アイドルの保護者
「では、また来週も見てくださいね」
パッシー銀砂のコメントで番組は終了。乃菊たち大人少女23の5人は、挨拶をして楽屋に戻る。
「楽しかったね、今日も」
「うん」
みおんがみんなに言う。
「今度は、生ロケだよね、ジュリアとのぎちゃん」
「そうなのよね。岐阜行ったことある、菊野ちゃん?」
「ないよ。田沢さんに内容聞いといて」
「OK!」
「のぎちゃんまだ体調戻ってないから、ジュリアがサポートしてね」
リーダーのみおんが気を使う。
「任せて、大好きな菊野ちゃん、面倒見ちゃう!」
ジュリアが乃菊に抱きつき、頬をすり寄せる。
「ありがと・・・」
乃菊は、まだ頭の傷跡を帽子で隠している。
「取材は、みおんと亜美なんだよね」
「そうだよ、ケーキ屋さんだから楽しみ!」
「食べ過ぎるな!」
「来週は、私と真阿子だから」
賑やかな楽屋である。
「じゃあ先に行くよ。お疲れさまでした」
「お疲れ!」
乃菊が支度を済ませ、先に楽屋を出る。
「乃菊ちゃん」
田沢である。
「これ、練習しておいて・・・」
田沢が、大きな封筒を乃菊に渡す。
「何ですか?」
「アルバムに入れる、君のソロの曲だよ。この前の君の詩で曲を作ってもらったんだ。君は、楽譜が読めるから、来週には、デモ録ってみよう」
「は、はい・・・」
会議中に落書きしたような詩を、田沢が持って行ったものだったから、乃菊も意外な展開に思えたのだ。
田沢は、すぐに去って行った。・・・忙しい男だ。みおんとは、すれ違いが多いらしいとメンバーに聞いていた乃菊は、少し気になっていた。
廊下を再び歩いて行く乃菊。
「菊野さん、待って!」
エレベーターを待っている乃菊を、亜美が追いかけて来た。
「頭の怪我、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ、亜美ちゃんが気にしなくていいんだよ」
二人は、エレベーターに乗る。
「私、怖くてみんなにホントのこと言えなかったです。だから、菊野さんがそんな怪我までして・・・」
「いいんだってば。もう、忘れなさい!」
「でも・・・」
乃菊が壁にもたれかかって小さくなっている亜美の顔の横に両手をつく。そして、びっくりして眼を丸くしている亜美の顔をジッと見つめる。
「忘れていいんだぞ。亜美に罪は無いんだから」
「ありがとう、でも・・・」
「でもじゃない!私が守ってあげるから」
亜美が上目遣いで乃菊を見る。
「菊野さん、男の人みたい」
「男の人?」
「あ、その、頼れるってことです。素敵だなって思ったんです」
「素敵だなって、私に惚れた?」
「う、うん・・・」
乃菊は、冗談で言ったつもりだったが、亜美の返事に少し驚いた。
「じゃあ、キスしてあげようか・・・」
それはないだろうと、乃菊は、甘い考えをしていた。
「えっ・・・」
そんなつもりではなかったです、と続くだろう。
「いいんですか?」
違うだろ、乃菊の呟き。
「してほしいの?」
「・・・」
言葉はなかったが、その代わり、亜美は、眼を閉じて顎を上げた。
さすがの乃菊も緊張して、固唾を呑んだ。
成り行きで唇を近づけるが、してあげるべきか、やはりそれは駄目だろと、乃菊の頭の中で交錯する。
「本気にした?」
亜美は、ハッとして眼を開け、顔を赤くする。
「ごめんなさい!キスなんて出来ませんよね、ごめんなさい!」
乃菊は、扉が開いていることに気づき、亜美の手を引き、エレベーターを出る。
「ごめんね。亜美は、可愛くて好きなんだけど、私には、好きな男の人がいるの」
「やっぱり、男の人ですよね」
「それより、菊野さんは、やめて。それに、何だか敬語だし、同い年だよ私たち」
「どう呼んだらいいのかな?」
「乃菊でいいよ」
「菊野さんを呼び捨てなんて出来ません!・・・じゃ、乃菊様とか、のぎ様とか・・」
「そんなのこっちがやだよ。みおんと同じで、のぎちゃんて呼べば」
「のぎちゃんですか?私がそう呼んでもいいんですか?」
「いいよ」
二人は、放送局の外へ出る。
「お疲れ様」
国也が歩いて来た。
「あっ、おじさんだ。の、のぎちゃん、ちょっと借りていい?」
乃菊が返事をする前に、亜美は、国也の腕を掴んで引っ張って行く。
「あ、何だよ、亜美ちゃん」
「のぎちゃんに聞かれたくないの、こっちへ来て」
道の反対側まで連れて行かれた国也。
「あの、のぎちゃんが好きな男の人がいるって言ってたんですけど、知ってます?」
残念だけど僕のことじゃないんだ、と言いたい国也だったが、亜美にそんなことを言えるはずがない。
「知らないけど・・・」
「えっ!知らないんですか?おじさんは、のぎちゃんの保護者なんでしょ、それくらいのこと、しっかり監視してなきゃいけないでしょ、もお!」
なぜか、亜美に怒られてしまう国也である。
「話しは終わった?」
戻って来た亜美に、乃菊が聞く。
「ちょっと、役に立たない人ですね」
「そうでしょ」
乃菊と亜美が笑う。
「亜美!」
局の前に停まった車から呼ばれる亜美。
「あ、お母様だ。のぎちゃん、さようなら」
「バイバイ」
亜美が母親の座る後部座席に乗り込む。・・・運転手付きなのだ。
車はすぐに走り出し、後ろの窓から手を振る亜美の姿が見える。
「あの人は、菊野さんのおじさんだったわよね。独身なの?」
「そうよ、それが?」
「好きだったりするの、亜美は?」
「冗談を言わないでください、お母様。趣味じゃないわ、あの方は・・・」
「そう、良かったわ」
だそうです・・・。
「ねえ、おじさん。もし、私と休みにどこかへ行くとしたら、どこへ行きたい?」
帰りの電車の中、乃菊と国也は、並んで座っていた。
「んー、君と一緒だと、人目を気にしなきゃいけないから・・・」
「私と一緒じゃ嫌なの?」
「そ、そんなことないよ・・・」
「じゃあ、どこ?お城?」
「お城も行きたいけど、たまには、映画もいいかな・・・」
「じゃあ、映画にしよ!」
「いつ行くの?」
「内緒・・・」
乃菊は、窓の外を眺める。雨が降っていた・・・。




