだよね・・・」
もう乃菊には、その声が国也であることを信じるしか、自分の運命を委ねるものがなかった。花安天や泥悔天の使いに騙されて、死の世界へ行くことになっても、もうどうすることも出来ない。
「生きたいよ・・・」
乃菊は、二つの手に引きずられながら、扉の向こうへと消えて行った。




